【メンタルなもんを取り外す時代】

「私と他の扇子屋はんとの違いですか?あるとしたら、年がら年中、糊触ったり、絵具触ったりしてるかどうかの違いですわ。こうやってやっているとね、例えば今日は雨降りやなと。雨降りの時、晴れている時、天気によってやり易い仕事とやり難い仕事があります。毎日の自分の体調と同じですわ。おんなじようにすんのやけど、スーッといく日もあれば、なんでこんなに同じようにやってもあかんのや?という時もある。そしたら『ああこれは湿気のせいやな~』と。年がら年中ね、毎日そんなことを考えて生きてるのか、生きてへんのかいう違いですわ。

 

コンピュータたたいて、ルートセールスやって、というのも大事なんですよ。そういう連中いいひんかったら我々もモノを押し出していかへんですけど。そやけどそればっかりではいかん。わかってる人やったら私の言うてることも含めて、色々消化しながらバランスとってどういう風にするかと考えてるはずです。ところが金融も何もかもが『金を大きく動かせるもんがルール』やっていう時代に、私らみたいなもんは生きられない。

 

ハッキリいうて、こんな仕事しながら、こんな商品いっぺん拵えたいなと思ったら、納期なんかほったらかしにして自分の興味あることをやり始めるわけですよ。その時にメモに書いておいて次の暇な時にやったら?と言われるけど、そんなもんとちゃいます。その時に頭の中でがーっと沸騰したものをやらへんかったら、冷めてから『あの時どう思たんかな?』と思い出しても無理、そんなもんでモノはできへんです。そやから人間ていうもんは、メンタルなもんやなと。でも、メンタルなもんを取り外していくんが今の時代でしょ?」

 

 

【富の再分配】

「何年か前から思てんのは『富の再分配』とはどういうことかなと。昨日もフランス人の先生の白熱教室でやってましたわ。私もなんの気なしに思てるようなことを研究している人がいるんやなと思ってたら、この頃なんか私もちょっとは世の中の一部に入ってんのやなと思うくらい(笑)、その教授の認知が高まってますわね。

 

富の再分配を研究して1%のヤツが富の大半を握っていることを数字ではっきりと示してくれてます。富の再分配が物凄い重要やのに、一時的に日本は総中流やて言われてた時は、富の再分配がうまいこと一瞬出来たかのように思ったけど、やっぱりずっとその問題というのはこういう社会の中にあるんやなって。なんかそういうしょうもないことばっかり考えながら仕事してます(笑)。1%はポイントらしいです。ヨーロッパの貴族社会が成立していた時には貴族の人口比率が1%やったと。NHKの日曜日の第一次世界大戦のイギリスの貴族社会の番組みながらこう言うことやなと、貴族ってこんなんやなと、貴族の社会が崩壊する時代ってこういうもんなんやなと。

 

日本はそういう社会と違って、江戸期に大衆文化がこんだけ成熟した国は世界的に見てもないわけです。いま相撲やってますやん。相撲なんかはっきりいうて木戸銭(興行見物のために入り口で払う料金)払って民衆が支えて成立させてたわけですやん。日本人的感覚は今こそいるのになと思います。

 

「ところが、町衆のまあ一番下層にいてる私らみたいなもんが成立しいひん、二極化ですよ。『道具』を握ったやつが勝っていくんでしょうね。それを打ち破るためには何をしたらええのか、という。せやけど技術革新とか、そういう風なもんの圧倒的な力に潰されていくんでしょうね。私の周囲でもかなり廃業していっています。高齢になっても、息子はん娘さんが継がない。そして年齢になって辞めていくっていう。そういうパターンが物凄い多いですね。扇子屋や扇子職人は若い人が興味を示す職業ではないんでしょうね。

 

この業界もそうですが勉強せんもんばかりの中では、競争はしなくなる。やはり競争がないと駄目です。そしてどういう風な競争をするかが大事です。色んな事を学んで挑戦しないと、今のままでたまたま上手くいって『よかったよかった』ではだめ。何事も固定化したら駄目なんです。このままでいったら日本の伝統産業は総崩れですよ。トータルで考えて。身分保証もないし。

 

この間、新聞で養老孟司が言うてました。外国人が修復美術の会社の社長になられて、それまでそこの社員は安定的な収入がなかったのを、安定的な職にした。これからその会社は色々やっていくんでしょうけど、外人やからそういう発想になったんやなと思いました。日本ではそうはならない。『職人さんは固定で雇うもんやない』と、日本人の間で勝手に作りあげといて、それで今になって『後継者がいいひん』とか言い始めて。本当にきちんとしようとしたら組織で仕組みを拵えなあかん。そうやって次に繋げなあかん。さっきの例は外人やからそんな考えが出来たんかなと思いましたね。扇子の組合でも、身分保障の問題に取り組んだり、新しい意匠ができた時には登録とかもするとかして、自分たちの産業を継続させるためのことを考えていかな駄目でしょうね。

 

(つづく)

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