無料で学習動画を公開することで、地方の抱える構造的な課題解決を目指すNPO法人eboard (いーぼーど)中村さん。前篇では、その立ち上げの経緯と地方での活用事例をご紹介くださいました。

 

後篇では、「地方が抱える構造的な課題に今、取り組む必要性」や「ICTって怖くない」という話題まで。外国にルーツを持つ子ども達の教育における構造的な課題にチャレンジするNICO WEBにとっても、大いに参考になるお話となりました。

 

おしゃれカフェの片隅で、地方教育の未来を語り合う

 

<血があるうちにワクチンを作らなくちゃいけない>

 

 

中村) 私は地方に行くことが多いので「学習支援」という観点から地域間の比較をしているのですが、「東京で実施されている学習支援」がモデルとなってしまう傾向が強くあります。東京のNPOは大きくて力がありますし、東京23区で予算もあり、ボランティアできる大学生もたくさんいて…となると、東京ではNPOが有給職員を配置する事業モデルになります。

 

でも実はそれを踏襲するのは大阪でも難しくて、地方に行くとなおさら困難なんですよね。この「東京の学習支援モデル」をベースに国や自治体が政策を打ってしまうと、地方では実効性のないものになってしまうんです。

 

田中) 地方だと人手や予算がないっていう根本的な課題があるのに、そこからズレてしまいますよね。

 

中村) 私が学習支援をしていたときに感じた課題は、まさにそこです。学習支援自体は絶対に必要ですが、どんなに現場で支援をしても、地方では課題自体の構造的な解決にはならないんですね。

 

例えて言うなら、病気で出血している人の「止血」はしていても出血の原因となっている病気そのものは治療できていない状況です。でもその解決を同時にやっていかないと問題はなくなりませんから、まずは「血があるうちにワクチンを作らなくちゃいけない」。

 

それを可能にするのが、ICTなのかもしれないと。教材なら、一度作ってインターネット上において置けば、あとはそこにアクセスしてもらうだけでいい。塾で教えていた時に気づいたのは、塾ではある教科の同じ単元を毎年毎年、何度も繰り返し子どもに対して説明をすることが仕事なのですが、それはいちど授業を録画しておいてそれを観るという形式でも良いのではないか、ということです。

 

学校でうまくICTを使っている先生だと、自分の授業の動画を撮っておいてそのままサーバーに置くことで、放課後やテスト前に生徒達が振り返りをできるようにしておく方もいます。

そういうことだけでも別にいいと思っています。それで子どもたちの学習も改善できますし。

 

デジタルとかICTって難しいように思われがちですけど、もっとシンプルにできることが色々あるんです。

 

 

<今すでに100あるところから1を借りるほうが、圧倒的に楽>

 

 

田中) 私たちの「NICO|にほんご×子どもプロジェクト」も発想自体はとてもシンプルなんです。日本語を学ぶ必要がある子どもが日本のあちこちにいて、数も増えている。でも地域には人材も予算もない…。

 

それなら「ノウハウをすでに持っているところ」と「持っていないところ」をネットでつなげばいいのでは、とふと思ったことがきっかけです。

 

外国人自体が少ない地域では「ゼロの状態をなんとか1にしようとする」方向での支援を考えるところが多いのですが、それよりも「今すでに100あるところから1を借りる」ほうが、圧倒的にスピーディで楽です。

 

ICTは発想の転換をしながら「道具として使う」ことで、とてもシンプルで力強いソリューションになる可能性があるのではないか、と思っています。

 

中村) 「ICTを使ってやります」となると支援者にも「私は使えない」と言う方がおられるのですが、でも実際に提供すると、子どもたちがバッと使い出すんです。なので、結局大人も認めざるを得ないというか。子どもたちがむしろ大人に教えてくれるくらいの関係になることもあります。

 

福岡) そういう点では、ICTの導入時に支援者側への研修も大切になりますね。

 

中村) そうですね。でも研修というより実はマインドなんですよね。eboardの場合でも、地域で「私は中学生の勉強の支援なんてできない」と思われている方も多いんです。でもICTがそこにあって、授業は動画が教えてくれる、そのサポートをすればいいだけ、とマインドが変わると「じゃあ私にもできる」となります。スキルというより、実際に経験して「これでいいんだ」と理解してもらうのがいちばんいいかな、と。

 

 

