チリを代表するドキュメンタリー映画監督であるイグナシオ・アグエロ監督が山形県尾花沢市立玉野小学校を訪問し、子供たちと映画を通して交流した貴重な記録・報告が届きました!送ってくださったのは山形国際ドキュメンタリー映画祭のボランティア活動もしてくださっている齋藤寿子先生です。

 

●●「山形国際ドキュメンタリー映画祭参加監督との交流会」報告●●
尾花沢市立玉野小学校
教諭 齋 藤 寿 子
 
1.実施日 平成29年10月12日
 
2.参加者 尾花沢市立玉野小学校 全校児童 70名
 
3.来校者 イグナシオ・アグエロさん
(映画監督、YIDFF’17インターナショナルコンペティション審査委員長)
  加藤 到さん(東北芸術工科大学映像学科教授)
  新谷和輝さん(スペイン語通訳)

4.実施内容・7~10月……映画祭事務局と学校との打ち合わせ
・9月~10月…事前指導
・10月08日…学校側担当者と監督たちとの打ち合わせ①
・10月11日…学校側担当者と監督たちとの打ち合わせ②
・10月12日…玉野小学校にアグエロ監督を迎えて、映画「チャップリンの移民」上映と交流会
 
5.活動詳細
①事前指導1……5・6年生の図工にて
・パラパラ漫画、ゾートロープの制作
アグエロ監督の作品「100人の子どもたちが列車を待っている」の中で子どもたちが体験するパラパラ漫画、ゾートロープによる映画の原理の学習は、今使っている図画工作の教科にも出てくる教材である。自分の思いのままにコマ数を重ねて、楽しみながら制作を行った。友達の作品を見たり、「次はここをこうしたい。」という自分の作品への振り返りを生かしたりしながら、次々と作品ができていった。
 
②事前指導2……1年生の図工にて
・映画祭ポスターへの加筆による「自分だけのポスター」の制作
映画祭ポスターは、黒い線のみで「y」をデザイン化したものである。ここに、自分の描きたしたいものを描いたり、色を塗ったりしながら、自分たちのポスターを完成させて映画祭を身近に感じてもらおうという取り組みである。
 
③事前指導3……監督について、チリについて調べる
・アグエロ監督について知る
監督については、簡単なプロフィールとともに、山形の映画祭での仕事についても知らせた。世界中から作品が送られてくることや、1000本を超える作品の中から上映作品が絞られること、さらに審査をして、賞を決めるということ。その審査をアグエロ監督が担うことなどを知らせた。
・地図帳、地球儀のほかに、チリ大使館からいただいた資料で調べる
「監督はどこから来るの?」「チリってどこ?」「チリってどんな国?」「どうやって山形まで来るの?」監督に関わる疑問を、さまざまな資料を調べて解決させていった。


④交流会……当日の流れに沿ってのアグエロ監督と児童の交流記録
アグエロ監督(以下A):今日は、チャップリンの映画をみんなでみます。この(児童の)中で、チャップリンを知っている人はいますか。
児童:(無言。)
A :誰も知りませんか。でも大丈夫です。これからみんなで知ることができますので。ではこれから、チャップリンが作った100年前の映画を見ましょう。100年前ということは、何世紀に作られたでしょうか。この映画は1917年に作られました。この中で、おじいさん・おばあさんが100才の人はいますか。
児童:98才。
A :この映画の方が、みんなのおじいさんおばあさんより少し年上ですね。100年前に作られたということは、この映画は白黒で、音もありません。その当時は、映画には音はついていませんでした。それではみんなで映画を見てみましょう。そのためには、会場を暗くする必要があります。
―カーテン閉まり会場が暗くなる。―
児童:(ちょっと歓声。)
 
