プロジェクト概要

 

 

ー【動画】UMI・SACHIの取り組みの元となった 宗像国際環境100人会議よりー

 

 

未だに明らかになっていない
「宗像海人族」の海を護る知恵を調査し、世界の海の未来へ生かしたい。

 

はじめまして。九州大学の清野聡子と申します。今回、「海調べプロジェクト」と銘打って、海洋環境を護るために、宗像海人族について民俗学的に検証するとともに、宗像海人族とその末裔が有する「海を護る知恵」を、「世界の海を護るための新しい考え方」として、来年6月の国連海洋会議での発表を通じて世界に発信したいと思います!

 

2030年までの実現を目標とした国際社会の持続可能な開発目標(SDGs)は全部で17の目標が設定されていますが、その14番目は「海洋環境」についてです。日本列島には、世界にもあまり知られていない、海の知恵をもった海洋民族がいます。その代表例が、今年世界遺産登録で話題となった福岡県宗像(むなかた)市を拠点とした宗像海人族です。

 

日本列島は、農耕民族や工業国としてのイメージが自他ともに強く、海洋を通じた日本人像は国内外にも知られていません。

 

しかし、宗像海人族の古来から現在までの動きを知ったら、もっとダイナミックで国際的な日本人像が世界に伝わるかもしれません。また、宗像海人族が護ってきた知恵こそ、これからの世界の海洋環境の保全にとって大変重要なものだと信じていますが、残念ながら、それは今まできちんと調べられ・まとめられることはありませんでした。

 

そこで、今回、みなさんのお力をお借りして世界の海を護るヒントを得る一歩を踏み出したいと思います。

 

宗像大社を擁する、宗像地域とその海。

 

 

海洋保全のヒントが宗像にはある。

 

 

福岡県の宗像地域は、世界遺産に先日登録された宗像大社を擁する「神宿る地」です。また、宗像は東アジア諸国と日本の交易の要衝で、「日本」という国家や文化がここから誕生したと言っても過言ではありません。その地の豪族であった「宗像族」は、海を通じた交易によって栄えた「海人」であり、宗像大社の建立の立役者でもあります。今回、宗像大社を中心として世界遺産登録が認められたのも、東アジアの交易の要衝で、日本文化の形成の核となった宗像が、世界的に評価されたためです。

 

宗像海人族と、その末裔である今に生きる宗像の人々は、世界的にも稀な特徴をもっています。まず、彼らは、宗像大社の教えである自然への畏敬を日々の生活に取り込み、海の恵みを長きにわたり大切に利用してきました。「持続可能性」という言葉は近年に欧米で確立した言葉ですが、その言葉が現れる1000年以上も前から、持続可能な開発を体現してきたことになります(宗像大社の一部である沖ノ島の祭祀活動は、4世紀には既に実施されていたことが確認されています)。

 

▲かつての宗像の海岸の様子。70代の漁師さんの話だと、宗像の漁村の鐘崎の前には遠浅の砂浜が広がっていました。高度経済成長期までは、漁村の子どもたちは海が遊び場でした。泳ぐだけでなく「タオルで魚が掬えた」ほど生き物が豊かだったといいます。大風の翌日には砂浜にこんもりと海藻がこんもりと打ちあがり、ピンクの美しい桜貝が散り敷いていました。遠浅の砂浜はこんな豊かな生態系に恵まれていたのです。漁場、遊び場、美しい景観など、今思えばさまざまな意味があったのです。

 

また、その取組が今でも続いており、例えば昨今、高級魚介類のトラフグやアワビの漁獲量が減ったことを踏まえて、宗像の漁師さんの間で、ある期間の禁漁が自主的に定められました。

 

このような取組は国内でも大変珍しく、大抵は、乱獲されて魚種が絶えてしまうことがほとんどです。ただ、その宗像に伝わる「知恵」の全貌についてはきちんと調査がされたことがなく、漁師さんの高齢化が進んでいる現在、早急にその記録と将来への継承が必要となっています。

 

毎年10月1日に開催される「みあれ祭(海上神幸)」の様子。
自然を畏怖し、海を護る教えが、今も宗像の漁師の間に生きている。

http://www.jf-munakata.jp/okinoshima.html

 

また、例えばスカンジナビア半島の「海人」は「バイキング」が有名ですが、東アジアの「海人」については、きちんと調査されたことも少ないですし、世界的な認知度も低いです。「持続可能な開発」を長年実現し、しかもそれを今も続けている人々の活動にスポットライトが当たらないのは、世界的にももったいないことです。

 

沖ノ島とその海

 

この他にも、宗像には海洋保全につながる次のような特筆すべきことがあります。

 

