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日本翻訳文化賞受賞者が18世紀チェコを描く『暗黒』を出版します

浦井康男

浦井康男

日本翻訳文化賞受賞者が18世紀チェコを描く『暗黒』を出版します
支援総額
1,163,500

目標 1,000,000円

支援者
85人
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2016年02月20日 08:34

コニアーシュの説教

 

 

 

 以下は、フス派の書物三万冊を焼き捨てたという伝説のある、イエズス会士コニアーシュが、大衆をカトリックに改宗させるために行った説教を、イラーセクが再現したもので、凄い迫力です(字数制限をクリアーできるように、一部省略しています)。

 

 

 宣教師の姿が人々の頭越しに、説教台に登る階段上に現れた。黒いかさ高のビレッタ帽(*カトリックの聖職者が被る硬い四角形の帽子、↑birett)を被り、黒い修道士服を着て幅広の黒い帯紐を締めたコニアーシュ神父が、ゆっくり階段を登って行った。彼はあたかも何か重いものを背負っているかのように、肩を少し下げていた。

 

 人々の前や周囲で、説教師と彼が身につけているものに対して、鎖、そう鎖に対して、ざわめきと大声と驚きや恐怖の叫び声が上がった。手に大きなキリストの磔像を持った彼は、階段を登り説教台の上に立ったが、その時すべての群衆にその鎖がはっきり見えた。

 彼は大きな環でできた鉄の鎖を首から胸の所で二重に巻き、その端の輪は鉄の(かぎ)で繋がれていた。この重たい数珠は輝かず、その時はぶつかって音を立てることも無かった。青ざめた顔でビレッタ帽の下から乱れた髪がのぞくコニアーシュ神父は、下のざわめきが静まるまで、じっと立っていたからである。

 

 そしてこの静けさの中、群衆の頭上に良く透る力強い彼の声が響き渡った。「諸君、篤い敬虔な心で聖霊に加護を求めよう。どうか私たちの悔いる思いに対して、神の光が私たちを照らして下さるように。」

 

  彼は説教台の脇の大きな十字架に向かい、頭から帽子を取ってひざまずくと鎖が音を立て、彼は組み合わせた両手に顔を傾けた。教師のヴォンドジェイツは説教台の下で「我らが父、愛する主」と歌い始めると、周囲を取り囲む群衆も、階段の所にいた町の主だった者も、この古い歌を歌い始めた。説教師が頭を傾けるとその黒っぽい髪のうなじの上方に赤いこぶの塊が突き出していた。それはチャースラフ地方での最近の遠征の際に受け取った田舎流の歓迎の結果であった。彼はひざまずき少しも動かず恭順な祈りに耽っていた。

 

 歌が終わるとコニアーシュ神父は急に立ち上がり、せかせかと前に進むと彼らの方に顔を向け、帽子もかぶらず磔像を手にして手すりの所に立ったのを、彼らは目にした。彼の背後の陰鬱な空に黒雲が沸き上がってきた。

 

  息苦しいほどの静けさだった。その中に恐ろしい威厳に満ちた声が響いた。

 「A porta inferi erue, Domine, animas eorum  ―― 」そして宣教師は、少し明るい声でその意味を解き明かし始めた。

 

  「聖なる教会は、死者に対する時課の祈り(*決まった時間に捧げられる祈祷)の際、三度この詩句を繰り返す。A porta inferi erue, Domine, animas eorum、つまり、主よ、彼らの魂を地獄の門より解き放ちたまえ。地獄の門より、永遠の苦しみと終わり無き責め苦より、永遠の闇と永遠の業火より、地獄の奈落より解き放ちたまえ。そこでは人間の最大の敵である悪魔が支配している。」そして彼は悪魔とその醜悪な姿を述べ、彼らが天上から追放された時からすでに、人間に対してどの様な陰謀を企てているかを述べた。コニアーシュは、三百年前、聖ヤン・ネポムツキーを溺死させたヴァーツラフ怠惰王(*ヴァーツラフ四世、在位1378-1419、チェコの名君カレル四世の息子)がチェコを治めていた時、悪魔がこの地でどの様なご馳走を用意していたのかを述べていた。この王はありとあらゆる放埒に身をゆだねたので、ちまたではチェコ王は眠り、ヴァーツラフは大いに飲み食いして、すべての欲求を放任していると言われた。

 

  彼は続けた「悪魔はこれを見て取ると直ちに、自分の首に幾つかの種袋、つまりフシネッツのヤン(*ヤン・フスのこと)をくくり付け、プラハとチェコ王国の全土を歩き回り、異端の教えの忌まわしい黒い毒麦を熱心に撒き続けた。そのため間もなくチェコでは、小麦より毒麦の方が多くなった様に見えた。」

