KFアーカイブは、音楽様式の変遷を世代の前後で何が継承され、何が放棄されたか、系譜で追跡して稠密に把握します。こうした探求の方針は、特定の論題や音楽の歴史に限定されず、社会の構造や文化の発展に適用されます。

 

舞曲の器楽化と組曲の様式化

 

中世に発達した前進的反復によるエスタンピーやドゥクツィアを継承して、イタリアの宮廷で流行したガストルディの世俗歌曲から舞踊balettoが成立、1533年にカテリーヌ・ド・メディチが嫁いだフランスに宮廷舞踊が紹介されました。1581年に「王妃のバレ・コミック」を上演、弦楽の語法が器楽に模倣され、二楽章制Branle double / simpleになり、Branle gay / de Bourgogneが加わり四楽章制になりました。リヨンのリュート奏者ゴーティエが『神々の修辞学』(1652年)で12の旋法の組曲を出版しました。複数の音を同時に奏でられないリュートに一本の旋律で異なる声部を持たせる断続様式style briséを生み、短い修飾音agrémentと共に鍵盤楽器に取り入れられました。イタリアで1603年にトラバチがpartitaを出版、フランスで1700年頃にsuiteとなり、1713年にクープランがordreと称しました。

 

 

Denis Gaultier, Pièces de Luth sur trois différents modes(1671年)

 

バッハは『フリーデマンの楽譜帳』(1720年)にダングルベールの『クラヴサン曲集』(1689年)の装飾音符表を記しました。バッハのヴァイオリン・チェロ・フルート・リュートの無伴奏楽曲では断続様式が多用され立体的な対位法が実現されます。撥弦楽器リュートと鍵盤楽器チェンバロは兄弟です。前奏曲、フーガとアレグロ(BWV 998)はリュート=クラヴィーア用です。デュエット第3番(BWV 804)は鍵盤楽器またはオルガンで演奏されますが、リュート組曲として発想されており同様な書法が用いられます。

 

Jean-Henri d'Anglebert, Pièces de clavecin(1689年)

 

17世紀にシャンボニエールルイ・クープラン、ダングルベール、ダンドリューは組曲suiteを作曲、大クープランやフォルクレーは、題名付き楽曲を集めオルドルordreとしました。フローベルガーやヴェックマンは、ドイツに組曲[Allmande・Gigue・Courant・Sarabande]を導入、前奏曲Préludeや序曲Ouvtureなどの楽章を追加、GigueとSarabandeを交替しました。アルマンドはドイツを意味する4拍子系の緩徐な曲、クーラントは走るを意味する3拍子系の急速な曲です。3/2と6/4拍子が交替する優雅なフランス型Courante、3/4拍子で疾走するイタリア型Correnteが存在します。サラバンドは情感を湛えた3拍子の荘厳な曲です。ペルシア語で歌謡を意味して、スペインでアラビア音楽から発達して、新大陸の植民地パナマで流行したzarabandaは放縦な舞曲でしたが、欧州に逆輸入されフランス宮廷で荘厳な舞曲になりました。足の引き摺りにより2・3拍が結合し大小の変化が生まれます。ジーグは3拍子系の快活な曲でケルト起源です。アイルランド語で踊りを意味します。イングランドのヴァージナル音楽から流入、フランス型Gigueは反行形を多用した対位法的な展開、イタリア型Gigaは疾走する6/8拍子です。

 

 

Allemande[Simon Guillaume, Almanach dansant](1770年)

Sarabande[Kellom Tomlinson, The Art of Dancing](1735年)

 

サラバンドとジーグ間に当世風舞曲ギャラントリを入れて華やぎました。フランスの地方舞踊[オーヴェルニュ起源のブーレ、ポワトゥ起源のメヌエット、ドーフィネ起源のガヴォット、ブルターニュ起源のパスピエ]かつ二部構成の舞曲が用いられました。ブーレは詰め込むbourrer、メヌエットは小さいmenu、ガヴォットは地名Gavot、パスピエは通りpassa・足piedに由来します。変奏ドゥーブルが舞曲の後に書かれることもありました。組曲は様々な来歴と拍子と曲風の舞曲を調性も統一して置いた曲です。「アンナ・マグダレーナの楽譜帳」に記されるペツォルトのメヌエット(BWV Anh. 114-115)が三部構成[ト長調-ト短調-ト長調]の典型です。

