プロジェクト概要

はじめまして、日本雪崩ネットワークの出川あずさと申します。雪崩教育・雪崩情報・事故調査・リソースの提供を4つの柱に、冬季レクリエーションの分野における多様な雪崩安全対策を、この15年間、責任者として実施してきました。

  

2012年1月には、設立以来の目標であった雪崩情報の発表を、白馬山域(長野県)にて開始し、2014年11月には初滑りで賑わう立山山域(富山県)でも提供。以後、継続的に実施しています。
  
国内で初めてとなる欧米と同様の詳細な雪崩情報の提供は大きな反響を呼び、「他の地域でも発表してほしい」という声を多数頂きました。そうした声にお応えして、今シーズンは、谷川武尊山域(群馬県)での雪崩情報の提供を検討しており、今後も順次、エリアの拡大を計画しています。

  

(フィールドチェックをするプロフェッショナルメンバーの廣田勇介)

 
しかし一方で、雪崩情報の提供地域を拡大するために、情報システムの高度化と拡張が必要になっています。雪崩情報が「いかに雪山利用者の安全に寄与しているのか」をご理解頂きつつ、多地域で雪崩情報を提供するためのシステム構築のプロジェクトに、ご支援を賜りたいと思っております。

 

 

Q:雪崩情報とは?

A:雪山利用者の安全を支える<社会インフラ>です。現在、山の積雪がどのような状態にあるのかを平易な表現で伝え、そこで活動する人の安全をサポートするのが雪崩情報です。

 

雪崩情報の提供は公共性の高い活動であるため、欧米18ヶ国では、公的あるいは非営利の組織が行っています。また、欧米の雪崩情報は表現方法などの標準化が進められており、統一された雪崩危険度区分などが使用されています。日本雪崩ネットワークが発表している雪崩情報も、それらと同じ形式や構成要素を用いています。

  

(スキーヤーによって誘発された雪崩)

 

 
Q:なぜ、雪崩情報が必要なのですか?

A:一般の雪山利用者が積雪の状態を調べても、把握できることは極めて限られるからです。また、相応の状況判断ができるようになるには、長い時間を掛けた訓練と経験、スキルなどが必要です。

 

それゆえ「どのような種類の雪崩」が「どのような場所」にあり、それが「どの程度の誘発の可能性があるのか」を雪崩情報によって伝え、雪山利用者が積雪の状態に見合った地形選択を行い、適切なリスク管理ができるように意志決定をサポートするのです。

 

(雪崩情報は専門訓練を受けた山岳ガイドなど現場プロが支えています)

 

日本では過去25年間で雪崩によって年平均9人が亡くなっており、その8割が冬季レクリエーション(登山、山スキーや山スノーボードなど)を楽しまれている方です。この死者数を減らし、軽微な事故を含めたインシデント全体を改善するためにも、雪崩情報は必要なのです。現在、日本雪崩ネットワークでは<雪崩死者数を半減>させる目標を立て、各種活動を行っていますが、雪崩情報の展開もその一つです。

  

  

Q:雪崩死者が多いのは、どのような時ですか?

A:雪山での雪崩死者が最も多いのは、雪崩危険度が中程度の時です。この主な原因は、積雪が場所によって異なることに起因する認知の誤りです。

 

たとえば、山の南斜面の積雪は安定しているものの、東斜面は不安定というケースなどがあります。ですから「今日は雪崩の危険が高い」といったごく単純な表現の情報では事故を防げません。より実際の積雪状態に近い具体的な内容を含む情報が必要なのです。

  

たとえば、雪崩危険度区分がHighやExtremeの時、自然発生した雪崩などの分かりやすい兆候によって、人は危険度を比較的容易に認知できます。同様に、危険度がとても低いLowの時なども、積雪が安定していることを理解しやすい傾向があります。一方、危険度が中程度のConsiderableの時、上記のように積雪強度の場所による異なりが大きくなることが多く、たとえある地点で雪を調べても、適切な状況把握は難しいものになります。

 


(雪崩リスク管理における意志決定の信頼度)

(Munter 1999, CAA data, Jamieson 2003より作成)

  

さらに、雪崩を発生させる積雪の不安定性には、ある吹雪によってもたらされ不安定な期間が比較的短いもの(数時間~5日程度)と、積雪内の雪が脆弱なタイプへ変化することで不安定な期間が長くなるもの(1週間から2ヶ月以上)があります。

 

後者の場合、特に積雪強度の場所による異なりが大きくなる傾向があり、これが国内外を問わず、多数の雪崩事故に係わっています。これもまた雪崩情報が必要な理由です。週末に山へ遊びに行く人が、二週間前に積雪内に形成した不安定要素を的確に把握することは困難だからです。

  

(持続する不安定性を持つ積雪が、多くの雪崩事故に係わっています)

  

  

Q:雪崩情報は、どのような内容ですか?

A:標準化された5段階の雪崩危険度区分、危険性の高い雪崩の種類とそれが存在する概ねの方位や標高帯と誘発の可能性、および推奨される地形選択と行動管理への助言などを含みます。詳細は「こちら」を。

 

(日本雪崩ネットワークによる雪崩情報の例・2015/1/17

 

雪崩情報の内容をよく理解するには、雪崩について勉強する必要もあります。日本雪崩ネットワークでは、日本各地で無料の雪崩安全セミナー「アバランチナイト」や雪上講習会「セイフティキャンプ」を開催し、雪崩情報の適切な理解と利用が進むように活動しています。

  

  

Q:雪崩情報を発表するのに必要なものは?