説教台の上からコニアーシュは、左手と十字架を持った右手を振りながらさらに続けた。悪魔が送ったフスがコンスタンツ(*語注34)で焚刑にされた時、悪魔は直ちに別の種袋、つまりヤン・ジシュカを用意した。悪魔は彼を通してチェコに恐ろしい殺人、略奪と暴動、姦通、窃盗をまき散らし、人の血と主に聖職者に対する容赦のない流血を広めた。ジシュカが恐ろしい病で亡くなった後、悪魔は新しい種袋、つまりカルバンとルターをくくり付けたが、この者たちは人間ではなく蛇であり、自分の教えの甘い毒で幾つもの王国や地を毒殺し、チェコ王国もまたそうであったと。

 

   コニアーシュは述べた、チェコにおけるカトリックの教えの光は、ほとんど消えるところだった、もし慈悲深い神が白山の戦いで、神聖ローマ帝国皇帝でチェコ王でもあるフェルディナント(*二世、語注69 → 白山の戦い)の敵を打ち破り、皇帝軍に勝利を授けていなければと。これは、唯一成聖のカトリックの信仰に対する最大の敵でもあった。「あの白山で聖なるローマ教会は、この上なく輝かしい聖母マリアのお取り成しによって勝利した(*語注60 → 勝利の聖母マリア)。そしてさらに勝利し、神のご加護によって異端の残滓を平定し、さ迷える羊たちを導いている。それらはルターに従い、他の者はヤン・フスの後を、また別の者はカルバンに従い、また他の誘惑者たちに従っている者である。そしてこれらの誘惑者が一番多いのが、この国である。」コニアーシュは言い放ち、あたかもそれらの者を指し示すかのように、右手を自分の前で振り次のように繰り返した。

 

  「実際この地はどこも、貴族の領地でも町でも村でも、まだ多くの者が迷いの闇にいる。彼らにとって異端の書物は今でもこの上なく大切なものであり、この上なく貴重な秘宝として隠し持っている。もし隠し場所や地下室、長持ちや戸棚が、部屋や丸太小屋や納屋がしゃべることが出来るならば、それらは私たちにピカルト派(*ピカルディはフランスの地名だが厳格な宗教改革者カルバンの出身地のため、チェコではフス派と同胞同盟に対する侮蔑的な呼び名で使われた)の禁止された聖書がここにあると言うだろう。もしわら束がすべて崩れ落ちるならば、そこから同胞同盟の説教集やルター派が秘かに持ち込んだジタヴァの祈祷書と聖歌集も転げ落ちるであろう。

 

  しかし文字が読めるこれら頑なな者たちは、この恐ろしい罪が彼らの罪状を記す棒にしっかりと刻まれ、債務目録に書かれていることを忘れている。彼らは自分が盲目であることも知らず、自分たちの方が僧や学者より、ずっと良く聖書が分かっていると思っている。自分でそれを解釈し、それについて賢そうにあれこれ考えている。それは一体誰だろう。どうかお聞き下さい。そこには豚飼い、牛飼い、鉱夫、百姓、さらに医者気取りで薬草を使う老婆と、聖書を読み解く者が含まれる。おお、不幸なモグラよ、盲のフクロウよ、彼らはあらゆる盲人の誘惑者である、ジタヴァの住人やフス派の識字者を信じている。」

 

  彼はこれらの言葉の間、自分の言葉の流れを一瞬も止めないまま、気付かずにキリストの磔像を手すりの上に置いた。そして一気に畳みかけるように語り続けた。彼の声は強まっていたが、次のくだりで和らいだ。

 

  「私は、頑なな心で自分の迷いを認めようとしない者たちの石のような頑固さに対して、血の涙を流すであろう。もしここで私の前に、あらゆる疑わしき愛国者や読み書きの出来る者がいるならば、これら全ての者の一人一人の足元に私は伏して、イエス・キリストのすべての傷(*イエスが十字架に架けられた時受けた、左右の手足と脇腹の5箇所の傷で聖痕と言われる)を通して、彼らが永遠に見捨てられることのないように、私は一心に祈るであろう ―― 」。 彼は手を高く組みながら前方に身を屈めて言った「罪深く賢ぶることなかれ、自分の魂を見捨てることなかれ。」

 

