東日本大震災12年、被災者100人で創るミュージカルを石巻圏で！

ミュージカルの出演者で、石巻日日新聞にミュージカルのこと等をコラムとして掲載してくださっている「小野　眞理」さんの記事をご紹介いたします。

※石巻日日新聞社さんには、掲載の許可を得ております。

石巻日日新聞「潮音」③伝えるには

　焼肉屋の若旦那から牛タンの部位について説明を受けました。「タン先は筋肉質で硬いが、かむほどに味が出る。タン中・タン元は脂肪がついて先よりは柔らかい。好まれるけれど値段も高い」。それでは食べ比べとばかりにタン先から口にほおばって、モグモグするうちに妄想が始まりました。

　そっかぁ、よく使うと筋肉質か。だったら、お喋りな人とそうでない人、母語で巻き舌を多用する人とそうでない人では違うの？この１０年、ゴスペル（英語）を歌っている私の舌は筋肉質になってたりして・・・。やめ、やめ、牛タンを食べられなくなっちゃう！

　人は歌う時、全身の筋肉を駆使するのだそうです。顔の表情筋・口・喉・声帯・横隔膜はもちろんのこと、姿勢も大切で、腿・脚の筋肉も使います。歌う人にとって身体は楽器なのです。筋肉トレーニング、ボイストレーニングが流行るはずです。

　もう一つ、歌詞覚えという立派な脳トレもプラスせねば。私は幼いころから歌うことが好きでした。生まれ育ったのは演歌・ムード歌謡が全盛の昭和３０年代。しっかりとそのブームにのって、当時はラジオやテレビから流れるメロディーをすらすら覚え、片っ端から口ずさんでました。

　十八番（おはこ）は園まりの『逢いたくて、逢いたくて』。歌詞の意味など知る由もなく得意げに歌っていた私・・・よくまぁ！不謹慎と、とがめられなかったこと。さすがにこの年頃になると、歌詞の意味や心情に我が意を得た曲だけがレパートリーとなり、思いっきり歌って自己満足していました。

　ところが、『ミュージカルの歌』は違うのです。ミュージカルでは、歌を聴衆の心に響くように歌わねばならないのです。歌詞の想いを伝えねばならないのです。さぁて、ど素人はいったい、どうすればいいのでしょう？

　それがです、寺本監督の手にかかるとあぁ～ら不思議！みんな知らないうちにミュージカル俳優になっているのです。監督の稽古はとにかく面白い！だって初っぱなから「歌っちゃダメ」ですからね。「下手ぁ～」「きれいすぎる」の突っ込みに大笑いしているうちに、少しずつ気づかされてるのです。なになに、歌詞の中にある感情、熱情をしっかり感じるのね。この人に伝えたいと思って歌うのね。そっかぁ。心を込めると、それなりに相応しい声と表情になるんだぁ。しめしめ、分かってきたぞ！

　練習を始めて５カ月、俳優のたまご達はそろそろふ化しそうです。あのドキドキする独唱も、「一生懸命やる人は恥ずかしくない」の言葉通り、怖くなくなりました。

　１０年前、支援に感謝する「ありがとうの歌」を劇中何度も歌い、震災直後の喪失感や悔しさ、辛い気持ちは声をからして歌った私達。来春歌う曲もすこぶる良いのです。これらの楽曲を皆さんに届けたい。今はそんな気持ち満々でお稽古しています。

　さて先日、家で発生練習をしていると、カラスが屋根の端っこからこちらをのぞき込むのです。私の「あぁ～、あぁ～」、カラスの「かぁ～、かぁ～」。しばし掛け合いが続きました。チャンスとばかり、優しく「お友達になりませんかぁ～、かぁ～、かぁ～」と歌ってみると・・・えっ！あらっ？飛んでった。

小野　眞理（おの　まり）

１９５７年（昭和３２）年生まれ、石巻市出身、宮城学院女子大学卒業。

歌をうたうのと野山の散策が好きな主婦で、石巻市の環境保全リーダーとしても活動している。同市鋳銭場に夫と２人暮らし。

「心の復興１３回忌ミュージカル１００通りのありがとう」実行委員幹事として、来年３月４日の公演（東松島市コミュニティセンター）に向け練習中。