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- 2017年1月30日
武藤真祐先生 尾身茂 対談「お母さんを含めた全ての人を幸せに」
武藤真祐先生 尾身茂 対談
医療法人鉄祐会 祐ホームクリニック理事長の武藤真祐先生と、NPO法人全世代代表理事の尾身が対談を行いました。被災地での医療支援や高齢化社会への対応など、待機児童問題と分野は違いますが、日本の抱える課題に対して積極的に取り組まれている武藤先生。そんな武藤先生から、雇用者という立場から捉えた待機児童問題について、さらには同じく社会的課題に取り組む立場から様々なご意見をいただきました。
尾身:保育所の問題には大きく分けて2つあるんですね。まず一つは場所の問題。そしてもう一つは人の問題、つまりは保育士が足りていない。この課題にNPO法人 全世代として何かできないかと考えた時に、病院の保育所に目をつけました。
現在、日本では病院内の保育所(以下、病院内保育園)が2700か所あるとされてて、現状ではそうした病院内保育園の多くは、看護師など職員のお子さんが利用しています。そこでこの病院内保育園を地域に解放したらどうか?と考えたわけです。
病院内保育園を活用することは、すでにある施設を利用するので地域住民の反対が少ない、すでに保育所としての実績がある、病児保育への対応ができる、といったメリットがあると思います。
さらにですね、我々全世代ではすでに日本全国の病院にアンケートを行ったわけですが、実に125の病院から”条件が合えば開放したい”という回答をもらっています。
武藤:待機児童の問題ですが、私の知り合いでも困っているという話を聞きますし、非常に重要な課題ですよね。幸い、私自身の子供は息子も娘も保育園に入ることができましたが、私が経営するクリニックの職員の中には困っているという話も聞きます。
若い職員が多いこともあって、妊娠・出産といったライフイベントに重なることが比較的多いのですが、ありがたいことに、「出産後はまた、このクリニックに戻ってきたい」と言ってくれる人が大半です。ただし、その場合も、「預けられる保育所が見つかれば」ということになるんですよね。
待機児童の問題は「雇用をしている側」にとっても深刻な問題
武藤:なので、この待機児童の問題というのは、もちろん実際に小さい子供を抱える両親にとってもですが、「雇用をしている側」にとっても深刻な問題なんです。保育園に入れるかどうかが決まるのが直前になってしまうこともあり、そこで「保育園に入れなかった」となると雇用をしている側にとっては、戻ってくることを前提で人員を考えているので、なかなかすぐにその欠員に対応できないので大変です。
お母さんにとっても大きな社会問題だし、雇用する側にとっても大きな経営的課題だと思います。雇用する側にとっては、「(待機児童問題が解決されないと)若い世代を雇用しないで、子育てが終わった人や、男性の方がいいや」という風潮になってしまうのではないかという懸念がありますよね。
お母さんに安心して働き続けてもらう環境を作ることができる
武藤:さらにはですね、お母さんにとっても、保育所というのは単に子供を預けるという以上の意味を持っていると思います。子供を預けることによって、自分の時間を確保できる、自分の時間を持った上で子供に接することができるというのは、お母さんにとっても子供にとっても良いと思いますね。お母さんにも少し心の余裕ができますから。
武藤:もう一つ、病児保育について、これも本当に重要だと思います。私のスタッフも子供に熱が出たらすぐに帰らなきゃいけなくなる。帰るのは当然ですし、持ちつ持たれつではあるものの、残される人が大変な事も事実なんですね。そのような場合に、一時的にでも病院内で見てもらえればバタバタするのもだいぶ減らせるんじゃないかと思います。お母さんに安心して働き続けてもらう環境を作ることができる、というのも重要ですよね。
待機児童問題は、お母さんにとってどうか?という意見は多いですが、雇用側の声が少ないと思うので、あえてその視点から話してみました。お母さん以外の立場からも、色々な視点で保育所問題を見ていくことが必要じゃないでしょうか。
尾身:おっしゃる通りですね。今は病院内保育園の話をしていますが、将来的には企業内保育の地域開放などに対しても機運が高まれば良いと思っています。
病院は本来は病気を見る場ではありますが、様々な形での地域との連携など、担う役割が広がっている中で、病院がもう少し広い貢献ができるようになれば、今までより少しずつ良くなるのではないかと思っています。
