今回のシンポジウムをバックアップしてくださる「医療人」のみなさまからの、プロジェクト応援メッセージ。第4弾です。

テーマは、「これまで医療に携わってきた経験の中で、印象に残っている患者さんとのストーリー」。今回のシンポジウムのテーマでもある、患者さんやご家族に「寄り添う心」をもつことで、医療現場はどう変わるのか。先生方の実感のこもったメッセージを、お届けします。

 

----------------------------------------
vol.4
小田切 幸平先生
名瀬徳洲会病院

 

 

「先生、この子、こんなに大きくなりましたよ。出産の時はありがとうございました。」(近所のスーパーにて…)。

 

島には「結いの精神」というのが根付いており、地域のみんなで子供達の成長を見守る風土がある。そのスタートラインに関われているのが離島での産婦人科の仕事である。

 

大学病院にいた時は、年間1000件も2000件もお産がある中で、お産の時にその妊婦さんに「初めまして。」というのが当たり前であった。大学病院の超多忙の当直では、いかに少しでも仮眠をとるかが重要であったので、お産が終わったら形式的な「おめでとうございます。」の言葉とともに、そそくさと当直室に帰って眠るのが基本であった。産婦さんにとっては、一生の中で最も大切なお産の瞬間であるのに、私の中では睡眠が優先される瞬間……。それくらい心に余裕のない日々であった。でも何か心の片隅で、これでいいのか、という思いがあった。

 

そして10年前、縁あって奄美に来た。

 

ここでは当院で唯一の産科医であるがゆえに、お腹の中の赤ちゃんの米粒大の時から産声をあげる誕生の瞬間まで、すべてに関わることができる。しかし、どんなに妊娠経過が順調であっても、お産の時に急変なんていうのはよくあることであり、ひとつひとつのお産は緊張の連続である。そして島では一人一人の妊婦さんが誰かの知り合いであったり、近所の人だったりで、どこかでつながっている。そのぶんプレッシャーは非常に大きいものがあり、無事生まれた時は心よりホッとする。

 

だからこそ、一つ一つのお産に真心を込めて、「おもてなし」と「サプライズ」の精神で接することが重要と考えている。元来、私は人を喜ばせることが好きな性格であり、妻や家族の誕生日にはいろんなサプライズを仕掛け、喜ばせ、家族の絆を深めてきた。

 

結婚式のプランナーではないが、人が喜ぶシーンを演出するのも我々医療者の仕事であると思っている。そして無事生まれて、さようなら、ではなく、その子たちのその後の成長を地域で見守ることができるのも、離島の産婦人科医の醍醐味だ。

 

先日、そんな私が10年前に取りあげた子が職場体験で産婦人科病棟に見学に来てくれた。彼女は助産師になりたいと言ってくれた。人の思いはこうしてつながっていくのかな、と感じることができた。

 

いつまでこの島で働くのかわからない。この島が自分の永住の地なのかもわからない。でも、島にいることで学んだことはたくさんある。医師として、人として、成長させてもらった。そんな島の出産・医療を通じて感じた思いを地域の若い世代につないでいくこと、そしてそんな思いを受けてくれた若い世代の子供たちが、将来、島を支えてくれる時が来ること、それこそが私がこの島に対してできる恩返しなのかな、と思っている。

 

その時まで、地域の方々に支えられながら地道に頑張りたい。

 

新着情報一覧へ