20代前半でアメリカ映画に大きな影響を受けた僕ですが、そのもっと前の小学生低学年の頃に、多大な影響を受けた人がいます。それが手塚治虫でした。「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」「リボンの騎士」「どろろ」「火の鳥」など、もう夢中で読んだ記憶があります。その頃、手塚さんが書いた「漫画家入門」という漫画ではない本を買って来て、真剣に漫画家になろうと思ったことがあります。でも、けっきょく最後まで書き上げたことはなく、いつの間にか熱も冷めてしまいました。

 

しかし、30代になって戯曲を書くようになった頃、ある人に「田窪くんの物語は明らかに手塚治虫に影響されているね」と指摘されたことがあります。ハッとして自分の半生を振り返ってみると、思想や哲学や美学など、人生の根本的な部分でかなり色濃く影響を受けていることを再自覚しました。僕の作品には死生観を扱ったものが多いのですが、その大部分が「火の鳥」からの影響だと改めて気づかされました。もちろん山本周五郎や司馬遼太郎や池波正太郎など大人になってから読んだ小説などからも大きな影響は受けていますが、ファンタジー色の強い物語などは明らかに手塚治虫さんの世界観を無意識になぞっています。

 

現在、手塚さんの亡くなった年齢を過ぎた僕ですが、お釈迦様の掌の上を行ったり来たりしている孫悟空のようなもので、未だに手塚さんの掌からは飛び立てないでいます。しかし、手塚治虫が新作を発表して来た同じ時代を生きて来られたことを感謝せずにはいられません。それは今の若い人たちが過去の作品として個人的に手塚治虫に出会うのとではエネルギーの爆発力が違うのです。

 

「漫画家入門」という本の中で、今でも覚えている一節があります。「漫画家になりたいのなら漫画だけ読んでいたのでは駄目です。映画を見たり小説を読んだり、絵画を見に行ったり音楽を聴いたりしてください」確かこんな内容だったと思いますが、当時小学生だった僕は「ええっ、そんなに面倒臭いことしなきゃ漫画家になれないの?」とがっかりした覚えがあります。でも60歳を過ぎて思います。映画も小説も絵画も音楽もなんて面白くて楽しいんだろうと。

 

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