子供の社会性の観点からもこの取り組みは重要
武藤:シェアリングエコノミーの一つの形ですよね。空いているリソースがあれば利用するというアイデアが素晴らしいと思います。
もう一点ですね、子供の社会性の観点からもこの取り組みは重要じゃないかと思っています。子供も、ある程度の歳になったら、そうですね、だいたい4〜6歳くらいになったら、同じくらいの年齢の子と一緒にいないと社会性が身につかないと言われています。
そうすると、現在の病院内保育園を地域に解放することで保育園の規模を拡大することができれば、それはそこに集まる子供の数が増えることになりますから、子供の社会性を身につけるという意味でも良いと思いますね。
尾身:おっしゃるとおりで、子供の時に同世代の子と過ごすことで社会性を身につける機会があると、コーピングパワーというか、そうした社会性の基礎ができるように思いますね。両親と過ごす時間、同世代の子と過ごす時間と、うまくバランスを取っていくことが大事なんでしょうね。
武藤:そうですね、5歳児が2歳児と一緒にいると、常に上の立場になってしまいますが、そこに5歳児が増えるとまた違った役割を担えるようになるといったような。
そうした、子供が社会性を身につける機会という観点からも、キャパシティがあるのであればそれを遊ばせておくよりも、子供のためにも人数を増やして受け入れていった方が良いのではないかと思いますね、子供が色々学ぶ機会にもなるのかなとも思います。
病院側が意欲的であれば、実施のハードルは低い
武藤:子供の時期に病院で過ごしたら、将来、医者や看護師になりたいと思うようになるかも(笑) 尾身先生がおっしゃることは本当に賛成ですし、(待機児童問題に対して)「こういう解決策があったのか!」と。今回、この案を見させてもらって思いました。
実は、対談前は「病院側がどこまで乗り気なのかな?」と思っていたのですが、先ほど、125以上の病院が前向きに検討しているというアンケートの結果を聞いて驚きました。病院側が意欲的であれば、実施のハードルは低いんじゃないかと思いますね。
尾身:しかも、この125という数字は病院側にプロジェクトの話などは何も伝えず、真っ新な状況での数字で、今後、このプロジェクトが起動になり大きな動きが出て来れば、もっとやりたいと思う病院が出てくるのではないかと思ってます。
武藤:将来的には、高齢者施設なども併設していければ、そこで子供と高齢者の接点ができていくというのも面白いんじゃないですかね。
尾身:そうですね、スマートシティのような感じで広がっていくのはとても良いですね。
武藤:それにしても、尾身先生も色々な大役を担ってらっしゃいますが、このような社会的活動もしていて素晴らしいですね。
尾身:そんなことはないですよ、ただの前期高齢者です(笑)。
せっかくなので、ここで少し、私たちのNPO法人全世代の話をさせてください。なぜ私がこのような活動をしているかというとですね、世の中、色々な問題があって、行政・政治がしっかり取り組んでくれている問題もありますが、必ずしも行政・政治が取り上げない問題もありますよね。そうした問題を、いわゆる一般の人たちが関わるというのが、日本のこれからの将来に大事だと思うんです。
行政や政治にも今まで以上に頑張ってもらいたいですが、一般の人にもできることがまだまだたくさんある、選挙行くだけじゃなく、選挙と選挙の間にも一般の人ができることというのがたくさんあるはず、そういう思いでこの団体を立ち上げました。
さらにはですね、我々高齢者だけがやっていてもダメで、若い人と高齢者が一緒にやること、全ての世代で取り組みたいと思っていましてね。そうすることで、次の世代、若い世代が生きやすいような世の中にしていきたいと思っています。
武藤:私もですね、政治家任せ、省庁任せにしていては解決できない課題があるのも事実だと思います。そして、残念ながら政治の状況などによって、「この時は取り上げられるけど、この時はあまり取り上げられない」という、波のようなものがある。社会にとって大事な分野というのは、そうした政治力学に左右されないように、市民社会が担うの問いうは大賛成です。
尾身:ありがとうございます。そんなわけで、まずは待機児童問題を解決しようということでクラウドファンディングを始めました。この支援の輪が今後広がっていけばと思っています。今日はどうもありがとうございました!
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