2000本もの学習動画を無料で公開することで地方の抱える教育課題の構造的な解決を目指すNPO法人eboard(いーぼーど)。その創設者であり、代表理事の中村孝一さんと田中宝紀が、ICTを活用した地方の教育課題解決の可能性を語り合いました。

 

さわやかな風が吹くような、心地よい時間を共有させていただきました
偶然服装がかぶる、という嬉しいできごとも

 

6月某日、都内のおしゃれカフェに颯爽と現われた中村さん。

もともとは「現場」の人間という中村さんは、いわゆるIT系(?)のイメージを良い意味で壊す、子ども達への熱い想いを持った方でした。

 

困難を有する子ども達と現場で向き合い続けた彼は何を想い、なぜICT×教育というフィールドを選んだのか。

 

地方の課題と出会う中で見出した、ICTの可能性とは?

 

 

<「構造的な課題に対して一番インパクトのある解決策になるんじゃないか」とeboard立ち上げへ>

 

 

田中)中村さんは今、eboardでICTを活用した学習支援をなさっていますが、そもそもICTを使って子どもたちの教育を支援しようと思われたきっかけというのは、何かありましたか?

 

中村) 実は私はもともと現場の人間なんですね。学生時代に学習塾とか学習支援の、いわゆる経済的に塾に行けないような子に対して支援をしたりしていました。そこで出会う子どもたちはいろんな課題を持っていて、不登校で学校に行けてないけど、塾だけ週1回通っているという子もいれば、塾には毎日のように来てるけど、ぜんぜん学校の授業についていけない子がいたり。

 

経済的な困難を抱えている子どもだと状況はもっと厳しくて、本当に学校の勉強から置いていかれてしまっているような状態だったんです。

 

そういう多様な課題を抱える子どもたちの学習支援をしている中で、学力がついてきたり、高校は行きたいところに進学できたりだとか、それなりの結果になるような経験をたくさんさせていただきました。でもやはり一方で、もっと大きな構造的な課題があって、それは日本のほかの地域でもそうだよなと思っていたんです。自分ががんばってできる範囲って限られているということも。

 

たとえばもし、自分が大学出た後に教師になったり、民間の教育関係の企業に入ったとして、その大きな課題を解決できるかというと、「既存の枠組みの中では解決策ってないな」と感じてて。

 

大学卒業後に一度コンサルティング会社に入社したのですが、そこで働いている間の2010年から2011年くらいに、海外でオンライン教育が盛り上がってきたんですね。もちろんオンライン教育だけで課題が解決するというものでは全くないですが、「構造的な課題に対して一番インパクトのある解決策になるんじゃないか」と思ったのが、2011年の半ばにeboardを立ち上げたきっかけです。

 

 

<日本の地方が抱える課題に、オンライン教育が寄与できる>

 

 

最初は動画を作って淡々と公開するという作業をしていたのですが、2013年に島根県のある自治体さんで、学校の放課後学習で使っていただくようになって、公教育との関わりができました。もともと町独自で中学生の学習支援をしていたんですけど、お金も人もなかなかリソースがなくて、どうしたら町の中学生のサポートができるかという中で、eboardを採用していただいたんですね。

 

地方の状況はオンライン教育とすごくマッチするんですよ。人が足りないし、お金もないし…。そういうところで活用の可能性を感じてもらえて、導入されました。実は他の自治体さんもやはり同じような課題を抱えていて、今はその隣の町でも使ってもらっています。

 

地域で放課後に子どもたちが勉強できる塾もないから、教育委員会としても学習のサポートをやっていきたい。だけど人もお金もあまりかけられないから、うまく自学自習ができるような、コストをかけずにできる教材が必要だとなってeboardを見つけてもらうっていうケースがすごく多いです。

 

「日本の地方が抱える課題に対して、オンライン教育が寄与できることがある」と実感しています。

 

中村さんの温かくて深い声の中に、子ども達への強い想いを感じることができました

 

 

<聞いているとチラホラいるんですよね。「実は・・・」みたいな>

 

田中) 地方の「人も予算もない」という構造的な課題に、実際にICTを使って教育支援をなさっているんですね。ご活動の中で、外国にルーツを持つ子どもと出会うことはありますか?

 

中村)地方は東京に比べると、外国にルーツがある子は割合として多くはないのですが、聞いているとチラホラいるんですよね。「実は…」みたいな。

 

でも、本当に「ひとつの町に数人」という状況なので、対策が打てないですね。東京のように「この区や地域にある程度の数がいるよ」となれば予算や対策が打てますが、「町に1人しかいない」という状況で、さらにその町の中学生の数自体も限られている。「その外国ルーツの生徒のためだけに、特別に支援員をつけるわけにはいかない」というのは耳にします。

 

田中) 今お話しいただいたような、「地方のごくわずかにしかいない外国にルーツを持つ子どもにどう対応するか」というのは積年の課題になっています。日本語がわからない子どもは全国に約37,000人いるのですが、そのうち半数くらいが、そういう環境で暮らしています。

 

中村) そんなに。

 

田中) そうなんですよ。逆に、そういう子どもが集まって住んでいる地域に暮らしているケースのほうが少なくて、ごく限られた地域です。

 

こうした子どもたちへの対応は、特定の広域のエリアに支援者を置き、この人が子どもたちがいる学校を複数個所まわるという「巡回方式」や、拠点となる学校に各地から子ども達を集める「拠点校方式」がほとんどです。

 

でもそれだと必要な子どもたち全員に届けられるのかというアクセスの課題がありますし、時間や費用のコストもかさんでしまいます。

そもそも、そういう支援者自体がいない、あるいは自治体が予算を確保できないようなところでは、支援がまったく用意できないといった事態も実際に起きています。

 

そういう課題が手付かずのままで、ただただ地方の先生が困っているということも少なくないんです。

 

<後篇はこちらから>

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