卵巣がん：診断と治療を支えたい！AIを用いた新規予測システムの開発

“がんの性格”を知るためには？　

①　遺伝子的解析で何が分かるの？

 

Aさん「順調に支援が集まっていますね。」

Dr. K 「多くの方々に応援頂いて、本当に有り難く思っています。さて、第1回目では ”卵巣がん” について、第2回目では、“AI” について解説してきました。」

Sさん 「研究対象の卵巣がんや、利用する新しい技術である人工知能“AI”については、よく分かりました。では、今回の研究で、医療画像の他に AI に教える “がんの性格” とはどのようなものがあるのですか？」

Dr. Ki 「それについては、私が解説しましょう。今回の研究では、新しく①遺伝子的解析と、②生物学的解析の、2つの解析情報をAIに学習させることを計画しています。今日は第3回として、遺伝子的解析について説明していきます。」

 

Sさん 「“遺伝子”というのは、何ですか？」

Dr. Ki 「中学・高校の生物の授業で習ったと思います。私たちの身体を構成する細胞の核には、生命の設計図と呼ばれるDNAが格納されています。このDNAには、実際に細胞の活動を司っている数多くのタンパク質の情報が書き込まれています。このタンパク質の設計図を “遺伝子” と呼んでいます。ヒトのDNAは全部で約2万種類ほどの “遺伝子” 、つまりタンパク質設計の情報を持っています。」

Sさん 「ということは、細胞では2万種類の遺伝子全てからタンパク質が作られているのですか？」

Dr. Ki 「いいえ、DNAに情報が入っているすべての “遺伝子” が、タンパク質を作るのに使われるわけではないのです。細胞によって、働いているタンパク質は異なっていて、これが、例えば、皮膚の細胞や脳の細胞など、細胞の種類や役割を決定しています。」

Sさん 「なるほど、細胞ごとに、使っているタンパク質が違うのですね。」

 

Sさん 「では、どの遺伝子からタンパク質をつくるかは、どのように決めているのですか？」

Dr. Ki 「ここで活躍するのが、RNAという分子です。DNAから、作りたいタンパク質の設計情報を読みだした（生物用語で “転写” と呼ばれます）分子で、実際のタンパク質はRNAを鋳型として合成されています（こちらは “翻訳” と呼ばれます）。つまり、細胞内でどのようなRNAが転写されているかが分かれば、作られるタンパク質も分かり、細胞の種類や役割も分かるのです。」

Sさん 「つまり、RNAを調べると、その細胞が分かるのですね？」

Dr. Ki 「そのとおり！細胞内で作られているRNAは “発現している遺伝子” と呼ばれます。今回の遺伝子的解析では、この遺伝子の発現を詳細に調べる予定です。」

 

Sさん 「がん細胞の遺伝子発現は、特別なのですか？」

Dr. Ki 「これはがんという病気の特徴なのですが、がん細胞というのは元々自分自身の細胞なんです。なので、がん細胞のDNAに書かれている設計図は、そのほとんどが自分の細胞と同じです。しかし、加齢や様々な刺激によって、少しだけ変わってしまうことががん化の原因になると言われています。その書き換えられてしまった情報の影響で、細胞の性質が変化します。例えば、細胞が異常に増殖したり、身体の別の場所に移動しやすくなったり、薬剤の効き方が変わったりします。このような状況も、がん細胞の中の遺伝子発現を調べて、正常な細胞と比較することで、何が起こっているのか類推することが可能です。」

Sさん 「それが、今回の研究で解析に入れる“がんの性格”であるということですね。」

Dr. Ki 「はい。まずは患者さん各々のがん細胞がどのような細胞なのか知らないと、始まりませんからね。」

 

Sさん 「今回のプロジェクトでは、遺伝子解析によってどのような効果が見込めるのですか？」

Dr. Ki 「本プロジェクトでは、これまでの “AI” を使った治療効果・予後予測の解析手法をさらに発展させて、予測結果の根拠を説明できるようにすることで、患者さんや医師の皆さんが、AIの解析結果を信頼できる様になります。このような治療戦略を立てる助けとなるシステムを開発することが目標です。そのためには、患者さんのがんの性格を詳細に知る必要があります。現在は、全ての遺伝子の発現量を明らかにすることが可能になっており、遺伝子発現情報は細胞の性質を知るには非常に有益です。」

Sさん 「遺伝子解析によって“がんの性格”を知ることができ、治療の選択につながるのですね。」

 

Dr. Ki 「第一目標を達成したことで、患者さんからご提供いただいた検体から遺伝子的特徴（遺伝子発現情報）を取得して、AIに組み込む目処が立ちました。心より御礼申し上げます。現在チャレンジしている第二目標で、次回説明するもう一つの “がんの性格” である、生物学的解析にとりかかることが可能になります。引き続き、応援を賜りますよう、お願い申し上げます。」

 

 

広島大学統合生命科学研究科

高橋　治子

菊池　　裕

広島大学病院　産科婦人科

古宇　家正