温故知新とクラウドファンディング

 

鍵屋 一(跡見学園女子大学 教授)

 

 名古屋大学減災館が昭和東南海地震の記録と記憶に収集に取り組むと伺い、これは応援しがいのある素晴らしいプロジェクトだと直感しました。この取り組みは3つの点で極めて貴重なものと考えています。一つ目は、 第2次世界大戦で敗戦濃厚な時期に発生した大災害ですから、 戦争と大地震が重なった、いわば超巨大な複合災害の事例です。二つ目は、マイナスから出発した戦後復興の、さらに地震災害を加えた二重のマイナスからの復興事例です。 第3に、クラウドファンディングという新たな手法で市民の応援を得ようする試みです。

 この取り組みでは理学、工学的な調査に加え、当時の稀有な社会的状況を踏まえ、被災した人々がいかにして生活を立て直したのか、地域の復興はどうなされたのか、 行政はどのような災害対応や戦災復興対応に取り組んだのか、 などが明らかにされることを期待しています。それは、昭和東南海地震の災害復興に留まらず、戦後日本再建の重要な事例であり、きたるべき南海トラフ巨大地震災害への対応、復興への貴重な指針となるに違いないからです。坪内逍遥は「 たとい其の陽は一意専念過去を想うように見えたるも、其陰は所謂温故知新の沙汰にて未来の料にとてすることなり。」 と述べています。ひたすら過去を調査しているように見えても、温故知新に取り組むことにより未来の資産となるのだという意味です。

 とかく研究に短期的な成果を求める風潮に掉さし、 市民の応援をクラウドファンディングによって得ながら、 温故知新の実践を志向する本プロジェクトが成功することを心からお祈りいたします!

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