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 ジェームスはそのままの足で屋敷内を探索することにした。自分の推測通りなら褒美を与える依頼主はいなくなるのだから、本来は屋敷内の調査などする必要などなかった。

 だが、部屋に引き返してガーソンと顔を合わせるのも気まずい。おそらく食事を終える頃にはシェリー酒に入れた睡眠薬で気持ちよく寝ているはずだが、戻る気にはなれなかった。

 それにこの館で何があったのか、彼は個人的にも興味があった。好奇心の赴くままジェームスは廊下にあった燭台を手に取り徘徊した。

 自由に歩くことをリチャードが妨害に出ると思ったがその様子はない。彼はジェームスの演技にすっかり心を許してしまっていた。

 リチャードにはこの屋敷であったことを訊きたかったので、会って騒ぎになるのは得策ではなかった。だがあのリチャードがホイックリー家の秘密を簡単に話すとは思えない。万が一会ってしまっても、ジェームスは彼を殺すことを厭わないつもりでいた。

 ジェームスは物音に注意しながら怪しい部屋などがないか調べていった。

 リチャードの言葉に感じた違和感を、整理しようと考えをめぐらす。

 まずはプリムローズの両親の死。リチャードの話では金に困っているということだが、アルセイドのようなおじもいるし、他に親戚もいるであろう。それなのに人目を遠ざけて暮らさなければならないのはなぜなのか。

 ホイックリー家であれば召使を何人雇っても生活に余裕があるであろう。それなのにリチャードひとり残して召使がいなくなるのも解せない。この広い屋敷内、掃除をするだけでも大変なはずだ。

 長い廊下の突き当りを曲がると階段があった。しばらく誰も通っていないのか、分厚い埃が手すりに積もっている。

 様子を見ようと少し上ったが2階は廊下に蝋燭も灯っていない。真っ暗でしんとした静寂が不気味になり、ジェームスは踵を返そうとした。

 その時だった。異臭が彼の足を止めた。

 ジェームスはその異様な臭いに緊張感を高めて再び階段を上り始めた。やがてその悪臭は鼻を覆わなければならなくなっていった。

 先が見えづらいためにその階段はだいぶ長く感じられた。決していい気持ちはしないが、彼は足を踏み出すたびにある確信が強まっていった。

 この上には何かある。

 ようやく2階にたどり着くと彼は誘われるようにひとつの部屋の前にいた。

 そのドアを開けるのに少し勇気がいたが、ジェームスは意を決して慎重にドアノブに手をかけた。

 薄暗かったのですぐに中の様子をうかがえなかった。持っていた燭台で辺りを照らすと、そのあまりの光景に思わず後ずさりをした。

 ここで働いていたと思われる召使たちが押し込められていたのだ。だがそれだけなら驚きはしなかった。むしろ彼の推測通りだった。

 驚かせたのはその悲惨な光景だった。鎖につながれたまま切りつけられた召使たちが横たわっている。

 これは疑いもなく幽閉だった。たくさんベッドが置かれていることから、召使たちが使っていた部屋だと推測することができた。その20ヤードほどの四角い部屋には、傷つけた時に飛び散った血がいくつもこびりついている。

 遺体がやせ細っているところを見ると、しばらくは生きていたようだった。だがそれ以上の観測はしがたかった。腐敗の進んだ遺体など見るに堪えなかったからだ。

 ジェームスは魔女狩りが全盛期だった頃に遡ってしまった錯覚を覚えた。これまで何人も殺めてきた彼だったが、こんなに惨い光景を見たことがなかったからである。自然と十字を切って天を仰いでいた。

 静かに部屋を出ると、ジェームスは高鳴る鼓動を振り払うように一目散に階段を駆け下りた。

 1階につくと胸をなでおろしたが、鼓動はまだうるさいほど耳に届く。頭の中を懸命に整理しようとしたが、興奮してまだ足が震えている。

 なぜ彼らはあんなに惨い仕打ちを受けたのだろうか。いったい何をしてしまったというのか。

 いや、あそこまでしなければならなかった理由は何だ。幽閉をするには隠したい何かがあったはず・・

 そこまで考えた時、ざわついていた頭の中が急に静かになった。

 リチャードがたった一人でプリムローズに仕えていること。この屋敷が人目を忍ばなければならないわけ。そしてなぜアルセイドが探偵まがいのことをジェームスに依頼したのか。

 今まで疑問に思っていたことが、一本の糸のようにつながったのだ。

 その糸口は・・

 そうだ。墓だ。

 ジェームスはそう思い立ち、そのままの足で飛び出した。

 

 

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