 

Joh. Seb. Bach, Notenbüchlein für Anna Magdalena Bach(1725年)

Christian Petzold, Menuett G-dur & Menuett g-moll, BWV Anh. 114-15

[Berlin, Preuzische Staatsbibliothek, Mus. Ms. Bach P 225, 44-45]

 

バッハのイギリス組曲第6番(BWV 807)は、Prélude-Allemande-Courante-Sarabande-Gavotte-Gigueと前奏曲とガヴォットが追加され、サラバンドにドゥーブルが附属します。フランス組曲第4番(BWV 815)は初期稿では和音が指定され、美しい分散和音で発展して活発になり、分散和音で幕を閉じる美しい前奏曲が付加され、ガヴォット・エール・メヌエットがギャラントリに挿入されます。Praeludium-Allemande-Courante-Sarabande-Gavotte-Air-Menuett-Gigueを通して落ち着いた曲想で低音が歩いていくように下から支えます。

 

無伴奏チェロ組曲第5番(BWV 1011)は、Prélude-Allemande-Courante-Sarabande-Gavotte-Gigueです。フランス様式が顕著です。前奏曲は序曲形式で重厚な符点リズム、後半は流麗な旋律によります。バッハは序曲で前置きして語りかけるように意味を持たせました。古典舞曲を踏襲する古雅な作品でクーラントはフランス式です。ジーグ独特の軽快なリズムに時おり長く伸ばされた音が挟まれ趣きを醸します。カザルスはそこを高らかに歌い上げます。リュート組曲(BWV 995)に編曲されました。チェロの流麗な旋律がリュートの断続様式で表現されます。

 

Joh. Seb. Bach, Suite für Laute solo, BWV 995(1731年)

[Bruxelles, Bibliothèque royale, Ms. II 4085]

 

組曲は自由な構成のパルティータになりました。パルティータPartitaは部分Partに由来して、フレスコバルディスウェーリンクは分節の変奏曲でしたが、フローベルガーやヴェックマン、フックスやパッフェルベルの鍵盤楽曲に継承され、ライプツィヒのクーナウは「新鍵盤練習曲集」(1689/92年)で組曲PartieとソナタSonata、「聖書物語ソナタ」(1700年)を作曲しました。バッハはヴァイマールでコラール変奏曲のパルティータ(BWV 768)、ケーテンで舞曲集の無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ(BWV 1006)や無伴奏フルートのためのパルティータ(BWV 1013)を作曲しました。ライプツィヒに移住して、クーナウの影響から鍵盤楽曲パルティータ第6番(BWV 830)を書きました。ヘンデルは組曲 (HMV 433)をイタリアとフランスの趣味にドイツの幻想性を加味して多作しました。

 

Joh. Seb. Bach, Partita 6, BWV 830[Klavierübung 1. Teil](1731年)

 

 

管弦楽組曲から交響曲やソナタの確立

 

管弦楽曲で宮廷舞踏の器楽合奏が様式化されました。イタリアで劇音楽序曲がシンフォニアsinfonia、フランスで宮廷舞踊曲が管弦楽組曲suiteなど緩急の舞曲となりました。イギリスではPavan and Galliard、イタリアではPassamezzo e Saltarello、フランスではAllemande et Courante、ドイツでは調性を統一した楽章を配列した組曲となりました。

 

ポイエルルの「四声のパドヴァン、イントラーダ、ダンツおよびガリアルダ」(1611年)で主題を統一、シャインの「音楽の宴」(1617年)で調性と主題が一貫した組曲(Padouan・Galiarde・Courant・Allmande・Tripla)を出版、ローゼンミュラーが「室内ソナタとシンフォニア」(1667年)でヴェネツィア楽派の劇音楽序曲を多楽章制の合奏組曲[Sinfonia・Allmande・Courante・Balletto・Sarabande]に発展させました。

 