<ICTがコミュニケーションのあり方を変える>

 

田中) そのICTが、地域の方と子どもたちの媒介になることもありますよね。

 

中村) そうです。コミュニケーションのあり方が変わるというか。

 

田中) 地域の人じゃないと絶対に伝えられない情報があると思うんですね。ICTだから人手が関わらないというのではなく、逆に地域の人にこそ活用していただきたいと考えています。

 

たとえば私たちのNICO WEBの弱点は、日本語教育を配信しても「方言」は教えられないことなんです。子どもにとって方言は学校や地域でサバイバルしていく上でとても重要ですから、そのあたりは地域の人にぜひ指導をお願いしたいです。

 

中村) その地域独自の方言とか、固有名詞とかですね。

 

田中) そうなんです。そのあたりは地域とのコラボレーションが必要なんです。

 

地域の人たちが外国にルーツを持つ子どもの支援に対して「自分にはできない」と二の足を踏んでいるところに、eboardさんと同じように「これを使ってください」とNICO WEBで日本語教育の部分を担い、地元の方々だからこそできることを地域で、というツールになったらいいなと思っています。

 

福岡) 役割分担できるといいんですよね。

 

田中) 地域の方の負担感が減って、子どもと関わるきっかけになってくれたら、と。

 

中村) NICO WEBは日本語を学ぶだけでなく、そこからいろんな学びの場を作るためのツールになるとすごく強いと思います。「これがあったら学べるんだ」という経験が各地で積めるようになると、どんどん広がるでしょうね。

 

楽しくて勉強になる時間はあっという間に過ぎました

 

<「フラダンスが趣味」くらいのノリで「週末は子ども達と一緒に勉強してるんです」っていう人をいかに作れるか>

 

中村) 学習支援について強く思っていることがあって。東京で「支援をします」となると、お金も人もとけっこう仰々しいんですね。

 

でも、これは誤解を招く表現かもしれないのですが、「私、学習のサポートが趣味なんです」と言ってもらえるくらいの軽いノリがいいなと思っています。「フラダンスが趣味です」くらいのノリで「週末は子ども達と一緒に勉強してるんです」っていう人を、いかに作れるかがすごく大事だと思っていて。

 

そういう人たちがいて、そこにオンラインの教材が揃っていれば、学習できる場所は整います。そういう人たちこそ、子どもにとってセーフティネットになるので。がんばって2時間かけてやってきた東京の大学生より、地元にいて挨拶してくれる関係の人のほうが長期的にも子どもの助けになります。そういう状況を広げていきたくて、そのためにICTは重要なツールです。

 

 

<低コストで確実に成果を挙げられるモデルが必要とされている>

 

中村) ITのメリットは「コンテンツのコピーができる」ことや「距離を縮められる」ということがあるのですが、それに加えて「低コストでできる」点が大きいと思っています。今後、日本は成長しない、税収が増えていかないけれど、社会保障費は増えざるを得ないという状況です。

 

国の中で教育に割けるお金は増やしていくべきだとは思いますが、それも限界がある。そういうときに、低コストででもちゃんとできます、というソリューションを作ることが必要だと考えていますが、それはやっぱりICTでやるしかないんです。

 

今の東京でやっているようなしっかりお金をつけて学習支援するモデルというのは、その経費を国が負担するにせよ自治体が持つにせよ、継続するとは思えません。もっと先を見て継続させていくためには、やはり違うモデルが必要です。そしてそれを今のうちに作っておかないと、先はない。

 

田中) まさに「血が出ているうちに、ワクチンを」ですね。

 

 

<中村さんと話すことで、未来を垣間見た>

 

 

・・・今回、中村さんとお話をさせていただくことで、ICTという「小難しそうな」道具を手に入れた地方の方々が、子ども達と出会い、一緒に学びあう・・・そんな未来を垣間見ることができました。

 

血が出ているうちにワクチンをつくること。

フラダンスを踊るような気持ちでできる学習支援を広めること。

 

NICO WEBも、ワクチンとなり、フラダンスを踊るように日本語支援ができるようなサイトを目指したいな、と強く共感しました。

 

NICO WEBは今後、7,000人の無支援状態にある日本語がわからない子ども達をゼロにするために、eboardサイトと協力連携し、より子どもの日本語教育機会を広げて行く事を検討しています。

 

中村さん、本当にありがとうございました!

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