ピザ屋で暮らす黒猫のお話（その8）

 

口を痛がるぴぃちゃんを保護した翌日、病院で診断を受けて抜歯手術の日程まで決めることができました。

 

しかし、抜歯手術を受ければ必ずしも口の痛みから解放されるとは限りません。

 

なかには予後が良くなく、口の痛みが慢性的になってしまうケースがあるためです。

 

その原因となるのが、猫エイズに感染していることです。

 

猫エイズに感染していると抵抗力が弱まって口内炎になりやすいため、口の痛みが慢性化しやすいと言われています。

 

そのため、長いこと口を痛がっているぴぃちゃんは猫エイズに感染していると思ったのですが、検査の結果は無事に陰性でした。

 

病院の先生も猫エイズが陰性なら、抜歯手術の予後は心配ないと言ってくれました。

 

 

あとはぴぃちゃんにしっかりと栄養をつけさせて、弱っている体調を回復させるだけです。

 

まずは、ぴぃちゃんが好きなご飯を見つけるため、色々なフードを買ってきました。

 

口が痛くても食べられる柔らかいフードを中心に、食欲が湧く匂いの強いフードなど、1日3食を目安に小まめに入れ替えてあげることにしました。

 

しかし、ぴぃちゃんの食欲は芳しくなく、体重が増えるほどの食事量には達しませんでした。

 

それでも、抜歯手術に向けて少しでも太って欲しいので、代わる代わるフードを試していきました。

 

その結果、ぴぃちゃんが完食できるのは、ササミだけということが分かりました。

 

私が買い集めた中で最も高額なフードだったのは難点ですが、ぴぃちゃんのためなら仕方ありません。

 

私は1週間分のササミを買ってきて、ぴぃちゃんのご飯にあげることにしました。

 

 

こうしてぴぃちゃんを毎日お世話していると、いろいろな思いが込み上げてきます。

 

もし3年前にぴぃちゃんをリリースしなければ、もっと違う結果になっただろうか？

 

それともリリースしていなくても口は痛むようになったのか？

 

私は何度も自問自答を繰り返しました。

 

しかし、リリースしてしまった事実は変わりませんし、口を痛がるぴぃちゃんをこうして保護できたのは、不幸中の幸いだと思っています。

 

その一方で、この3年間で過酷な生活を送らせてしまったことには、申し訳ない気持ちばかりでした。

 

あの時に自分の弱さでぴぃちゃんをリリースする選択肢を採ってしまったことに、後悔の気持ちしかなかったのです。

 

 

そして、抜歯手術を翌日に控えた夜、私はぴぃちゃんを見つめながら約束しました。

 

今回はどんなに鳴き続けても、外の世界に戻したりしないこと。

 

今度こそ我が家の保護猫として、穏やかな暮らしをさせること。

 

真剣に見つめる私をぴぃちゃんはポカンとした顔で眺めていましたが、きっと私の決意と気持ちは伝わっているはずです。

 

こうして、抜歯手術当日がやってきました。

 

（つづく）