1)海にまつわる環境問題を国内外の関係者と話す場として、「宗像国際環境100人会議」(http://munakata-eco100.net/)が2014年から毎年開催されており、地元の環境意識が高いこと。

 

2)海の保全に関する伝統的知恵につながる物が比較的よく保存されており(現在は未整理のまま倉庫に眠っているものがほとんどです)、それを活かしたいという意向が、宗像市や漁師などの地域コミュニティに強くあること(なお、宗像の漁具は、国指定有形民俗文化財「玄界灘の漁撈用具及び船大工用具」に指定されています)。

 

3)宗像にある漁村の鐘崎(かねさき)は、日本の海女(あま)の発祥の地と言われており、海流をたどりながら、日本列島の各地の磯に海女の文化が展開していった事実があること。また鐘崎では、その海女漁業がつないだ漁村地域間の縁を現在も継承していること。 

 

4)宗像大社をトップとする宗像神社は全国に見られ、海流をたどり、河川を遡り、潟湖を漕ぎ渡って、日本列島の内陸にまで宗像の知恵を伝え、物産を運んだ海人たちの足跡であると考えられること。

 

5)2017年に宗像の沖ノ島や沿岸が世界文化遺産に登録され、宗像の海が厳正保護区として、人の利用する地域とのバッファーゾーンとして位置づけられ、その海の特性に応じた海洋環境管理が必要になっていること。またその運用に、地域の知恵が活かされる必要があること。

 

6)鎌倉など東国とのつながりが歴史的に確認されていること(10~13世紀に日宋貿易が盛んだったころ、太平洋側にも港が必要として、鐘崎に模した港湾が鎌倉に北条執権への提案で建設されました。具体的には、神奈川県鎌倉市材木座に残る国指定史跡の和賀江島(わかえじま)に、鐘崎の港を擬したとの記録が残っています。また、鎌倉大仏の造営資金の調達のために、鐘崎周辺に勧進上人といわれる資金調達のお坊様がおられたという記録もあります)。

 

▲現在、収蔵庫にほとんど眠っている、漁具や船大工の道具などの民具。「宗像の海を護る知恵」が詰まった道具類が、海でどのように使われていたのか。今ならこの道具について、70代後半の熟練した漁師さんたちのお話をライブで聴けるのです。文化財指定されている竹や木など自然素材の道具。今日にも役立ち、未来にもつながる技術が詰まっています!

 

 

▲海の神への想いを象徴する、今も畏敬の念が生きている宗像の漁村の祠。何気なく石が積まれているようですが、黒い石は玄武岩、祠の壁は花崗岩と思われます。2つも宗像の大地を構成する火山性の岩石。海岸の黒い玉石は玄武岩、白い砂は花崗岩が砕けて海まで至ったものなのです。さらに貝殻にも注目しましょう。宗像の磯を代表する生物。アワビは草食性、ホラガイは肉食性です。磯に海藻が生え、岩や石を微小な植物が多い、それを食べる、より小さな貝やカニが生きていることの証なのです。
ここにも宗像海人族がもつ生態系の概念が息づいています。

 

 

▲神奈川県鎌倉市材木座の「和賀江島(わかえじま)」。鎌倉時代の港の遺構といわれ、国史跡に指定されています。

 

 

国境のない海には、地球環境の問題が押し寄せる。

 

 

このように、宗像は環境保全という点でも、日本のアイデンティティを語る上でも貴重な地ではあるのですが、現在の宗像は、国境のない海に面していることで、地球環境問題の影響を如実に受けております。

 

中でも、磯焼けは深刻です。海中の森といわれる海藻が茂り、多くの生物の棲みかとなっている「藻場」が枯れてしまっているのです。陸上の森が消滅したら大問題になりますが、海中の森の危機は漁師さんや研究者ぐらいが検知しているものの、社会で話題になることも少ないのです。

 

宗像の磯焼け:コンブやワカメなどの海藻が減少。硬い殻のような海藻が、海底の岩の表面を覆います。
(写真:筑前大島にて。海藻研究所 新井章吾)

 

また、近年は、海水温度もどんどん上昇しており、この数年は真夏に30度を超える水の塊が日本の西南部を覆うようになりました。

 

宗像の沖を流れる「対馬暖流」は、黒潮の分流で東シナ海、対馬海峡、日本海へと北上します。この流れが強くなり、流量が増えると、日本列島の気候にも関係する変化をもたらします。2017年の九州の豪雨災害も、この海域からの水蒸気の量が増え、豪雨が起きやすくなったためといわれています

 

さらに、海岸には多くの漂着ゴミが打ち上げられています。これも日本沿岸域からまだまだ出てくるゴミと、海流や季節風によって海外から運ばれてくるゴミが混合している状態です。

 

