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2021年03月16日 08:02

『スパニッシュダンス(上)ホタテと瓢箪』の抜粋。その1。

       - カルドナ城のスーパームーン ー

 

 女が男を選ぶ時代なのにわたしは男を選べなかった。いいえ。それは正しくない。選んでもその男を捕まえ切れなかった。男との蜜月は在った。それなのに男はわたしの前から消えた。その男を今でも想い続けている。消えた男はわたしから離れない。離れてくれない。消えてくれない。わたしは女々しい。

 

    男に選ばれいち時応諾してもわたしは満たされなかった。楽しそうに振る舞っていても傍らの男に気遣った演技。自分自身にこれは楽しいひと時と言いかせたお芝居。わたしは嘘つき女。

 

    今さら消えた男を想い出しても何も起こらない。何も始まらない。ただただ虚しいだけ。そう言い聞かせる。言い聞かせても二四時を過ぎると昼間の言い聞かせが怪しくなる。なぜReiはわたしの前から消えたのか…。答えの出ない堂々巡りが始まる。わたしに魅力が乏しいから。女としての吸引力が欠けているから。何時も此処に行き着いてしまう。そんなことはない。わたしなりに自分を磨いてきた。乏しくとも欠けていてもReiはわたしを受け入れてくれた。楽しかった。楽しかった時が蘇る。演技やお芝居ではない楽しさ。それは充実の時。本当の楽しさをわたしはReiで知ってしまった。想い出すと涙が止まらなくなる。わたしは泣き虫女。

 

 夜中の涙は出勤前のわたしを困らせる。腫れぼったい瞼を何とかしなければ…。誤魔化そうとするとどうしても厚化粧になってしまう。何時もは入れないアイライン。それとシャドウ。すると口紅が鮮やかな赤色に。眉毛は細目に整える。鼻筋を際立たせる。ファンデーションで陰影をつける。こうなると衣装選びが難しくなる。クローゼットを開き悩む。どんなことがあっても水色のボディコンは着られない。わたしはキャバクラに出勤するのではない。女を売りにした職に就いているのではない。いたって地味な高校の音楽教師。
落ち着くのは濃紺のジャケットスーツ。シャツは白のフリル付き。スカートはタイト。膝上五センチ。ヒールも五センチ。ソバージュの髪を整える。車に乗ってアクセルを踏んだ。  
    何かにつけて秋波を送って来る体育の教師が目ざとく「良いことがあったんだぁ。昨夜はデートかぁ。妬けるなぁ」。「それってセクハラ」と強い口調で返す。周囲が鎮まり返った。わたしは二年生の担任。HRの教室に入ると一人の男子が「先生。男が変わったんだ」と冷やかす。その男子を立たせ頭を拳骨でコツン。それを見てた女子が「おぉ。コワ~イ」。こうなると放っておけない。「お黙り」と眼線で威嚇。わたしは嫌味な女。

 

「時間が空いたから」と言ってReiが、何の前触れも無いまま、昼休みに訪ねてきた。「細川先生に男が来た」と男子たちは大騒ぎ。わたしは校内放送が知らせてくれた応接室に走った。顔が紅くなっていたと思う。三人の男子生徒が応接室のドアの隙間から中を覗き込んでいた。Reiは白のTシャツの上に白い麻のジャケット。素足に白のスニーカーと云った出で立ち。パンツも白の七分。そしてラフカディオハーンモデルの黒の旅行鞄。
 

    わたしたちは手を繋いで『明月院』に向かっていた。梅雨の今、此処の紫陽花は美しい。『亀が谷』の切通しに差し掛かるとReiが崖を見仰げて呟いた。「鎌倉は寂しなりけり。何処も苔むしている切通し。それが良い。竹林に潜んでいる武者が見えるようだ」。         
 古道に観光客は来ない。鎌倉は日陰が多く夏でも涼しい。わたしは苔むす景色を子供の頃から大切にしている。わたしの泣き場にも静謐を醸し出す苔が。「時間が停まっている街」とRei。

