皆様、温かいご支援誠にありがとうございます。今回の新着情報では、石澤先生の右腕として現地で活躍する、上智大学アジア人材養成研究センター・研究員の三輪悟先生にインタビューを行いました。

 

(上智大学アジア人材養成研究センター・研究員の三輪悟先生)

 

建築は社会の役に立つべき

 

私の人生には、1995年1月の阪神淡路大震災が大きな影響を与えました。当時、建築を学び始めた頃でした。私が住んでいた東京の自宅のテレビで見る被災地の光景は、高速道路が倒れ、建物が倒壊し、たくさんの人々が亡くなっているというものでした。人間の生活に対して、“都市計画”や“建築”は本当に貢献してきたのか、と考えさせられ、「建築は社会の役に立つことをすべき」と思うきっかけとなりました。

 

 初めてアンコール・ワットに行ったのは、1997年10月です。日本大学理工学部建築学科に在籍していて、指導教員の片桐正夫先生が上智大学の石澤良昭先生とカンボジア建築の共同調査を行っていたのがきっかけでした。当時は、建築史が専門で、勉強のために世界の建築をたくさん見たいという思いで、仕事内容もよく知らないままカンボジアに向かいました。

 

初めて来たときは、国内のタイ国境ではまだ戦闘が続いており、銃を持った多くの軍人が街中を歩いていました。結果的には何もありませんでしたが、「通勤途中に強盗に遭って殺されるだろう」とか言われたこともありました。

 

アンコール・ワットの遺跡修復をきっかけに、私と同世代の人たちともたくさん出会いました。彼らは、私と同じ時期に生まれ、しかし異なる国に生まれただけで、自分とは違って内戦で生きるか死ぬかの困難な時代を生き抜いてきました。少し前まで命がけの環境にいたにも関わらず、文化再興のために遺跡修復に懸命に取り組む彼らの姿を目の当たりにして、「自分も何かしなければ」「自分のやるべきことをやろう」という気持ちが強くなりました。そして、大学院を卒業してすぐ1999年5月にカンボジアへ移住しました。

 

 

20人以上の家庭を訪問。共に働く仲間の暮らしを理解しなければ、遺跡修復は始まらなかった

 

最初の頃は、肌の色も見た目も少し似ていると感じましたが、人も自然も暮らしも全く違いました。特に「自然と対峙しない素朴な暮らし」に驚きを覚えました。都会での現代文明が既に失った発想だと感じ、そこから学びたいと考えました。お金や文明で計れない価値観と、ゆっくりとした時間の中で生きる彼ら。日本から見れば経済的には貧しいけれど、幸せそうな笑顔を浮かべ、誰にでも差し出す優しさが印象的でした。

 

そんな気候風土の中で、やはり違う国同士の人々が、共に作業を行うのは困難に感じる出来事もありました。

 

遺跡修復の完了が見込める時期になると、スケジュールを立てて、例えば1年後には間に合うように進めていこう、という段階に入るわけです。朝の集合時間もしっかり守り、滞りなく一日一日進めていこう、と我々日本人は思うんですね。

 

しかし、集合時間の朝7時30分になっても、作業員が来ない。やっと来たと思えば、「自分の時計はまだ7時30分になっていない」と本人は答えるんです(笑)。

 

(遺跡修復を行う仲間、ニム・ソティーヴン先生と共に)

 

日本的なものばかりを主張しても意味がないことがわかりました。我々が彼らの全てを理解して解釈できるなんてことはほとんど不可能です。しかし、「なんとなくだけど、彼らはこんなことを考えているのではないか」という感覚を掴むために、20~30人の家庭訪問を行いました。どんなものを食べて、どんな暮らしをしているのか、何を考え、何を求めているのか、彼らの文化や価値観を理解しなければ、遺跡修復という大きなことを成し遂げられないと感じたからです。

 

 

カンボジアの文化遺産は、カンボジア人の価値観で直すべき

 

「いつまでアンコール・ワットに関わるつもりか」とよく質問されますが、特に決めているわけではありません。必要があれば、必要なことをする。今は、目の前の修復工事を終えることが一先ずの目標です。

 

国境を越えて、しかし、相手国の文化を尊重しつつ国際協力に取り組むことは、口で言う以上に難しいことです。この先、私が何年暮らしたとしても、カンボジアの文化を100%は理解しきれません。完璧に理解できるなんて図々しいと思うのです。仮に京都や奈良の寺を、アメリカやヨーロッパのような他の国が修復すると仮定して、日本の美的感覚を理解して直すなんて絶対に無理だと誰もが思うでしょう。だから、カンボジアにある文化遺産は、カンボジア人の価値観で直すべきなんです。

 

私は既にカンボジアに20年関わっているので、この世界のプロとして活動したいと考えています。お金がない、言葉が通じない、天候が悪い、あらゆる問題に直面し、言い訳が通じてしまう環境で、いかなる状況においても答えをだして前に進み一定の成果を出す、これがプロではないでしょうか。

 

 

◆三輪 悟(みわ さとる)

上智大学アジア人材養成研究センター・研究員。アジア文化研究所・共同研究所員。専門は東南アジアの文化遺産建築の保存修復と活用に関する研究(カンボジア)。1997年より上智大学アンコール遺跡国際調査団に参加しアンコール・ワット西参道の建築調査を担当。1999年日本大学理工学研究科修士課程修了。同年よりカンボジア駐在を始める。現在、アジア人材養成研究センター(本部、カンボジア)のフィールド所長。

 

主な著書、論文:2014『カンボジア 密林の五大遺跡』石澤良昭と共著 連合出版。2011『アンコール・ワット西参道修復工事 第一フェーズ 完成報告書』石澤良昭と共著 上智大学アジア人材養成研究センター。2009「インド古代建築文化遺産調査報告」pp.109-159『カンボジアの文化復興(24)』石澤良昭と共著 上智大学アジア人材養成研究センター。

 

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