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支援総額

0

目標金額 1,100,000円

支援者
0人
募集終了日
2021年5月10日

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2021年04月22日 08:00

(上)の抜粋。その37。「シリアからの手紙」

 ニックは東京に戻った。

    わたしは『ホタテと瓢箪』の原稿を書いた。上下に分けて書いた。上は最も美しい村からのアルタミラ洞窟。下は栄光の門を潜った大聖堂。失踪者を外すのに苦労した。カラーの写真がふんだんに在った。わたしが選出した四枚の写真と原稿に支社長から『了』。

 ここまではつつがなく過ぎた。問題はカラーの写真に紛れ込んでいたわたしのアルタミラ洞窟での一枚の白黒写真だった。カラーの中の白黒は目立つ。わたしが気づく前に支社長が見つけてしまった。

「細川君。君の写真が在った。ニックは『ホタテと瓢箪』の中で君を撮っていたんだな。困ったな。この写真がイチバン良い。でも載せる訳にはいかない。う~ん。惜しいな」

 フローリカと中村君が支社長が手にした写真を覗き込んだ。

「良い写真。のぞみが輝いている」

「細川さん。僕には分かる。ニックは細川さんにグッと来たんだ」

  フローリカが写真を手にしてため息。

「私だって分かるよ。こんな写真を撮られたら私はもうダメ。ニックに恋してしまう。ニックは罪作り。のぞみが恋しても世界の何処に居るのかすら分からない。私ならニックを追いかけてしまう」

「これはヤバイ」と支社長。続けて「ヤバイから細川君に渡す」。

 わたしはニックからこの写真をもらいましたとは言えなかった。                        

 ニックはどうして紛れ込ませたのかしら。一枚だけ。わたしが「ヤッタ」と叫んだ瞬間を切り取った一枚だけを…。彼が意図せずして紛れ込ませたとは考え難い。ナゼ。

 支社長は客のみんなが見仰げ舞台の主人公と化したドローン動画を『JTC』本社の公式HPに立ち上げた。一〇日で三〇万回の再生回数を記録。動画にはお遍路姿が登場。カトリックの巡礼でのミスマッチが口コミで広がったのが主因。予想外の反応に支社長も本社も大満足。ニックの評価はウナギ上り。支社長の評価も更なる高みに。照れまくる彼の姿が可笑しく可愛かった。

 

    支社に届いた郵便物にわたし宛の大判の封筒が在った。

    ニックからだった。

    郵便物処理係のフローリカから渡された。

『のぞみさんへ。オビエドの氷河の写真を同封します。大変だったけれど楽しい想い出がひとつ増えました。これからシリアに行きます。難民の子供たちを撮ろうと意気込んでいます。危険な処だけど心配しないで下さい。両親から授かった命を大事にします。氷河で過ごした二日間は俺の宝物になりました。ありがとう』

 A4版の十五枚は白黒。氷河を果敢に滑っているわたし。ヘルメットとゴーグルで表情が隠れていた。髪が後ろにたなびいている。スラローマーのようなわたし。大転倒も在った。メットとゴーグルを外した時の雪まみれのグチャグチャのわたし。わたしのアップは一枚だけ。麓に降りてヘリコプターを待っている時の写真。メットを被る前のアップ。陽光が氷河に反射して眩しそうなアップ。楽しげでシアワセに満ちている。これも良すぎる。わたしってこんなに満たされた表情になるんだ。知らなかった。

 ニックはわたしに告白しなかった。これからつき合って欲しいと言わなかった。言葉に出さなくとも想いは伝わる。だってわたしには伝わっている。『氷河で過ごした二日間は俺の宝物』と。

 

    それから一週間後に再びニックから手紙が届いた。

『スマートフォンもパソコンも壊れてしまった。それで手紙を書いた。携帯は銃撃戦が始まったシリア北部のマンビジ村から逃げる途中に胸ポケットから落としてしまった。戻って拾う余裕はなかった。リュックに入れたパソコンに流れ弾が当った。パソコンが僕の命を守ってくれた。ゲリラに身柄を拘束されないよう注意する緊張の毎日。今は四人の家族と行動を共にしています。父親はゲリラに拉致され行方不明。残された母親は大きなリュックを背い、手にはバック。これが家財のすべて。胸には乳飲み子を吊るしている。母親は三歳の女の子と五歳の男の子の手を交互に引き、難民と化した群れに混り、北へ向かっ

ている。トルコ国境を目指す逃避行。男の子が俺の携帯を拾って届けてくれた。これが家族との出会い。

 携帯は砂まみれ。作動しない。家族四人は飢えていた。母親は乳が出ない。乳飲み子はぐったりしている。男の子も女の子も痩せて元気がない。俺の食料と水を分けた。それから子供達は僕から離れなくなった。俺は三〇〇ミリのズームを付けてニコンの一眼レフを売った。ズームは無くなったけれどキャノンのカメラが残った。売った金で抱えきれないほどの水と食料を手に入れた。それでもかなりの金が余った。その金を母親に渡した。彼女はイスラム教徒だった。国境までの水と食料は確保できた。運べない分は近くの人達に分けた。通り過ぎる村には平穏な処もあった。難民相手の商いが盛んな村もあった。そこ

で手紙を出せました。僕はジャーナリストと独りの人間の間で彷徨っています。ピューリッツァー賞への野心は消えていません。しかしその前に飢えと疲労と絶望で今にも死んでしまいそうな家族を見捨てられなかった。見捨てた後の写真に栄誉を与えられたとしても少しも喜べない。一生、後悔がつきまとう。今は家族の写真を撮っています。トルコ国境を越えるまで家族を守ります。それから一度、日本に戻ります。必ず生きて東京に戻り体勢を立て直してサンタンデールに行きます。待っていて下さい』 

リターン

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応援してくれた方には直ちに感謝のメールを送らせてもらいます。

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『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。

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10000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせてもらいます。

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『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』(圧縮ワープロ原稿)を添付メールで送ります。

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