桜井昌司さんのCDがもうすぐ完成します。

今日は、ラジオ番組が始まったいきさつを書こうと思います。私は元々音楽関係の仕事をしていまして、音楽編集の技術があったので、それがそのまま番組編集に役立ち、ラジオ番組の企画制作をやるようになりました。若いころから冤罪には関心があったので、集会やイベントには時々出かけていました。

7-8年前に「SAYAMA～見えない手錠をはずすまで」という狭山事件の石川一雄さんご夫妻に密着した映画が公開され、応援イベントに行きました。その時ゲストに来ていたのが布川事件の桜井昌司さん、（一緒に逮捕された）杉山卓男さん、足利事件の菅家利和さんでした。映画監督の金聖雄（キム・ソンウン）さんが「それでは獄友の皆さんをご紹介します」とアナウンスし、ゲストが登場しました。皆さん、椅子に座って話し出しましたが、獄中にいたとは思えない爆笑トークで、主に笑いをとるのは桜井さんなんですけど、「俺たち、立候補しますよ！ムショ族で」とか。杉山さんが「やっと真人間になりました」というと、すかさず桜井さんが「なってない、なってない！」と釘を刺す。プロのコメディアンみたいに絶妙の間を持っていました。

獄友トークが終わると、桜井さんが2曲ほど歌うというので、一応音楽家の私は「参ったなあ。このオッサン、ここで歌うの？」と思ったのです。カラオケが流れてきて、私の記憶では1曲目は「闇の中に」という曲でした。獄中で作ったという歌です。房の中から小さな窓の向こうに見える闇を眺めながら、少年時代の自分や両親への想いを切々と歌っている曲でした。私の好きな音楽とは全く違う曲調ですが、歌詞の言葉がどんどん私の中に入ってきて、謳われている情景が鮮明に脳裏に浮かびました。「これはすごい歌を聴いてしまったな」というのが率直な感想です。私はイベント終了後に桜井さんのCDを買い、数日間聴きこみました。

彼を番組にゲストで呼びたいなあ、と思いましたが、私がそのとき持っていたのは音楽番組です。音楽番組に冤罪当事者を呼んでもなあ。そうだ、彼をシンガーソングライターとして呼ぼう！　そう思いつき、金監督に連絡を取ってもらいました。私の事務所兼倉庫で収録を行いました。驚いたことに、ラジオDJみたいに喋りがお上手なのです。ラジオというのは目の前にリスナーがいません。マイクに向かって喋る人はたくさんいますが、リスナーに向かって喋れる人は多くいません。しかし、桜井さんは最初からリスナーに向かって喋っていました。

「そんなに喋りが得意なら、ラジオ番組やったらどうです？」と訊いてみました。すると間髪入れずに「やりたい！」という返事が返ってきました。「今まで、いろいろなことを自由にできなかったので、なんでも挑戦したいんです！」
「分かりました！では私が段取りつけるので、お金（電波使用料）とゲスト集めてください」
それから数か月後に始まったのが『桜井昌司の言いたい放題！人生って何だ！！』という番組です。毎週放送でしたので、週に1度は桜井さんにお会いしました。番組の形で出来上がってくると1回の収録で、2週分の収録をするようになりました。番組制作を通じて、冤罪の世界にどんどん近づいていきました。

毎週放送だと、放送したと思ったら、すぐに収録、放送したと思ったら、すぐに収録、の繰り返しで、放送日に終われて生きている感じになります。少しゆっくりとした時間が欲しい、ということになり、この番組は1年半で終了します。

しかし冤罪ラジオ番組は日本でたった1つだし、番組には使命があると感じていましたので、新しい番組を作ることを考えていました。それが現在放送中の『塀の中の白い花～ほんとに何もやってません』です。という訳で実際に企画制作しているのは私なのですが、桜井さんがきっかけですべてが始まりました。桜井さんの布川国賠を支援する会のイベントにも顔を出し、ホームページ制作も担当するようになりました。それがご縁で冤罪犠牲者の会の事務局長を務めることになります。

布川国賠は結審し､あとは6月の判決を待つばかり。桜井さんは昨年癌が見つかりステージ4と診断され、余命宣告を受けました。現在は食事療法と温熱療法で体調も良くなってきているとのこと。声が出るうちにに、と2枚目のCDの録音をしました。レコーディングエンジニアとジャケットデザインは私。大役です。そのCDがもうすぐ完成します。タイトルは『私の人生』。収められているのは全曲、彼の作詞・作曲による作品です。

逮捕されたとき、桜井さんは20歳。仮出所したときが49歳。晴れて無罪を勝ち取ったのが64歳のとき。しして現在は全国の冤罪犠牲者を励ますため、奔走しています。考えてみれば凄い人生です。その彼の人生の1ページに立ち会えて光栄です。少々長くなりましたが、私と冤罪との関わりは彼抜きでは語れないのです。