1660年にリュリがカヴァッリのオペラ「セルセ」の上演で教会ソナタのよう導入部・フーガ・終結部にして序曲overtureを確立しました。ムファットの「精華集」(1695/98年)やフィッシャーの「春の日記」(1695年)で弦楽器に管楽器を追加して編成を拡大しました。荘厳lentementとなる導入部と終結部の旋律は附点リズムでトリル音型や音階を駆け上がるシュライファー音型が印象的です。快活viteとなるフーガは教会ソナタ様式です。ヴェルサイユ楽派のカンプラら、イタリアのステファニら、イギリスのパーセルらにも継承されました。

 

 

Johann Hermann Schein & Georg Muffat

 

ドイツでニュルンベルクのクリーガー、ルードルシュタットのエルレバッハ、ウィーンのフックス、アウクスブルクのクッサーが序曲Ouvertüreを作曲、テレマンヘンデルらが発展させ、バッハもカンタータ(BWV 61)を序曲で開始、管弦楽組曲第1番(BWV 1066)を作曲しました。鍵盤楽曲ではパルティータ第4番(BWV 828)の序曲、フランス風序曲(BWV 831)を作曲、ゴールドベルク変奏曲(BWV 988)の後半部を序曲(第16変奏)で開始しました。付点リズムの荘重な部分と対位法的な急速な部分が交替する序曲は新たな始まりを示します。

 

Joh. Seb. Bach, Aria mit 30 Veränderungen „Goldberg-Variationen”, BWV 988[Klavierübung 4. Teil](1741年)

 

フランスのラモーやドイツのファッシュ、フェルスター、グルックは、フランス序曲をシンフォニア楽章に発展させ、前期古典派音楽に継承されました。ナポリ楽派スカルラッティらが、教会ソナタ様式から三楽章制[Allegro-Andante-Allegro]のイタリア序曲を確立、交響曲の原型となりマンハイム楽派でメヌエットが追加され四楽章制になりました。

 

▶︎バロック音楽―コレルリ、トレッリ、フックス、ロッティ、アルビノーニ、ヴィヴァルディ、テレマン、グラウプナー、マンフレディーニ、ロカテッリ

▶︎古典派音楽―ガルッピ、エマヌエル・バッハ、アーベル、クリスティアン・バッハハイドン、ディッタースドルフ、ボッケリーニ、シュターミッツ、モーツァルトベートーヴェンウェーバーシューベルト

▶︎ロマン派音楽―メンデルスゾーンシューマン、ヴェルディ、フランクブラームスサン=サーンスビゼー、ブルッフ、チャイコフスキー、フォーレ、ショーソン、エルガーマーラーシベリウス、スクリャービン、ラフマニノフ

▶︎現代音楽―シェーンベルク、ブルックナーウェーベルンプロコフィエフ

 

   

Jean-Philippe Rameau & Johann Friedrich Fasch

 

初期バロック時代の和声旋律楽器は、独奏楽器obbligato・合奏楽器ripieno・通奏低音basso conteinuoに分類され、弦楽器を主体とする器楽曲はヴァイオリン属が旋律を担当しました。声楽の前奏sinfoniaや間奏sonataが独立しました。声部が均質なルネサンス様式から主旋律と低音部で構成するバロック様式の器楽曲に移行しました。

 

ヴィアダナの「100の教会コンチェルト」(1602年)では、モノディ様式の器楽カンツォーナに数字譜で通奏低音が指示され、チーマの「教会コンチェルト」(1610年)では、通奏低音上のヴァイオリン・ソナタ六曲が登場、マリーニの「ヴァイオリン二提のソナタ」(1629年)で調弦を異なる音程で重音を演奏するスコルダトゥーラを導入しました。

 

メールラの「教会・室内用のカンツォーナまたはソナタ」(1637年)で通奏低音や分散和音より、多節形式の合奏型カンツォーナやソナタがマドリガルのよう通模倣様式から通奏低音の上で独奏や二重奏をするモノディ様式となり、速度の遅い楽章で緩やかで抒情的な旋律を歌う主題による楽曲が器楽対位法を洗練させて、二本のヴァイオリンと通奏低音を伴う独立楽章のソナタとなり、ウッチェリーニの「ソナタまたはカンツォーナ集」(1649年)で音域が拡大されました。

 

 

Lodovico Viadana & Tarquinio Merula

 

