皆様のご支援をいただき、公演が無事終了いたしました。
このたびは、カンボジアの聖舞踊団の招聘公演のために多くの方々からご支援・ご協力をいただきました。
なかでもこのページを通じたクラウドファンディングでは、皆様からたくさんのご協力と温かい応援メッセ-ジをいただきました。お蔭様で公演を無事終えることが出来ました。舞踊団一行及び当地関係者に代わりまして厚く御礼を申し上げます。
5回の公演、「ラーマーヤナ」やアプサラダンスなどを披露
舞踊団は多くの思い出を残して4月3日、無事成田を出発し、故郷に戻りました。滞在中5回の公演を行いました。それぞれが異なる演目でしたが、3月29日にはすみだトリフォニーホールの大ホールで長編舞踊劇「ラーマ―ヤナ」が演じられました。ラーマ王子が、誘拐された妻のシータ王女を取り戻すためにサルの大軍を率いてランカに遠征する物語です。秋篠宮同妃両殿下が御臨席され、その多彩な舞踊を御覧いただきました。サルのユーモア溢れる可愛い動作は多くの人を楽しませてくれました。
翌日行われた日本外国特派員協会での演舞は、近い距離から舞踊を身近に見ることができましたが、その清楚で洗練された動きにとても心を打たれました。カンボジア料理を楽しみながらの懇親会は盛り上がり、最後は古典楽器に合わせて参加者と踊り子たちが一緒に輪になって踊り、予定時間を相当オーバーしてしまいました。とても楽しい夕べでした。
千駄ヶ谷駅近くにある鳩森八幡神社の能楽殿では舞踊団が「アプサラダンス」を披露しました。踊り子たちが自分で丁寧に編んで造った上品な衣装などを身につけて並ぶと、あたかもアンコール遺跡の彫刻に刻まれた天女達がそこから抜け出してきて日本の能舞台に立っているような錯覚を覚えました。その純粋無垢な姿は不思議と能舞台にマッチして実に美しかったです。アプサラとは天女のことですが、この日は日本の能の「羽衣」も演じられました。両国の天女の舞が披露されたわけです。
最終日は港区の赤坂区民センターのホールでカンボジア伝統舞踊とワークショップが開催されました。舞踊の意味や手の動きの解説もあり、カンボジア舞踊の理解が進んだと思います。ここでも最後は会場から来賓や有志がステージに招かれ、踊り子たちと一緒に輪になって踊りました。和服姿の日本の舞踊家も輪に入り、両国の舞踊交流が実現しました。
カンボジア舞踊の新作「サクラ、サクラ」が初公開
実は、今回の公演は桜が咲く季節でしたので、舞踊団は「サクラ、サクラ」という新しい創作舞踊を何か月も前から準備して練習を重ねてきたのです。衣装も団長が自ら桜をモチーフにしてデザインをし、カンボジアの衣装と日本の着物を融合して作ったイメージでした。そして、カンボジアの古典楽器が奏でられる中で、踊り子たちが日本語で「サクラ~、サクラ~」と謡いながら踊るものでした。団長は、これは桜を愛でる日本の風習や文化に敬意を表すものだと説明してくれましたが、団長と若い踊り子や楽器奏者の凄い意気込みが伝わってきました。「サクラ、サクラ」の舞台は墨田区にお世話になり、両岸に桜が咲く墨田川にかかる桜橋の上を予定していました。しかし、とても残念だったのは、4月1日のその日は朝から冷たい小雨でした。舞踊団は衣装を着て暫くそこで待機しましたが、雨はやまず、結局中止のやむなきに至ってしまいました。強い思いで準備してきた舞踊団にとってはとても気の毒で残念でしたが、その日の午後の鳩森八幡神社の公演で、ようやく新作「サクラ、サクラ」を披露することが出来ました。能舞台での演舞でしたが、これはまさに日本とカンボジアの舞踊が協働して新しいものを「創造」する意味合いを持つものだということもできます。
舞踊分野における日本とカンボジアの「協働の文化創造」
今回の訪日公演には国際交流基金アジアセンターが助成をしてくれました。助成の背景には、日本とカンボジアが舞踊の分野で協働して新しい文化を創ってほしいとの期待がありました。従って、単にカンボジア舞踊の披露だけでなく、公演の機会に、日本の能や日本舞踊である地唄舞の先生方が参加したり、著名な日本のカンボジア研究者がアンコール遺跡に刻まれた天女(アプサラ)の舞踊の歴史や日本における天女のイメージ形成について興味深い講演をしてくれました。
今回はそうした目的の初めての試みでありましたが、その端緒になれば幸いです。
清楚で精神性のある舞踊の背景は?
舞踊団が日本を去った今でも、清楚で気品のある舞踊の動作や団員の純粋無垢な素晴らしい笑顔が強く心に焼き付いて残っています。舞踊団の団員は先生を除き二十歳前後の若者です。全員がとても貧しい村々の出身者です。彼らはとても規律正しく、時間に遅れません。いつも我々日本人に日本語で声をそろえて、「ありがとうございます」「おはようございます」と礼儀正しく手を合わせて挨拶をしてくれます。笑顔が美しいし、目が輝いています。寛いでいるときはとても純真で可愛らしい表情を見せます。
一週間行動を共にしていると、この若者たちの純粋さや舞踊への集中力はどこから来るのかが分かるような気がします。彼らは貧しい村で生活をし、毎日4時間から6時間も舞踊の稽古をしています。学んでいる舞踊は主として、アンコール遺跡の神々に奉納する踊りや祈りの舞です。おそらく貧しい境遇だからこそ、俗事に惑わされることなく純粋無垢な気持ちで稽古する姿勢が自然と身についているのではないかと思われてなりません。人間の生き方についての貴重な示唆を得たような気がします。
この日本公演が実現できたのも、皆様の御支援のお蔭です。あらためて、心より御礼申し上げます。