プロジェクト終了報告
プロジェクトへのご支援の御礼
理化学研究所(理研)のクラウドファンディング“「科学史を未来へ繋ぐ」 理化学研究所 資料修復・保存プロジェクト”が終了して約2年が経ちました。
本プロジェクトは2022年7月27日に開始、約2か月の間に多くの皆さまから応援のメッセージやご寄附を頂戴いたしました。最終的に284名の方々から7,033,000円の資金を頂戴いたしましたことに改めまして感謝申し上げます。
この度、いただいた寄附金にて理化学研究所が所蔵する資料の保存処置およびそれに付随して、修復後の保存環境の整備を行いましたので下記にご報告いたします。
2025年3月
理化学研究所 クラウドファンディング関係者一同
プロジェクト概要
今回のプロジェクトは、「資料を修復し・保存する」ことを目的とし、目標金額1000万円が達成されたときに可能な作業として下記の資料の修復を掲げていました。
1.仁科芳雄書簡ファイル 37冊
2.仁科芳雄研究室資料 20箱
3.理化学研究所彙報 邦文版 524冊
当初はそれぞれ専門会社へ依頼して、修復・保存処置を行い、収蔵庫のない環境でも可能な限り永久保存に近づける予定でした。皆様からご支援いただいた寄附金をもって1.については予定通りの作業を実施できました。2.と3.については修復費の都合で専門会社へ依頼しての処置は実施できませんでしたが、自前で行える処置を実施し、収蔵庫の環境を整えることで保存状態の改善に努めています。また、2.と同じ資料群に属する資料の修復処置(以下4.)を実施しました。
さらに理化学研究所では、かねてより歴史資料の保存場所として事務スペースを収蔵庫に改修する計画を立てておりましたが、2023年9月に改修が完了し同年12月より運用を開始しました。1.2.3を含む全ての資料の保存環境に関わる作業として、収蔵庫環境を適切に維持するための備品購入、防虫処置(以下5.)にも皆様からの寄附金を一部充てさせていただきました。
4. 仁科芳雄研究室資料(仁科芳雄使用の椅子)の修復
5.保存環境の整備
上記1~5について、実施した作業の詳細を報告いたします。
1.仁科芳雄書簡ファイル37冊
本資料は、日本の現代物理学の父として知られる、財団法人理化学研究所第4代所長仁科芳雄の1920年代から1930年代にかけての資料です。理化学研究所創立60周年記念事業を契機として、1978年3月に駒込の3号館という研究棟から記念史料室に移管され、保存されてきました。出所の名称を取って、関係者の間では「3号館資料」と呼ばれています。その内容や形状は、研究過程のメモや実験ノート、直筆原稿、留学中の日記、書簡など多岐にわたります。
修復前は、資料番号ごとにA4対応のリングファイル(37冊/1,028件)のクリアポケット両面に収納され、A4より大きい紙資料については折った状態で納められていました。ステープラーやクリップ等の金属のサビが紙に広がった劣化、セロハンテープや補修紙による補修痕の変色、劣化・経年によって生じた亀裂、破損などが認められ、早期の修復と保存容器の入れ替えが必要でした。


今回の修復では、以下①~⑤の作業を依頼しました。
①ノンブル(番号)付与
番号ラベルシール約1,500枚を除去し、それに代わるノンブルを資料1枚ごとに付与する。ノンブルは和紙の小片に鉛筆で記入し、メチルセルロースで本紙に接着する。

②サビ除去
サビ約400カ所を除去して、和紙で繕う。
③本紙修復
本紙の亀裂、破損など約500カ所を和紙で修復する。また、過去に修復処置として用いたセロハンテープおよび補修紙について、資料に悪影響をおよぼす可能性のあるものを除去する。

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④フラットニング
巻き癖や折り目がついた資料約750枚を平坦化する。

⑤保全作業
資料番号ごとに長期保存に適した個別フォルダやL字封筒などの扱いやすい包材に入れ替え、まとめて保存容器に収納する。

※以上の画像は修復報告書(東京修復保存センター作成)より抜粋
以上の作業を経て、本資料群は安心して取扱いができる状況になり、また長期的な保存に適した保存形態に整えることができました。
2.仁科芳雄研究室資料 20箱
本資料は1.と同様、仁科芳雄に関連するもので、主に1930年代以降の仁科の研究活動及び、財団法人理化学研究所、その後株式会社科学研究所の運営に関する資料です。仁科が長く研究室を構えていた駒込の37号館に蓄積されました。1951年に在任中の仁科が死去した後もそのままの形で保管され、その後発足した仁科記念財団によって管理されてきました。しかし、建物の取り壊しが決まったことをきっかけに2019年に仁科記念財団から理化学研究所へ寄贈されることとなりました。資料の量は膨大で、手書きの原稿、ノート、罫紙、書簡、国内外の文献コピー、外国語のタイプ資料、写真、図面や青焼など種類も多岐にわたります。寄贈後、記念史料室において整理作業を開始し、現在も続けています。
元々納められていた茶封筒、個別フォルダは酸性劣化が著しく、ボロボロになっているものが多くあります。一部新しい個別フォルダや事務用のクラフト封筒・中性紙封筒に入れ替えられたものもあります。また、段ボール箱に平積みされたものと、個別フォルダや封筒で縦置きされたものがあり、これまでの管理者が苦心して保存のための整理を試みてきたことが伝わってきます。