レグレンツィの「教会ソナタ」(1656年)やヴィターリの「二提のヴァイオリンとオルガンによる通奏低音のソナタ」(1667年)で緩-急-緩-急の配列になり、ボローニャのカッツァーティは「二つの楽器のためのソナタ」(1670年)でヴァイオリンと通奏低音のソナタLa Pellicanaを出版、主題が独立して通奏低音と上声で重奏する形式になりました。

 

ドイツでは、ローゼンミュラーの室内ソナタ(1670年)やビーバーの秘蹟ソナタ(1676年)が独奏ソナタを確立、イタリアでは、コレルリの教会ソナタ(Opus 3/12)やアルビノーニの教会ソナタ(Opus 6/2)に対して、独奏楽器によるコレルリのソナタ(Opus 5/4)、ヴィヴァルディのソナタ(RV 31)が確立されました。

 

 

Giovanni Legrenzi & Heinrich Ignaz Franz Biber

 

イタリアとドイツではヴァイオリンに移行して、フランスやイギリスではヴィオール属の趣きある響きが好まれました。ブクステフーデのトリオ・ソナタ(BuxWV 267)やテレマンのトリオ・ソナタ(TWV 42:d03)などの室内楽曲ソナタ、ヘンデルのフルート・ソナタ(HWV 365)やヴァイオリン・ソナタ第4番(HWV 371)、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番(BWV 1003)は通奏低音が想定されます。また、ヴァイオリン・ソナタ第6番(BWV 1019)、ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ(BWV 1027)、フルート・ソナタ(BWV 1030)は独奏ソナタです。オルガンのトリオ・ソナタ第2番(BWV 526)は、右手・左手・足鍵で三重奏を構成するリトルネロ様式です。鍵盤楽曲のソナタ(BWV 963)にフランスのクラヴサン楽派やドイツのクーナウの影響が感じられます。

 

Johann Sebastian Bach, Sonata 2 für Orgel, BWV 526(1730年)

[Berlin, Preuzische Staatsbibliothek, Mus. Ms. Bach P 271]

 

エマヌエル・バッハはトリオ・ソナタ(H. 578)、ゴールドベルクはトリオ・ソナタなどを作曲しましたが、ヴィヴァルディの独奏ソナタやスカルラッティの鍵盤ソナタなどの室内楽曲と鍵盤楽曲が主流になりました。

 

古典派音楽に移行して通奏低音書法が廃れて、独奏楽器のみ、伴奏楽器つきのソナタが盛んになりました。ハイドンはピアノ・ソナタ(Hob.XVI:016)・ヴァイオリン・ソナタ(Hob.XVI:043)を作曲、モーツァルトの教会ソナタ(KV 41i)はファゴットとチェロのためのソナタ(KV 292)など、教会ソナタや通奏低音書法のような後期バロック音楽の様式を継承して作曲しました。教会ソナタは室内楽曲から管弦楽曲として大きな編成に拡大されます。

 

独奏ソナタとして、モーツァルトのピアノ・ソナタ第10番(KV 330)、ヴァイオリン・ソナタ第40番(KV 454)など、チャーミングな名曲が生まれました。クレメンティのピアノ・ソナタ(Opus 25/2)、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第24番「テレーゼ」(Opus 78)やヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」(Opus 47)も生まれました。

 

古典派音楽からロマン派音楽に移行しても、ソナタ形式が堅持されました。シューベルトのピアノ・ソナタ第13番(Opus 120)、ショパンのピアノ・ソナタ第2番(Opus 58)、シューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番(Opus 121)、ブラームスのクラリネット・ソナタ第2番(Opus 120/2)などです。

 

Wolfgang Amadeus Mozart, Klaviersonate 10, KV 330(300h)(1778年)

[Berlin, Preußische Staatsbibliothek Berlin]

 

今回は舞曲の器楽化、組曲の様式化、交響曲やソナタの確立を記しました。

次回は交響協奏曲・合奏協奏曲・独奏協奏曲や調律法の確立を叙述します。

 

KFアーカイブを今後ともよろしくお願い申し上げます。

長文にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。

 

平成28年4月1日

特定非営利活動法人 KFアーカイブ会長 中西 泰裕

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