―上映:すぐに、児童の笑い声が起こる。―


―上映が終わり、カーテンが開く。―
A :私にとって、映画を見て笑っている皆さんの顔を見ること以上に楽しくて美しいものはありません。それこそが、この映画の監督チャップリンの偉大なことで、この映画のすばらしさでもあります。
6年男子カイト:最後のウエイターが、お金が偽物か本物か調べるときに噛んで調べていたので、そこが面白かったです。
A :私もあのシーンはとても面白いと思います。
6男コウセイ:白黒でも映画の面白さがちゃんと伝わってきたのですごいと思いました。
A :この映画はみなさんにとってほんとうに面白い映画なんだなと思いました。なぜなら、みなさんが大きな声で笑っていたからです。
3女スズ:船の上で朝ご飯を食べていることころで滑って行ったところが面白かったです。
A :あのシーンでは船が傾いて、チャップリンが転んで立って転んで立ってを繰り返して私も本当に面白いと思います。100年前のアメリカで撮られた映画がどうしてこんなに面白いのか本当に興味深いです。
4女ミク:音も声もなくても笑えるような映画で面白かったです。
A :本当にいいことを言ってくれました。音がなくても映画を見て笑えるということを皆さんわかったと思います。ということは、映画には音は必要ないのかもしれません。例えば、チャップリンが床にあるお金を踏むシーンがありましたが、映画では、バタンという音がありませんでした。では、なぜみなさんがそこで笑ったのかというと、後ろの方にいた音楽家たちが、チャップリンの踏んだ足に反応したからです。
6女マイ:船から降りるときに、警備員さんから何か言われているところが面白かったです。
A :あのシーンはとても面白かったです。みなさんは、この船がどこに到着したかわかりましたか。
児童:港。アメリカ。
齋藤先生:どうしてアメリカってわかったの。
児童:こう(自由の女神のポーズ)していたから。
A :チャップリンは本当に優れた監督だと思います。なぜなら彼はここで、アメリカに着いたとも、ニューヨークに着いたとも言ってないからです。彼がこの映画で出しているのは、自由の土地、自由の国に着いたとしか言っていないのに、それでもみなさんがアメリカとわかるのはチャップリンの表現がとても優れているということです。でも映画の中では自由があるようには見えません。そういうことで、マイさんが言ってくれたことに興味があり、賛成します。
3男レン:豆を一粒一粒食べているところが面白いと思いました。小さなところにも面白いところをつけているチャップリンはすごいと思いました。
A :豆を食べるシーンはわたしも面白くて笑ってしまいます。ここで面白いのはなぜかというと、チャップリンは行儀のいい人、マナーをわかっている人と振る舞っているところが面白いと思います。
1男リョウガ:船に乗ってご飯を食べているとき、あっち向いたりこっち向いたり(身振り手振り)して食べているところが面白かったです。
A :リョウガくんが言ってくれた動きの面白さはわたしも大好きです。
A :この映画を見てみなさん本当にたくさん笑っていたし面白かったと思いますけれど、それで十分です。映画をみて笑ったり何か感情をもつこと、何か思うこと、それで十分です。映画を見た後に、例えば私のような年上の大人が出てきて何かを皆さんに教えるということは必要ありません。ただ映画を見るということだけで十分です。
A :眠くなった人もいるようですが、みなさんは眠くなった時にはどうしますか。私は眠くなったときにはただねたいです。ちょっとやってみましょう。目を閉じて、今見た映画のシーンを思い出してみましょう。みなさん、目を閉じたままで大丈夫です。こうやって目を閉じてねて、そして映画を思い出すのです。


1男ユウキ:ほかにも映画を作ったんですか。
A :とてもいい質問です。二つお答えします。まず、さっき見た映画のチャップリンは150本作りました。みなさんはこのチャップリンという監督の名前は忘れられると思いますか。
児童:忘れる。忘れない。
A :私は、みなさんと同じように幼いころにチャップリンを見ましたが、決して忘れないと思いました。ユウキ君の質問に答えると、私が作った映画は、チャップリンよりずっと少ないです。この映画を作ったときチャップリンは29才でした、とても若かったです。私は今65才ですが、29歳のときのチャップリンが撮った映画は、私が今までに撮った映画よりずっと映画の多いです。私は映画を作るのにとても時間がかかってしまいます。1本の映画を作るのに4年もかかってしまいます。それとは違ってチャップリンはなんと1年間で10本も映画を作ってしまいます。私は「100人の子どもたちが列車を待っている」という映画を作りました。この映画には日本語の字幕もついています。そこで、齋藤先生にお願いがあります。今度、上映してみなさんに見てください。
A :もしみなさんが「100人の子どもたちが列車を待っている」という映画を見てくれたなら、みなさんは決して私を忘れないでしょう。それと同じように、わたしもみなさんがチャップリンの映画を見てたくさん笑ってくれたことを忘れません。
6男タカハシ:アグエロ監督は、どうして映画監督になったのですか。
A :本当にいい質問です。私は映画を作ることが大好きです、なぜなら、何でもやって大丈夫だからです。本当に自由に何でもできるので、映画を撮ることが大好きです。映画を作ることでちがう国の人や違う世界、違う文化の人たちのことを知ることができます。そうやって世界を知っていく方法を私は確かめているのです。だから、映画を作ることが大好きです。これが、私が映画監督をしている理由です。
齋藤先生:アグエロ監督が映画を作っていなかったら、今日玉野小学校に来ることも、山形の映画祭に来ることもなかったんですね。
1女カノ:何本映画を作ったのですか。
A :14本作りました。
齋藤先生:映画作り始めて何年になるんですか。
A :私は28歳で1本目の映画を作って今65才なので37年映画を作っています。14本映画を作ったということは、大体2年に1本作っているということになります。
A :みなさんは大きくなったら何になりたいですか。何をしたいですか。
3男カルマ:スポーツカーに乗りたいです。
3女スズ:ファッションデザイナーになりたいです。
6女マイ:警察官になりたいです。
1男タクト:スノーボード選手になりたいです。
1男ユウキ:サッカー選手になりたいです。
 