  彼は突然背を伸ばすと、大きな十字架に近寄りそれを指し示して、激しく差し迫った声で呼びかけた。

  「こちらへ、このイエス・キリストの下に来れ、まだ迷っている者たちよ、フスとルターの教えを信じている者たちよ、迷いの書物を隠し持っている者たちよ。ここに来れ、親愛なるチェコ人たちよ、偽りの読み物で迷わされた愛国者たちよ、ここに思いを、ここに心を寄せよ。そしてすべての力を惜しまずに、理性を唯一成聖のローマの信仰に向かわせよ。」

 

  聴衆はこの熱狂した言葉の間、さらに静まり返ったかのように声一つ立てなかった。彼らは皆、彼の燃え上がる熱い言葉に、心を剥ぎ取られたかのように彼を見つめていた。

 その時コニアーシュは素早く十字架から離れ手すりの際まで行くと、身を屈めて磔象を手に取り、高くそれをかざして激しく呼びかけた。その時森番は雷に打たれたようになった。

 

 「Redite ad unitatem ! 統一に戻れ、唯一成聖のカトリックの信仰に帰れ、異端の書を捨てよ、迷いを拒絶せよ。信仰の唯一性を乱す者、唯一の信仰を口と心でも言うが、内面では心の底からは告解していない者は、唯一の神の下には永遠に達しない。」

  高く掲げた磔像を震わせながら、彼は燃えるような目でこのように叫んだ。

 

 この言葉は森番の魂に響き渡った。彼はここでもまた聞くことになった、彼を長い間絶えずどこにいても、一人で森にいても家にいても苦しめ苛んでいたことを、また先日の樫の森での夜の集会で、同胞同盟の説教師が彼に投げかけた「人の前でわたしを拒む者を、わたしも天にいます私の父の前で拒むであろう」の言葉を。それは神が今そのイエズス会士を通して、再び彼に思い起こさせたことであった ―― 彼の良心は激昂した。

 

 「唯一の信仰を口と心で言うが、内面では心の底からは告解していない者 ―― 」この言葉は彼の耳の中で響き、頭の中を駆け巡った。彼はさらに宣教師の説教を、彼の言葉や叫び声を聞いていたが、それらの意味はもう上の空であった。「人の前でわたしを拒む者は― ―」

 

 森番の前には沢山の頭があった、男たちの毛髪の豊かな頭も禿げた頭も、女たちの帽子を被った頭も、色取り取りのスカーフを巻いた頭も。そのまだらな塊の上方に説教台の赤いラシャの帯が、その上方に黒い僧服を着た青ざめた僧がいた。その後ろの高い十字架の背後では黒雲がわいていた。その陰に入ると家々のまた群衆の様々な色は輝きを失った。巨大な暗い天幕の下にいるように曇ったのである。

 黒雲の下の息詰まる静けさの中に宣教師の声が響いた、それは穏やかに説く時もあれば、すぐまた轟くような大声になる時もあった。

 

  だが突然コニアーシュは、大きな磔像の中ほどを下から掴むと、手すりを越えて身を乗り出し、それを下方に突き出した、あたかもそれを群衆に投げつけようとするかのように。そして燃えるような目をかっと見開いて、激しく呼びかけた。

 

  「ここに主キリスト、神の子がいる。おまえ達はここで彼を捕らえている。彼を鞭打て、蹴りつけ唾を吐きかけよ、彼をもう一度磔にせよ、もし自分の迷いから自分の頑なさから、抜け出したくないならば。」

 

  群衆はあちこちで肝をつぶし身震いをし、声にならない声を発し、また押し殺した声で叫んだ。人々はみな痺れたようになり呆然としてじっと見開いた目で、再び背を伸ばしさらに話し続ける説教師を見つめた。始めは訓戒し請願するような口ぶりだったが、今や神の怒りと罰と劫罰(こうばつ)で脅し始めた。

 

  「O nox, quam longa es, quae facis unum senem(*一人の男を老人にする夜は何と長いことだろう)このように詩人マルティアリス(*40-103頃、スペイン出身のローマの警句詩人)は言う。つまり、晩から朝までに人が白髪になってしまうその夜は、ああ何と長いことだろう。人は恐ろしい体験をすると、一晩で白髪になる。しかしそのような夜に対して、あのこの上なく長い夜では、その後に日が昇ることは無く、永遠の夜が続く。そしてそれが地獄なのだ。」

 

