八代健正・美歩が行く富崎再建珍道中②

NPO南房総リパブリックの理事長 馬場さんが書き記して下さっている僕らの挑戦の軌跡その２です。　僕らの想いを汲んで書いてくださいました。ありがとうございます。

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今回は、八代健正さんの話・前編です。

 

健正さんといえば、「NPO法人おせっ会」の顔。館山への移住でお世話になっていない人がいないのではないかという地域内外の架け橋的な存在です。加えて北条海岸にあるアウトドアアクティビティ施設「SEA DAYS」の大黒柱でもあり、地域のブランディングにも貢献しています。

 

そんな健正さん、もうまちがいなくバリバリ地元の人かと思いきや、実は中学2年の時に稲毛海岸から富崎へ引っ越してきたそうです。お母さんのご実家が富崎館だったとのこと。

「でも僕の生まれ故郷は、ここ富崎なんですよね。稲毛海岸は開発が進んで思い出の風景は跡形もなくなっちゃった。ここが唯一、自分の歴史をつなぎとめてくれている場所なんです」。

 

富崎館は、そもそも新橋の天ぷら屋さんが開業した宿だったそうです。2代目は釣り船を出して観光と宿を紐づける新しい業態を生み出しました。

そして3代目で、健正さんのおじいさん・黒川三平さんが引継ぎました。役場勤めの元軍人さんで、自分よりも地域を優先し、旧富崎小学校に寄付をするなど徳の高い人だったとのこと。

地域のお祭りの時はいつも、おじいさんから「健正、おまえはお祭りはやっちゃダメだ。富崎館はお神輿をお迎えして、もてなすのが役目なんだから」と言われていたそうです。それを聞き、健正少年は何とも言えない満ち足りた気持ちになったそうです。「ここで、誇りと責任を持って生きていくのっていいな」と。

4代目となるお父さんが経営していた富崎館で働き出したのは、健正さん23歳の頃。数年後、お父さんから「俺辞めるわ」と言われ、若干26歳で跡継ぎになる決意をします。そこで経理の帳簿を見直してみると、増築や風呂の改装をじゃんじゃん進めたバブル期の借金が２億円もあることを知り、仰天したといいます。

「当時銀行は、返済期限前の一括返済、いわゆる“貸し剥がし”をしていた頃。それが自分たちの身に降りかかるとは思っていませんでした。富崎館も瞬く間に窮地に追いやられました。そんなことをされたらひとたまりもない。僕は死ぬ気で、銀行の担当者を説得したんです。しつこくしつこく食い下がって経営プランを説明しているうちに、いつの間にか銀行の担当者からかわいがられ始め、ついには『そこまで言うならがんばれ』と貸し剥がしの難を免れました。それが僕の、富崎館の出発点です。よーし新しいことをするぞ！どころではなく、借金返済から始まったのです」。

 

富崎館経営再建のプレッシャーがある中、地域への思いからNPO法人おせっ会を立ち上げるなど、彼の忙しさは日ごと増していきました。どこを向いても課題だらけで息もつけない状態は、健正さんの身体を知らないうちに蝕んでいきます。36歳で突然、声が出なくなったそうです。その後も公私ともに難しい局面が続き、心のバランスを崩して苦しむ日々が数年続いたといいます。

「あの時は、美歩に悪かったな」と、ぽつりとつぶやきます。
「男、女、男、と3人のこどもがいる中で、美歩は格別お父さんっ子でね。長男に空手を教えようと思ったら、結局腰巾着でついてきた美歩がのめり込んだり、サーフィンにも美歩がついてくるし。でも、あの時期だけは目をかけてやれなかった」。

隣りでそれを聞いていた美歩さんは「まああの時はパパやばかったね。だから今回、富崎館を立て直すって言い出した時、また精神的に厳しい状態にならないかなあというのがまず心配だったんですよ。でもね、パパと一緒にいると、やっちゃえやっちゃえってなる。2人とも根が陽気だから。あはは！」と、憂いなく満面の笑顔を健正さんに向けていました。

 

（つづく）