海人たちが、せっかく長年守ってきた豊かな海とその周辺の自然が、大きな脅威にさらされているのです。この解決には、宗像海人族が護ってきた海の保全の知恵が、宗像地域だけではなく、世界に共有されることが必要です。

 

2017年8月26日に開催された「宗像国際環境会議」での宗像の大島での海岸の清掃活動。
岩場の石の間にも漂着ゴミが入り込んでいます。

 

1時間ほどの海岸の清掃活動で集められた漂着ゴミ。足場の悪い石だらけの海岸や磯での作業は体力勝負。
島外からの応援は集中的な撤去の力になります。

 

 

宗像の知恵を国連を通じて世界へ

 

 

今回のプロジェクトでは、九州大学清野聡子のチームがUMI-SACHI推進会議と一体となり、宗像の漁師さんへの聞き取りや、その結果に基づく現地での検証を中心として「宗像海人族」の全貌を明らかにするととともに、「宗像の海の保全の知恵」を再発見します。また、その成果について、図表やイラスト、写真などを多用した分かりやすい冊子を日本語版・英語版両方について作成し、日本周辺の海を通じた人々のつながりの歴史を、地図上に可視化していきます。

 

その上で、日本語版については日本国内で拡げ、他の海に関わる人たちに宗像の知恵を伝えると同時に、他の地域の「海を護る知恵」の発掘に貢献できればと思っています。

また、英語版については、来年6月に開催される国連海洋会議の場で発表し、1000年以上続く「持続可能な海との共生の知恵」として、世界に発信したいと思います。

 

これまでの自然との関係は、欧米主導の「自然の制服」という発想が近年では主流でしたが、今こそ日本の誇る「自然への畏敬」に基づく自然との共生の仕方を国連を通じて世界に発信し、海洋環境保全に関する世界のパラダイムシフトを図っていきたいと考えています。

 

このようなことを国連海洋会議で発表するのは初めての試みとなりますが、UMI-SACHI推進会議は、国連本部の人脈に詳しい国連関係者を顧問として擁しており、既に実現のための手続を進めています。
 

「海調べプロジェクト」のチーム(国連関係者を含む、チームの一部)

 

なお、プロジェクトの具体的な作業としては次のとおりとなります。

 

❏既に収集している宗像海人族に関する情報の精査・整理

 

❏宗像に伝わる「海の保全の知恵」や「宗像海人族」の民俗学的情報に関する、漁師さん、宗像大社関係者などへの聞き取り調査(漁師を大社が尊重し、その漁師が海を護ってきたという社会システムの検証を含む)

 

❏伝統的な漁具などで海の保全に貢献するものの、現代的活用の検証(例えば、地元の森から切った、竹害を起こしている竹の伝統的イケスへの応用と、そこで育てた魚の地元の食堂への提供)

 

❏海中ドローンを宗像の海に潜らせての、「宗像海人族」の痕跡(遺跡)の検証(聞き取り調査結果を踏まえて)

 

❏空中ドローンを使った、宗像の海の「潮目(海流の状況)」の把握

 

❏宗像とつながる、日本各地の「海人の痕跡」についての裏付け調査(今回の調査では、能登、鳥羽、下関地域など)

 

❏調査結果を取りまとめ、「宗像の海洋保全の知恵」をまとめた冊子の日本語・英語版の作成

 

❏来年6月開催の国連海洋会議での、「海調べプロジェクト」の結果の発表

 

宗像に伝わる竹や木の伝統漁具。(撮影:吉富容)

生簀「えん箱」(右):
シンプルだけれども、流線型に作っているので岸に手繰り寄せるときに水の抵抗がないという。また、海面の上下動だけで中の水が入れ替わるという優れもの。


四角いタイプもある(左):
今年2017年6月の調査時に漁業協同組合の写真資料に写っている木箱が気になったところ、文化財として収蔵されているのがわかった。70代後半の漁師さんたちと盛り上がり、7月の宗像国際人材育成プログラムのときに、宗像の中学生たちと「復活」させた。竹は漁村の裏山から調達。木製の漁具の復活は「なんでも自分で作る」時代の、身の回りの道具の材料まで自給自足だった時代をリアルに思い出す、想像するきっかけとなった!

