【第7弾】世界へ翔んだ、川上音二郎・貞奴の軌跡を未来へ。

おはようございます。松竹大谷図書館の武藤です。

昨年2020年10月22日に、当クラウドファンディングの成果として、《松竹大谷図書館特別資料閲覧システム》のweb上での一般公開を開始し、システムの開発・制作を行った立命館大学アート・リサーチセンターのHPの活動報告でもご紹介頂いたところ、ジャポニスム学会の海外の研究者の方より、日仏会館・フランス国立日本研究所主催のシンポジウムで、音貞アルバムの紹介をしてほしいとのお誘いがあり、1月30日(土)開催のシンポジウム「ジャポニスムの時代の黄金期における日本の芸能公演と西洋の芸術家たち：ある国際文化交流の実例か？　貞奴や花子をめぐって」に、当館スタッフが参加させていただきました。

当初は日仏会館ホールでの開催が予定されていましたが、緊急事態宣言下ということでZOOMを使用したオンライン開催となりました。全体の構成としては、午前中に３つ、午後に４つの発表があり、それぞれに質問時間と、発表の最後にディスカッションの時間が設けられ、そして最後には、貞奴へのオマージュのダンス公演『貞奴：再振付の試み』のビデオ上演もありました。

当館は、午後の一番目に、「松竹大谷図書館の特別資料閲覧システムについて 音貞アルバム：貞奴(1871-1946)と川上音二郎(1864-1911)：アメリカとヨーロッパのツアーに関する貴重資料」のタイトルで発表を行いました。

発表は、当館の簡単なご紹介から始め、川上音二郎と貞奴が明治32年より33年にかけて行った欧米興行に関する資料、手紙や葉書・新聞記事・写真などが貼り込まれているアルバムの内容について、図版を使ってご説明しました。そしてこのアルバムの修復とデジタル化を計画し、【第7弾】クラウドファンディングでその資金を募集したこと、実際の修復作業やデジタル撮影の様子などをご説明し、閲覧システムの使い方についても少しご紹介しました。

発表の最後にはまとめとして、今回デジタル化して公開することによって再認識することができた音貞アルバムの資料的価値について、次の3つの点を挙げてみました。

１）明治という新しい時代に生まれた新演劇「新派」の祖とされ、日本演劇の近代化に大きな役割を果たした川上音二郎と、その妻で日本の近代の女優第一号とされる貞奴一座の欧米公演の記録、つまり演劇資料として大変貴重であるということ。

２）このアルバムの持ち主だった青木鶴子(音二郎の姪で欧米興行に子役として同行していた)は、のちにハリウッドで映画女優として活躍し、映画俳優早川雪洲の妻となった人物で、彼女の少女時代を記録した、映画資料としても貴重なものであるということ。

３）川上音二郎・貞奴一座を支援し、鶴子を養女に迎え、彼女のために一座の記録をアルバムに残したサンフランシスコ在住の日本人画家青木年雄の記録が残る、美術資料としての側面もあるということ。

３番目の点は、今回のシンポジウムで発表する機会を頂いたことで気付いた事です。ジャポニスム学会の美術専門の研究者の方によると、青木年雄については日本よりアメリカの方がまだ知られてはいるものの、不明な点が多いとのことなので、これからの研究に、このアルバムが少しでも活用される事を願っています。そして、研究の成果をデータベース上の書誌情報などに反映させて内容を充実させ、このデータベースを将来的にも成長させていきたいと考えていることを述べて発表を終わりました。

当初は、研究者の方々の専門的な発表の中に、資料紹介という当館の発表内容が相応しいのかとの心配も抱いていましたが、司会の先生方が補足説明をして下さったり、参加者の方からクラウドファンディングについての質問も出たりして、興味を持って聞いていただけたようでした。司会の先生からも、研究者からの発表と、貴重資料を保存する図書館の立場からの発表と、パフォーマーとしての立場からの発表と、それぞれ色々な立場からの発表と交流があり、意義深いシンポジウムであったとのお言葉を頂きました。

後日譚として、1月30日のシンポジウム開催後、2月の第一週の当館HPへのアクセス数が突然増加したそうで、シンポジウムでの発表の成果ではないかと考えています。

このクラウドファンディングでの成果として、Web公開した、《松竹大谷図書館特別資料閲覧システム》が、あらたな研究成果を生んでいく事を願っております。