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2021年04月28日 08:00

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その43。「チェ・ゲバラ」

 久しぶりの帰省で注目はアジェールに集まっていた。

 それと同じくらいアジェールが連れてきた女であるわたしにも。

「バスクの人達の音楽と踊りを知りたくてアジェールにお願いしました」

 わたしが幾ら抗弁してもまったく無意味。こうなったら流れに委ねる他ない。こんな展開を予測していなかった。家族への挨拶は欠かせなくともヒッソリとした静かな帰省を思い描いていた。

  …甘かった…

  みんなアジェールが日本人のお嫁さんを連れてきた思っている。

  …まぁ、いいか…

「千年以上も放牧と林業を営んできたバスク人は大家族。放牧された羊や牛は皆で管理している丘陵の草を食む。皆で管理するとは互いの信頼が欠かせない。それが地域の共同体を育む。そして困った時には助け合い、絆と結束を強める。冬に山に入り、樹木を切り出す作業も独りではできない。下草を刈るのも独りでは無理。山の裾野は広すぎる」 

    アジェールが車の中で教えてくれた。   

 わたしが生まれ育った故郷に共同体は存在していない。横に繋がりの無い家族の集合が街を形成している。それが当たり前だった。            

 お婆さんが入れてくれたミルクティにはコクがあった。お茶受けに出されたクッキーも味が濃かった。初めての風味。思わず「美味しい」。

    お母さんが「羊の乳の恵み」。彼女は「私のお母さんから作り方を教えてもらった」と微笑んだ。

 アジェールへの質問の嵐が収まってきた。

    皆の関心がわたしに向くと身構え始めた。

    気づかれないよう深呼吸。

 暖炉の上を見た。わたしは飾られていた一枚の写真に釘づけに。

『チェ・ゲバラ』

 鳥肌が立った。四肢がこわばり、周囲の音が聞こえなくなった。

 それもポスターでは無く、ポスターの原寸大の写真が立派な額に納められていた。何故だろう…。なぜ此処に写真が飾られているのだろう…。

  

    高ニの時クラスの左翼少年がHRでゲバラを賛美した。それが妙に記憶に残っている。妙と云うのは彼の瞳孔が開き、声が上ずっていた。ゲバラの名言をプリントして全員に配る程の熱の入れ方。そしてプリントを順に読み上げた。

 最初はジョンレノンの「世界で一番格好良い男」。次はゲバラ自身の「女を好きにならない位なら男を辞める」。女子も男子も「オ~ォ」。「カッコイイ」のどよめきが男子から起こった。「未来のために今を耐えるのではなく未来のために今を楽しく生きるのだ」とおよそ革命家らしくない発言を左翼少年は得意そうに叫んだ。プリントの結びは「社会主義の確かな定義は人間の人間による搾取の撤廃以外にない」。

 これには納得させられる。「人間の人間による搾取」とは不正だ。

 わたしは、その時、そう確信した。

「革命成就後も英雄の座に収まらずボリビアで処刑されたゲバラは不正のない平和な世界を望んでいたと思う」

 この締めに左翼少年は全員から喝采を浴びた。

 そのチェ・ゲバラがどうして…。わたしが通った藤沢のショットバーのサルサ教室にも眼の前の写真と同じポスターが大事そうに飾られていた。

 わたしの異変に気付いたのはお爺さん。

「ゲバラが珍しいのかい」

「いいえ。珍しくはありません。珍しくはないのですが、ポスターではなくて写真が誇り高く飾られているのに驚きました」

「君はチェ・ゲバラを知っているんだ」

「知っています。日本でも英雄の一人です」

「そうかい。嬉しいね。彼はアルゼンチン生まれのバスク人。そして医者」

 バスク人には驚かされる。ザビエルにしてもゲバラにしても…。

 アジェールが言っていた。

「バスク人は山の民だから海に憧れた。大航海時代を支えた船乗りの多くはバスク人。マゼランの死後、彼の意思を受け継ぎ、世界一周を果たしたエルカーノや、無名であっても帆船を操る技術に長けていたのがバスク人」   

 彼等はラテン系のスペイン人とは明らかに違う。男は細身であっても胸板が厚く、肩幅も広い。物腰が落ち着いていて、挨拶代わりに女子を誘ったりしない。それで思慮深く映る。手先が器用。努力を厭わない。勤勉。バスク人の好感度は右肩上がり。               

  お父さんに促され、わたしは立ち上がり名乗った。

「日本から来ました。細川のぞみと言います。父と母が名づけた希望は聖大ヤコブに授けられた意味とスペインに来て知りました。アジェールの導きで皆さんにお逢いでき光栄です。皆さんの暖かいおもてなしへのお礼を込めて日本の歌をピアノで弾きます」

    練習してきたスペイン語で正式な御挨拶。       

「のぞみのピアノは初めて」とアジェール。

「日本の花。桜を詠った曲です」

  わたしは皆に告げピアノに向かった。

  久しくピアノを弾いていない。それでもこの曲には自信があった。三回生への進級試験はオリジナルの変奏曲。課題を出された時に直ぐに浮かんだのが桜。

 練り上げるのに一ケ月も。

「眼を見張る独創性はないが良く勉強している」

    これが担当教官の評価。嬉しくなかった。

 でも『優』を頂戴した時には思わずガッツポーズ。      

 