 

 

宗像の知恵を受け継ぎ、海の保全への確かなる一歩を踏み出し続けます。

 

本プロジェクトでは、冊子の完成と国連での発表が最終目標となりますが、その後は、次のような取組を進めていきます。

 

1)調査結果の学術論文としての学術界での発表

 

2)実際に宗像の海に入っての本格調査(今回の調査で漁師さんとの信頼関係を形成した上で取り組むことが必要です)

 

3)宗像の海の実態調査を踏まえた、具体的な宗像の海の保全活動の実施(UMI-SACHI推進会議の別のプロジェクトである「海育て」の拡充に貢献します。またその際には、活動が人的にも資金的にも継続できるような仕組みを作ります。)

 

4)具体的な海と海に関係する自然環境の保全に関する活動について、国内や海外の取組と連携(知恵の提供と知恵の交流)と、海の保全に関する世界の人々が恒常的に集まる「場」の宗像での構築

 

「宗像の太古からの知恵」を知ることが、海の保全へのヒントとなる。国連海洋会議で全世界に発信するための一歩となる挑戦です。皆様もぜひご一緒に踏み出していただけないでしょうか。
 

沖ノ島にて。

 

資金使途

❏ 現地調査アシスタント 
❏ 調査事項精査・編集(2名)
❏ 冊子デザイン
❏ 冊子英訳   
❏ 国連海洋会議参加費  
❏ 冊子印刷  
❏ 通信費等雑費
❏ 諸経費 他

 

 

UMI-SACHI推進会議から、「海調べ」について一言

UMI-SACHI推進会議代表理事・養父信夫

 

初めまして。6月末日に発足いたしましたUMI-SACHI推進会議の代表理事をしております養父信夫です。私たちは、4年前に『宗像国際環境100人会議』を立ち上げました。1回目はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のパチャウリ議長、ノーベル平和賞を受賞したラモス元東ティモール大統領、スウェーデンのスヴィンソン海洋・海・水担当大使らも参加いただき、2回目はその成果として「宗像宣言」を採択し、宣言文を山本環境大臣に提出、さらには日本ユネスコ協会を通じてユネスコ本部にも提出しました。

 

今年も、のべ700人ほどの参加をいただき、大勢の方によって海の保全に関する真剣な議論が行われました。光栄にも、宗像の関係者だけでなく、海を始めとする自然環境の保全に関する日本のリーダーである方々に、100人会議、UMI-SACHI推進会議とも強い支援をいただいております

(応援団の一部はこちら:http://170713.umisachi.org/#kousi)。

 

豊かな魚介類が育ち、恵みの海をもたらす「海幸(うみさち)」は、海に暮らす世界の人々の共通の思い、価値観であるはずです。国土面積で見れば世界の62番目の我が国ですが、海の面積でみると世界第6位の海洋大国です。

 

〝UMI(海)・SACHI(幸)〟という日本語とその概念を、世界の人たちに知ってもらえるよう、海と共生する宗像から地球の環境変化に対する具体的なアクション、そして世界への強いメッセージを発信し、次の100年、しいては1000年を見据える活動を行っていきます。

 

この「海調べプロジェクト」もその一環であり、九州大学清野先生の熱い思いとともに海の保全に関する大きなうねりを造っていきたいと思っております。プロジェクトの実施に当たっては、UMI-SACHI推進会議が全面的にバックアップいたします。

 

どうぞみなさま、このプロジェクトの実現と実施について注目し、また、応援をいただけますと幸いです。

 

 

参考:宗像海人族の知恵の発見と継承~その今日的意味について

 

世界的に“伝統的な知識”が注目されています。経験知、地域知、暗黙知には、未踏の知の世界が広がっています。普遍性を目指してきた科学的知識が築いた世界だけでは、個別性への対応が出来ませんでした。環境問題の解決には、対象となる地域での生態系、人の暮らしの個別性の尊重や細やかな対応が必要です。すると科学のあり方も変わってきて、学問のあり方自体にも変革が訪れています。

 

第10回生物多様性条約締約国会議が2010年に愛知県名古屋市で開催されました。日本は議長国として、2011年から2020年までの10年間の生物多様性の”愛知目標”が決められました。この愛知目標には、本プロジェクト(宗像海調べ)にも関係深い内容が多くあります。20ある「個別目標」の18番目です。

 

目標 18:2020 年までに、生物多様性とその慣習的な持続可能な利用に関連して、先住民と地域社会の伝統的知識、工夫、慣行が、国内法と関連する国際的義務に従って尊重され、生物多様性条約とその作業計画及び横断的事項の実施において、先住民と地域社会の完全かつ効果的な 参加のもとに、あらゆるレベルで、完全に認識され、主流化される。』

 

せっかく日本が主導して決めてきた”愛知目標”なのですが、この「伝統的知識」については、例えば日本で里山の調査が行われていますが、この国際目標との対応を明確に意識して実施されているのか、そして、この目標が日本国内に適用されているのかが不明確です。それは、ここにある「先住民と地域社会」に、日本の各地で生きてきた人を含むのかどうか、日本が明確な判断をしていないためと思われます。

 

UMI-SACHIプロジェクト

╲同時に3チームがプロジェクト実施中╱

 

 


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