今回のシンポジウムをバックアップしてくださる「医療人」のみなさまからの、プロジェクト応援メッセージ。第5弾です。

テーマは、「これまで医療に携わってきた経験の中で、印象に残っている患者さんとのストーリー」。今回のシンポジウムのテーマでもある、患者さんやご家族に「寄り添う心」をもつことで、医療現場はどう変わるのか。先生方の実感のこもったメッセージを、お届けします。

 

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vol.5
佐田 竜一先生
亀田総合病院

 

 

 

僕は、喫煙患者に禁煙 “交渉”をするように努めている。つい数年前までは禁煙「指導」をしていた。喫煙によって生じる身体的・経済的デメリットと禁煙によるメリットを正確に冷静に話し、禁煙を推奨した。しかし患者の多くは僕の「指導」を受け入れてくれず、僕自身も半ば諦めながら指導をしていた。

 

ある日、検診異常で高血圧を指摘された40代の男性患者が来院した。予想通り喫煙者で、正直なところ「あー、禁煙指導してもまたうまくいかないよなー」と思案していた。

 

その人には2歳の喘息持ちの子供がいたが、僕にはとりわけそのことが辛かった。家族内での喫煙は、子供の喘息発症率を明らかに高めるからである。当時僕にも4歳と1歳の子供がいて、子供の病気への不安や看病の辛さを身をもって知っていたのだ。喫煙は患者の問題だけではなく、子供の問題、ひいては私自身の問題であるかのように感じ、思わず普段の「指導」とは違う形で禁煙の話を始めた。

 

「言いづらいことなのですが、お子さんの喘息は親御さんのタバコで発生しているかもしれないです。僕にも2人の子供がいるのですが、子供の病気への不安は大きいと思いますし、僕自身、あなたの子供さんの喘息のことが心配です。いきなりこんなことをいうのも憚(はばか)られるのですが、僕が必ず協力しますから禁煙してもらえませんか?」

 

若干感情的になっている自分を抑えきれず、患者さんに不快な思いをさせるのではと心配したが、10秒の沈黙の後、「先生がそこまで言うなら僕も考えます。子供のことも大事ですし。ありがとうございます」とおっしゃった。

 

それ以降、僕は「指導」することをやめ、「交渉」することとしている。もちろん喫煙・禁煙についての正確な情報提供は続けているが、それ以上に「僕があなたに対してどれだけ禁煙してほしいと思っているか?」をできる限り伝えるようにしている。

 

医師と患者は指導者と受講生ではない。やっぱり人と人なのだ。僕はあなたに健康を維持向上してもらいたい。その気持ちは常に溢れている。

 

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