『さくら。さくら。弥生の花は。見渡す限り。霞か雲か。匂いぞ出ずる』までを単音。唱歌のように奏でる。それから変奏。

 冬の寒さに耐え、春に花を咲かせようする幹の鼓動を低音の和音で。力強くも静かに。冷気が緩み、春を待つ胎動は中音域の穏やかなアルペジオ。今年の開花を待ち望む。莟をつけた時には『さくら』を呼ぶ。高音と低音の対位法で開花の期待を昂める。

 花開く瞬間は喜びを筝の音色を借りて弾むように。ペダルを強く踏んで音を伸ばす。満開の桜。桜に埋め尽くされた一面の景色。一年待ち、今年も咲いた悦び。

  ここは聴かせ処。四七抜き音階にこだわった。そしてフーガを用いた。主題繰り返し変奏する時には桜の香りが漂うよう願いを込めた。

 桜を知らない人には願いが届かないかも…。

 花びらが風に舞い散る様は高音から下る分散和音をデ・クレッシェンドで一六小節。その間には風の音を三回、左手で吹き込む。 

『さくら。さくら』の単音で曲を閉じた。         

          

 弾き終えると拍手が鳴り止まない。

 桜を知らなくとも受け入れられたようでホッとした。      

 お父さんが本棚から一枚の写真を取り出し皆に見せた。隅田川の桜並木満開の写真だった。アジェールも覗き込んでいる。

「日本での思い出のひとつはサクラ。四月になると一斉に咲く。街がサクラ色に変わる。日本人はお花見を楽しみにしている。家族や友達と一緒にサクラの下でお弁当を食べる」

 覗きこんでいたレイレが「アーモンドの花に似ている」と呟いた。

    棘があった。

 わたしはアーモンドの花を知らない。

 アジェールが言った。

「花の形はそっくり。だがアーモンドの花は白い。桜はピンク。スペインの桜はエストレスドゥーラ州のヘルテ渓谷に咲き、さくらんぼの実をつける。でも此処の桜も白だった」  

 レイレの敵意が少し和らいだ。

    でも油断できない。

    恐らく子供の頃から「アジェールのお嫁さんになる」と宣言。

    それが今も続いている。

                                                    教職に逃げ込んだ学生の吹き溜まりと、秘かに揶揄された民族音楽専攻。そんな雑音をわたしは卒業間近になってクラスのリーダーから知らされた。彼女は神奈川県のオーケストラのバイオリンのオーデションに合格。卒業試験では『シャコンヌ』を見事に弾き首席に。彼女の卒論は『フーガの技法』。

 読ませてもらった。痛く感心。

 バッハと直接対話したかのような臨場感。

「思い悩んでいたある夜、夢にバッハが現われた。そこでお話しが弾んだのが幸運だった。彼は新曲に苦しんでいた」    

 

■毎週日曜日のミサに新曲を披露しなければならなかったバッハは主旋律の変奏に活路を見出した。満場を唸らせるメロディなど、そうそう創れない。音楽の父と雖も毎週は絶対に無理。そこで変奏の手法を漸新に確立したならばひとつのメロディを何度も新曲のようにして使えると彼は考えた。これがフーガの技法に取り組んだ動機。当時売れっ子だったバッハの苦悩がチェンバロとフルートとバイオリンで奏でられる『音楽の捧げもの』に昇華された■    

 

 声楽のポッチャリが学食でリーダーに言ったのが「民族音楽専攻は教職に逃げ込んだ学生の吹き溜まり」。リーダー曰く「それも眉を顰めて」。

 ポッチャリはウィーンの国立アカデミーに留学を決めていた。

    ポッチャリは容貌に反して陰湿。わたしに浴びせられたのは揶揄と云うより侮蔑に近い。「気にするな」と言われても、暫くは「教職に逃げ込んだ学生の吹き溜まりの民族音楽」が鳴り止まなかった。

 不愉快を思い出してしまった。それでも民族音楽の専攻が今日に活かされている。運び込まれセッテングされているチャラバルタ。二軒隣りのお父さんが抱えているトリキティシヤ。彼のお爺さんが大事そうにケースから取り出したアルボカも初めてではなかった。                       

    大学の資料室に展示されていた。視聴室には『遊牧のチャラバルタ』と『バスクの音楽』のDVDが在った。でも生音は初めて。

    チャラバルタは木琴に似ている。けれども非なる打楽器。分厚い横木五枚が大きい順に手前から台の上に無造作に置かれている。この横木を奏者がバチの底で叩く。横木の下には布で包んだ二本の縦木が台座に据えられていた。この縦木が音を和らげ打音を転がす。独特の音色と余韻は布で包んだ縦木の為せる技。アルボカは牛の角笛。形状が変わっている。三日月型。弧を描き湾曲。バイキングの兜の装飾はこの牛の角。この形状の笛は他にない。穴は四つ。すると音階は一四。音色も変わっていた。管の丈が短いので甲高い。セッションでは通奏低音の反対の役割を担う。古来からバスクの人たちはこの笛で牛や羊を追った。トリキティシアは近代に作られたボタン式のアコーデオン。トリキティシアはバンドネオンのように膝に打ちつけない。そうした音のアクセントを

バスクの人たちは好まなかったのだと思う。

(上)の抜粋。その42。「国境なき医師団」(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その44。「Pasde Basque」
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