A:専門的な教育を受け十分な経験を積んだ人によってフィールドで採取された積雪などのデータと、それを集約させるシステム、そして、これら全てのデータを分析評価する専門的な知見を持つ人材などです。

 

日本雪崩ネットワークでは、2002年から海外の雪崩専門機関と提携し、情報共有を念頭にした専門教育を実施することで、人材の育成を行ってきました。さらに、インターネット上に情報共有のプラットフォーム「雪の掲示板」や積雪断面観測のデータベース「SPIN」を設けることで、積雪コンディション情報の集約化を図り、雪崩情報が展開できるバックボーンを構築してきました。これら時間を掛けた取組の詳細は「こちら」にまとまっています。

 

今回のプロジェクトは、この情報システム全体の拡張と高度化のためです。

  

(現場プロ対象の講習会・雪崩業務従事者レベル1にて)

  

  

Q:構築される新しい情報システムで、何がどのように変わりますか?

A:積雪コンディションの調査員および寄せられる各種データの管理運営が迅速かつ的確に行えるようになり、なおかつ雪崩情報を発表する前段階の作業が効率化することで、多地域での雪崩情報の発表を助けます。

  

雪崩情報は毎朝発表されますが、その作業は前日の夕方に始まっています。山岳ガイドやスキー場関係者などから、その日のコンディションが「雪の掲示板」などに寄せられ、さらにそれらを補足する情報がメールや電話などを通じて本部に集まります。

 

(発生した雪崩の記録を採るプロフェッショナルメンバーの横山巌)

  

これらのデータを統合し、不明瞭な部分の確認を行い、その日の雪崩コンディションを評価したレポートが夜には作成されます。そして、翌朝5時過ぎから夜間の降雪量や風などの気象データ、および朝の積雪状態の情報を元に、当日の雪崩情報は作成され、朝7時過ぎに発表されます。

 

今回のプロジェクトで実施するシステムの拡張により、情報の集約作業および分析評価、そして雪崩情報発表までの一連の流れが大きく改善されます。このような効率化は、雪崩情報を多地域で展開するために必要不可欠です。また同時に、雪崩情報の閲覧性の改善も合わせて実施し、利用者の利便性の向上にも繋がります。

 

  

Q:日本雪崩ネットワークは他にどのような活動をしているのですか?

A:雪崩教育・雪崩情報・事故調査・リソースの提供が4つの柱です。

 

雪崩教育は、無料の安全セミナーから一般の雪山利用者向けの雪上講習会、そして山岳ガイドやスキーパトロールなど現場プロが受講する専門講習会まで、幅広く展開しています。プロ対象の雪崩プログラムは、公益社団法人日本山岳ガイド協会にも提供されており、代替認証が行われるなど両団体は協力関係にあります。

  

(無料の雪崩安全セミナー・アバランチナイト

(これまでの参加者は延べ1万人を越える)

  

雪崩事故の調査においては、これまで53件の事故を調査しており、その内21件で破断面での調査を行い、雪崩の原因を特定しています。調査内容は無料セミナーなどを通して一般の方に還元し、事故防止に役立てています。また、リソースの提供では、海外の良質な本を3冊翻訳し、自らも本を2冊執筆、あるいは日々フィールドでデータを記録するノートなどの提供を行っています。

  

(事故となった雪崩の破断面で確認作業をするメンバー)

  

これら全体設計された包括的な雪崩安全活動に対し、公益社団法人日本山岳協会から推薦を頂き、2015年1月、国土交通省より雪崩災害防止功労者として団体表彰を賜っています。

 

 

<支援のお願い>

日本雪崩ネットワークの活動は、雪崩教育の重要性と雪崩情報の有効性を理解した方々による献身的なボランティアによって支えられています。

 

山岳ガイドやスキーパトロールといった現場プロ、レクリエーショナルでありながら専門的な講習を受け経験を積んでいる熱心な雪山利用者、そして雪氷研究者など、専門的なスキル・知識・経験を持った方々の協力によって雪崩情報の提供プロジェクトは予想以上の成功を収めてきました。

  

しかし一方で、近年の滑走者による山岳フィールドの利用増大や、インバウンドによって急速に増加している海外からの滑走者の安全のためにも、雪崩情報の提供地域の拡大は急務になっています。
  

(山を滑る人が増えており、その安全のために雪崩情報が必要です)

  

日本雪崩ネットワークの財務基盤は、雪上講習会の受講料を中心しており、このような急激な変化に対応することが難しい状況にあります。

  

雪崩情報は、山岳レクリエーションを重要な観光資源と考える国では、安全に係わる社会インフラとしてごく当然のこととして提供されており、そのような活動を日本雪崩ネットワークは行っています。

 

雪崩事故を予防すると同時に、重大な事故を減らす上で極めて重要な雪崩情報の提供を、さらに拡大拡充するために必要な「情報システム構築」への支援をなにとぞお願い申し上げます。

  


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