加藤到先生:私はいつも大学生に映画を見せて話しているのですが、今日は小学生のみんなが映画を真剣に見てすごく大きな声で笑って、見終わった後もしっかり自分の感想を言ってくれてとても立派だな、とても偉いなと思いました。大学生になると恥ずかしがり屋になって、あんまり自分が思ったことを言えない人が多くなるんです。でもみなさんは思ったことを正直に発表していたので見ていて気持ちがよかったです。
新谷和輝さん:今日はありがとうございました。
A :アリガトウゴザイマス。
 
6.児童の感想(丸数字は児童の学年)
【映画について】
・チャップリンの映画がとても面白かったです。またみたいです。①①③⑥
・豆を食べるときによそ見をしてコーヒーに落としてしまうところ。①③
・船でお皿があっちこっちに行くところ。①①①①②③③③⑤
・お金を調べるところ。①②③③④⑤⑥
・ダンスするところ。①③
・食べ方。①①③③
・動き。滑っていたところ。②②③
・人と人とのやり取り。⑥
・チャップリンが魚を捕っているときに船の端っこにいたから「あぶない!」と思いました。①
・色や音がなくても映画は面白いんだなと思いました。②②②②②③③③③③④④④⑤⑥
・音や色がないのでびっくりしました。それでもちゃんとわかるようになっているんだなあと思いました。③③④⑤⑤⑤
・色も音もないのに言いたいことが、動きや表情だけですごく伝わってきました。③③④④④⑤⑤⑥⑥
・100年前の映画を見て面白かった。②⑤
・昔の映画でも面白いんだとわかりました。③⑥
・とても楽しい時間でした。笑いました。みんな楽しそうでした。②②③③
・またチャップリンの映画を見ていっぱい笑いたいと思いました。③④④⑥
・学校でチャップリンの映画を見ることができてとってもうれしかったです。⑤
【チャップリンについて】
・150本もの映画を作っていてすごいと思いました。③④⑤⑥
・チャップリンは面白い映画を作りたかったんだな。③
・音もないのに面白い映画を作ったチャップリンはすごいと思いました。④⑥
・みんなが笑ってみていたので、チャップリンは嬉しかったんじゃないかと思いました。④
・表現の仕方がすごいと思いました。⑤⑥
【アグエロ監督について】
・映画を作るのに何年もかけてがんばっているのですごいと思いました。長い時には4年もかかっているのがわかってびっくりしました。⑤⑥⑥
・この日のために学校に来てくれてありがとうございました。遠いチリから来てくださってありがとうございました。②②③③⑤⑥
・映画作りをがんばってください。②
・また映画を見せに来てください。②②
・また映画のことを教えに来てください。③⑥
・初めて映画監督に会えてうれしかったです。③③⑤
・アグエロ監督の映画を見たいと思いました。④⑤⑥
【その他】
・映画を作ることはすごく難しそうなので、何十本も作るのはすごいことだと思いました。⑤⑥
・映画祭に行って映画を見てみたい。④⑤⑥⑥
・通訳の人がスペイン語を日本語にして言ってくれたのでわかりやすかったです。④
 


7.成果と課題
【成果】
・「山形国際ドキュメンタリー映画祭」を認識してもらうことができた。しかも、次は行ってみたいという感想があったことにもわかるように、機会さえあれば、子どもでも、参加したいという気持ちをもっていることが分かった。
・子どもたちは、「チャップリン」という映画監督がいることや「色も音もない映画」があるということを初めて知ることができた。そして、色や音がなくてもみんなで面白さを共有し、内容を理解することができることに気づくことができた。これまで見てきた映画と違うものに出会ったことで、児童の世界を大きく広げることになった。
・映画を作る人や、チャップリンの人となりや作品を熱く語る大人に出会ったことは、児童の世界を広げ、現在や将来の生き方を考えるきっかけを与えてくれた。
・言語、文化、生活習慣の違う海外の方との交流を楽しむことができた。

【課題】
・「山形国際ドキュメンタリー映画祭」についての理解を深めることが、地元や映画、映画作りに目を向けるきっかけとなり、とても意義のあることだと思った。そのために、いかに小さいうちから映画や映画祭に出会わせるかは大きな課題である。今後、様々なアイディアで、小中学校での活動を仕組んでいただきたい。
・児童の感想にもあったが、やはり、実際に映画祭に出かけて行きたい。実際にあの雰囲気を味わわせたいと思う。山形市外からだと、時間的・経済的に問題がたくさんある。今回のような監督派遣のみならず、児童生徒に映画祭で作品に出会わせる機会を作るための厚い支援を期待したい。

 

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