プロジェクトでは仮の整理が済んでいる資料(段ボール箱約20箱分)を対象として、修復・保存処置を計画していました。当初は新しい保存容器に入れ替えながら必要に応じて修理を行う作業を外部委託にて実施する予定でしたが、費用の面からすぐに実施することは断念し、収蔵環境の改善を優先的に実施しました。そして、収蔵庫の運用を開始して環境の改善が叶ったことで、時間的に余裕が生まれたことから、保存容器の入れ替え作業(下記①~③)は職員が実施することにしました。今後入れ替えの作業と同時に修復が必要な資料を選定し、区切りの良いところで外部委託にて修復を実施する予定です。
①クリーニングと状態確認
ほこりやカビのような汚れが付着しているものについて、クリーニングを実施する。

②簡易撮影と番号(付箋)の挟み込み
仮番号ごとに簡易撮影を行い、番号を書いた和紙の付箋を挟み込む。
修復の必要について検討する。

③適切な保存容器への納入
番号ごとに封筒や個別フォルダへ収納し、保存箱へ納める。

★今後の修復処置
劣化状況は、ステープラーやクリップの金属のサビが紙で広がったサビ痕、経年によって生じた亀裂、破損が確認されている。また、酸性紙資料の劣化も進んでいる。程度や周囲への影響を考慮して修復の有無を検討、実施する。
3.理化学研究所彙報 邦文版 524冊
『理化学研究所彙報』は理化学研究所が発行した論文集で、研究所の研究アクティビティを知ることができる資料です。1922(大正11)年に創刊し、後に『科学研究所報告』、『理化学研究所報告』と、名称を変えながら1992年まで70年にわたって発行されました。『理化学研究所彙報』は邦文版と欧文版があり、本プロジェクトでは参照頻度の高い邦文版524冊を対象として修復保存処置を計画しました。
彙報の邦文版はB5 サイズのステープラーで平綴じした簡易製本で、厚さが0.5 ㎝前後の小冊子です。市販のファイルボックスに納めて書棚に配架しています。ステープラーのサビが出ており、紙が腐食されているものも見られます。背表紙の破損など、取扱いに注意を要するものもあります。
当初の計画では、外部委託によりサビ除去と破損部分の繕いを行い、長期保存に耐えうるファイルボックスを新調する予定でした。しかし、2.と同様に費用の面からすぐに実施することは断念し、収蔵環境の改善を優先的に行いました。そして、収蔵庫の運用を開始して環境の改善が叶ったことで、時間的に余裕が生まれたことから、職員によるクリーニングを行いながら、各冊子の状態の確認や版数の情報を収集することにしました。また、所内の別部署において他にも『理化学研究所彙報』が保管されていることが判明したため、今後クリーニング作業を進めながら、どのセットを保存版として修復保存していくか検討することにしています。


★今後の修復処置
複数確認された『理化学研究所彙報』の中で保存するセットを決定する。その上で必要な作業を確定させる。修復作業はサビの除去と和紙による繕いが想定される。現在のボックスを使用する、あるいは新しくボックスを新調して配架する。
4. 仁科芳雄研究室資料(仁科芳雄使用の椅子)の修復
本資料は、仁科芳雄が研究室にて実際に使用していた調度品の一つで、2.と同じく2019年に仁科記念財団から理化学研究所へ寄贈されたものです。2021年に仁科研究室が創設90周年を迎えたことを記念して、譲り受けた仁科博士の調度品を用いて研究室を再現した展示施設「仁科芳雄記念室」を仁科加速器科学センターに設置しました。
今回修復対象となった椅子は、2022年の仁科芳雄記念室開室時より展示していましたが、座面の損傷や脚部のぐらつきなど安定的に展示することが困難な状態にあったため、緊急で修復を行うことになりました。オリジナルに近い状態を維持するため再塗装や座面張替等の処置は行わず、必要最小限の修復を行うという方針のもと、以下のような作業の実施を依頼しました。
①椅子全体のドライ及びウェットクリーニング
②脚部の固定
ぐらつき箇所を確認後、緩んだ部分に接着剤を充填し、補強金具を取り付けて脚部を固定する。
③背もたれに貼られたラベルシールの除去

※現在も仁科芳雄記念室にて展示しています。
5. 環境整備
前述のとおり、記念史料室では2023年12月より新収蔵庫の運用を開始しました。移転の際に資料の一部や、収蔵庫とその外周に塵埃と虫害が確認されたことから、文化財管理に適した環境を整備するため、以下のIPM(総合的有害生物管理)業務を依頼しました。

①IPMメンテナンス(微細除塵清掃)
改装工事や収蔵棚設置によって生じた塵埃など微細粉塵に対する清掃作業。

②仁科研究室什器の燻蒸作業
仁科研究室什器のうち、ソファーベッドおよび黒板に虫害が確認されたことから、殺虫・殺卵のため、二酸化炭素による包み込み燻蒸を実施。

③防虫ブラシの設置
外部から収蔵庫内への昆虫の侵入を防ぐため、開口部(6か所)に防虫ブラシを設置。

収支報告
【収入】
クラウドファンディングによるご寄附 7,033,000円
【支出】
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①クラウドファンディング諸経費 |
2,290,016 |
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②仁科芳雄書簡ファイル(37冊)修復保存処置 |
3,391,608 |
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③仁科芳雄研究室資料(20箱)保存処置 |
202,015 |
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④理化学研究所彙報邦文版(524冊)保存処置 |
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⑤仁科芳雄研究室資料(仁科芳雄使用の椅子)修復保存処置 |
71,500 |
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⑥保存環境の整備 |
1,078,935 |
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計 |
7,034,074 |
収入7,033,000 - 支出7,034,074 = -1,074
※赤字1074円については運営費交付金より支出。




