 そして昨夜と同様に、彼の目前に地獄が現れたかのように、前を見つめながら地獄の様子を描き始めた。額から汗が吹き出したが、息をついて休むことは一時も無かった。彼は興奮して語り、仕草はより急激になり、彼の動きもより激しくなった。彼は十字架に近寄ったかと思うと、再び急ぎ足で手すりの際に行った。市役所の階段の所にいる者たちに顔を向けたかと思うと、再びそして一番多くは大群衆のいる正面の広場に顔を向けた。手を振り回し、磔像を振りかざし、突然左手で鎖をつかむと、それを揺すって大きな音で鳴らし、見よこれは悔恨の印であると叫びながら、それを高く差し上げた。しかしそれはまた、判決を受けた悪人が報いを受ける牢獄と地獄の鎖を、いかなる解放も無い地獄の永遠の牢獄を思い起こさせた。

 

  「そこでは、劫罰を受けたこの上なく哀れな者たちの目に絶えず映るのは、恐ろしい悪魔のような怪物や醜い化け物や悪霊であり、彼らの耳に休むことなく達するのは、恐ろしい叫びや罵りや嘆きの声であり、彼らの舌には苦みが、口には消えることのない渇きが、胸には身の毛もよだつ恐怖が、腹には狼より酷い飢えが、そして全身は地獄の火で焼かれている。しかしこれらの苦しみの中で最悪のものは良心で、それは彼らをウジ虫のように休むことなく蝕むが、彼らは決して死ぬことは無い ―― 」

 

  黒雲が飛ぶように高く昇り重なり合い、巨大な黒雲に合流した。風が吹き始めた。その風で説教台の赤いラシャの布がはためき、コニアーシュの青白い額の上の乱れた髪が揺れた。そしてちょうど地獄の恐ろしい苦しみを述べていた時に、髪は頭上に舞い上がり、まるで恐怖で逆立っているように見えた。

 

 説教台の下の大衆の頭上には、黒雲の陰と無言の恐怖が濃くなった。しかし突然静かに稲妻が光ると、群衆全体に不安と怯えた動揺が見て取れた。肝をつぶした人々は十字を切った。その時透かさずコニアーシュは、彼らの頭上で轟くような声で呼びかけた。「十字を切り、神の使いのあの稲妻を恐れよ。しかし稲妻の火は地獄の火に比べたら一体何なのだ。稲妻の轟きは地獄の嵐に比べたら一体何なのだ。」その時この息苦しく恐怖に満ちた静けさの中に、女の怯えた叫び声と号泣が突然響き、直ちにそれに絶望的な痙攣したような泣き声と、激しいむせび泣きが加わった。恐怖に駆られた女の周りで喧騒が生じ、その動揺は突然の大波のように、大衆のはるか先の方まで駆けていった。

 

 森番は説教師がすぐに騒ぎを鎮めたのをもはや見なかった。説教師の声はその場を支配し、すべてのものを縛り付けているように見えた。彼は少し高い声で群衆に呼びかけた。悔い改めるように、特に秘かな迷い人は。どうか闇の侯の悪魔の、野蛮な暴君には従わず、慈愛に満ちた王イエス・キリストに向かい、彼の聖なる傷によって守られた町と城に避難するように。ここからは悪魔や迷いと安全に戦うことが出来よう。かくして地獄の永遠の闇は彼らの脇を通り過ぎ、体を備えた神、自分の救世主を見ることが出来よう ―― アーメン。

 

 コニアーシュは汗まみれになって、さらに青ざめておぼつかない足取りで説教台を降りていった。その時司教館の教会の鐘楼で鐘が鳴り始めた。その鐘の音は、広がる黒雲に対してどうか災いや破壊をもたらさないようにと祈っているかのようであった。

 

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リターン

3,000円(税込)

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出版の援助

・エルベン『花束』(私家本)
ドヴォルジャークの交響詩の原作が含まれており、日本語で読める全訳は本書だけになります。

支援者
8人
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2016年8月

5,000円(税込)

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出版の援助

・エルベン『花束』
・ムハ(ミュシャ)のスラヴ叙事詩の解説(CD版)

支援者
17人
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発送予定
2016年8月

10,500円(税込)

『暗黒』の予約購読

・本書(上下巻)の予価(12000円)の2割引き(9600円)+消費税(960円)で端数切り捨て、送料は当方負担

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2016年8月

20,000円(税込)

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『暗黒』の予約購読と既刊の『チェコの伝説と歴史』を合わせたもの

・同じ作者の作品の『チェコの伝説と歴史』と今回の『暗黒』を組み合わせたもの

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2016年8月

30,000円(税込)

『暗黒』の予約購読(3組)

『暗黒』の予約購読(3組)
(協会などでまとめて予約し、一か所に送る場合)

支援者
0人
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2016年8月

50,000円(税込)

『暗黒』の予約購読(5組)

・『暗黒』の予約購読(5組)
(協会などでまとめて予約し、一か所に送る場合)

支援者
0人
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2016年8月

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