 確かに活気溢れる街では無いけれど客気に満ち、静かで暮らし易い。
「観光客で賑わう昼に対して夜は静まりかえり住んでいる人たちの顔が見えない」。平たく言えば鎌倉は横浜東京の通勤圏に位置したベットタウン。歓楽街なし。高齢化が進む住民は夜な夜な出歩かない。
「畑が無い」
 鎌倉武士が一所懸命に拓いた田畑には住宅とビルが建ち並ぶ。                                                                                       
「外国が少ない」
 言われてみると、海岸通りと丘の上以外ではアルファベットを見つけるのは難しい。鎌倉では買い物しないわたし。買い物は外国が溢れている横浜。それに此処では活動もしていない。活動の拠点は藤沢。そして学校は大和市。本当に住んでいるだけの街。
「枯淡の鎌倉」
 わたしも鎌倉発の武士の文化が今の人に受け継がれ華開いたとは思っていない。武士の中心に据えられた『大儀に死す。その為に今を生きる』。これは文化では無いと思ってしまう。これでは息苦しい。文化とは今を送る生活の楽しみの総称と捉えている。室町が始まると首都の役目を終えた鎌倉。終わりを告げられた武士の街が時間を停めてしまったのは必然。此処に代々暮らす人達は過去の栄華をオクビにも出さず淡々と月日を重ねている。
「風が止まってしまう、この街の深夜には、戦さで死んだ数多くの武士の無念が徘徊する」と父が語っていた。それと「義経伝説の継承で最も損しているのが鎌倉」とも。
 瑞々しく咲く紫陽花の境内を出るとReiはわたしの右手を強く握り締めた。「のぞみさん。僕を薪能に連れて行って」。Reiは甘え上手だ。

 

 中秋の闇が降りてくる。鎮まりかえった鎌倉宮の杜にほら貝が鳴り響いた。奉行に導かれ、薙刀を手にした僧兵の一群が、能舞台の露を払う。僧兵は神火を抱えたうら若き巫女たちを守っていた。                              
「はじめませい」
    奉行が発声すると謡が始まった。謡に突き動かされた巫女は舞台の袖の四箇所に設けられた篝火台に神から授かった火を移した。松の燃える音が開演を促し、天空に吸い込まれてゆく四筋の煙が、これからの非日常を予感させる。
 …カァーン…
    奉行が気を入れた。それを合図に全員が退場。謡の音量が少しずつ大きくなる。舞台が仄かにライトアップされた。いよいよ始まる。
    Reiの念願だった年に一度の薪能神事。今夜の演目は『安宅』。わたしたちはほぼ中央中段に席を確保できた。Reiは緊張している。座っている身体が硬い。わたしは冷たくなり始めた右手を伸ばしてReiの左手を握った。
「神火って神さまが宿る火でしょう。マッチや百円ライターの火とどう違うの…」
「それだと有り難く無いだろう」
「それはそうよね」
「火起器。縄文の時と同じに火を起こす。その時の巫女の衣装や作法も厳格に定められていて巫女は事前に身を清める。そして巫女たる者は昔も今も処女」
 鎌倉の人達にも『安宅』は大人気。義経を捕まえようと頼朝が関所を張り巡らした。そこに出くわした義経。窮地に陥る義経。しかし弁慶が翻弄する。機転が利いた偽りの勧進帳を仰々しく読み上げる山場では声には出さずともヤンヤの喝采を送ってしまう父と鎌倉の人達。今もひとつだけ分からない。安宅は石川県。奥州平泉の藤原氏を頼って逃げ落ちる義経一行が何故方向が違う安宅に向かったのか。
 …謎…
「安宅の関は義経逃亡のひとコマ。幼い頃に預けられた藤原秀衝の許に着くまで一年もかかった。あちこちで首を狙われている。逃げ回るしかなかった」
「そうか。平泉まで一直線に逃げたのではなかったんだ」
「それにしても腰越状は哀れだ。軍人義経の愚直が滲み出ている。頼朝はどうして義経と腹を割って話し合わなかったのだろう。兄弟なのにと思うことがある。頼朝には義経への嫉妬があった。戦さ上手の天才に恐れがあった。恐れにはもうひとつ。相対した時には、義経が畳の下からでも、せり上って来て、自分を殺しかねないと。これでは腹を割れない。これが頼朝の義経への徹底した無慈悲の主因と思っている」
 Reiの言う通りと思う。

    頼朝は怖くて義経と向き合えなかったんだ。だから義経に同情が集まる。Reiが「薪能の舞台で夢幻能を演じられたら怖い」。
 篝火が、ゆらゆらと能面の陰影を深め、不安定にさせる。それだけでも死者の霊魂が強まる。その上に、魂だけの死後の世界から死者の念が、今生に降りて来たらわたしたちは確実に死に誘われてしまう。舞台が進むにつれ冷え込みが厳しくなる。『薪能』は両の二の腕が寒い。独りではとっても無理。わたしはReiに寄り添った。また想い出してしまった。わたしは未練がましい女。

  

 


 

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下の抜粋はその19で終わりです。(上)のホタテと瓢箪。その2。『サッポロに行ってもイイ』
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