「華麗なる孤独」試し読み

 

the raising of the curtain

  開演

 

 1

 

     光みな漆黒の闇と化し

     笑い声は叫びに変わる

     深海の人魚の涙は乾き

     私の胸に抱かれて眠る

                世紀末の怪盗Χ

 

 

 一九九九年。夏。

 そんな奇怪な予告状が新宿のとある高級宝石店に届いたのは、まだ残暑が厳しい初秋の頃だった。

 ただの悪戯とも思ったが、その予告状を受け取ったオーナーは顔色を悪くした。

 この予告を見て盗まれるといえば、看板商品の『人魚の涙』に違いない。掌ほどのブルーダイヤモンドで、後日得意先との間でオークションにかけることになっている。

 その前に万が一でも盗まれてしまったら、信用を失うばかりか、大きな損害を被ってしまう。

 仕方がないので警察に通報した。

 その時、事件を担当していなかった刑事が駆り出された。夕方近くに宝石店について事情聴取をし、帰る頃にはもうとっぷりと日が暮れていた。

「なあ、この予告状どう思う?」

 運転をしながら、斎藤は予告状のコピーを竹中に渡した。

「どうもこうも。この現代で予告強盗なんて馬鹿げている。この宝石店に恨みを持つ奴の嫌がらせか、ただのお祭り騒ぎをしたい馬鹿か。どっちにしろ大した事件じゃない」

 竹中はコピーも見ずにそう言い放って大きく欠伸をした。斎藤も同意見らしく何も言わなかった。

「つまらないな。こんなくだらない事件を担当しなきゃならないなんてついてない」

 竹中はぶつぶつと文句を言いながら、いつも愛用しているサングラスをかけて寝る態勢にはいった。

「おい、後で運転代わるときは起こすからな」

「分かってる、分かってる」

 面倒臭そうに言うと竹中はネクタイを取り、完全に寝てしまった。斎藤は竹中が一度寝るとなかなか起きないことを知っていた。軽く溜め息をつくと彼は最後まで運転することを決めた。

 ・・その時はまだ、誰も知る由がなかった。この事件がまったく予想のつかない方向へと転がっていくことなど。

 開幕のベルは翌早朝にかかってきた。

「竹中」

 前田晶子は彼が出勤するなり大声で呼び付けた。

「なんだよ、朝っぱらから。俺が暑いのと眠いのが苦手なのを知ってるだろう?」

 竹中は背広の上着を脱ぎ、ネクタイも締めずにだらだらとデスクに向かう。

「昨日の予告状の犯人から電話があったの」

「へえ。それでなんだって」

「私は予告の寸分も違わずに実行に移す。今日簡単なイベントをするつもりだ。楽しみにしていたまえ」

「はい、そうですか。ごくろうさん」

 髪の毛をぼさぼさと掻き回しながら、いかにも興味がありませんといった素振りをして見せた。

「もう、まだ二十代半ばなのにおやじ臭いわよ。なんでこんな男と付き合ってるのかしら、私」

 最後の方は竹中に聞こえないような小声で言った。他の事件でパートナーになって以来、二人は署でも公認の仲になっていた。

「おまえがこんなに下らない事件で青筋立ててるからだよ。ただの悪戯だ。分かるだろう? どっちにしたってそのイベントとやらを実行してくれなければこっちだって動けないんだ」

「分かってるわよ。でも嫌な予感がする」

 多少弱気な声を出して晶子は視線を逸らした。竹中はそれを笑い飛ばした。

「いつも強気な晶子らしくないな」

「うるさいわね。私の勘は当たるのよ」

 そう晶子が部屋中に渡るような声を上げた刹那、勢い良くドアが開き、斎藤が飛び込んできた。瞬間的に斎藤に視線が注がれる。彼は顔中汗だくになって肩で息をしている。

「竹中、大変だ」

「今度はどうした?」

 竹中は落ち着いた口調でたしなめるように言った。

「昨日の予告強盗の犯人が犯行声明をマスコミに流しやがった。今警察署の前に報道陣がわんさかいる。宝石店にも押しかけているだろう」

「人騒がせな泥棒だな」

 言いながら竹中はネクタイを締め、上着をはおった。急に忙しくなるのを感じながら歩幅を広げ、足速に警察署を後にした。

 宝石店の前では警備員とマスコミがごった返していた。その回りを幾重にも野次馬がたかっている。人通りの多い場所だからその数も半端ではない。

 それを見て二人ともうんざりした。

「とんだイベントだぜ」

「まったくだ」

 二人は暑い中人込みに揉みくちゃにされ、なおかつマスコミの集中質問攻撃を交わし、やっと店内に足を踏み入れると、オーナーが待ってましたとばかりに飛び出してきた。

「いったいどうなってるんです? 何がなんだかさっぱり分からない。とにかくうちの信用はがた落ちですよ。これじゃ何のために警察に協力を頼んだのか・・・」

「ダイヤモンドは死守してみせますよ」

延々と文句が続きそうなので斎藤が割って入った。

「ところで最近、誰かに恨みを買うようなことをした覚えはありませんかね」

 オーナーはふっと思案げな顔をしたが首を振った。

「うちのモットーは誠実と真心です。お客様にはみんな満足していただいてますよ。お得意様も年々増えているくらいです。・・まあ、それを妬んだライバル会社かなんかが嫌がらせをしているのかもしれませんが」

 そう言いながらどんどん顔色を悪くしていった。

「まったく冗談じゃないですよ。今回狙われている『人魚の涙』は今度、選びに選び抜かれたお得意様を招いてオークションで売る予定なんです。想定三〇億は下らないと踏んでいたんですよ。店に泥を塗られ、お得意様の信用を失い、その上ダイヤまで盗まれてしまったら大損害です」

「大丈夫ですよ。こんなお祭り好きなこそ泥はすぐに捕まえて、あなたの前に引っ張ってきましょう。そのためにもここの防犯システムを詳しく説明してください」

 竹中の言葉にオーナーは多少顔を輝かせた。そのまま店の見取り図を片手に、彼は各セキュリティシステムを案内して回った。

 さすがは高級宝石店ともあって赤外線レーザーを張り巡らすことのできる部屋まであった。『人魚の涙』はその部屋の中央に置かれることになり、犯人が万が一ダイヤをとって逃走したとしても、あらゆる退路をも遮断できるよう、警備やロックシステムを駆使するように計画がたてられた。

 その最中に竹中の携帯電話が鳴った。晶子からだった。

「大変よ。例の犯人がテレビに出てるの。テレビだけじゃない。駅前のワイドスクリーンにも顔を出して」

「顔を出してだって? 馬鹿な。犯人が自らの顔をばらまいてるって言うのか」

「とにかく写真を転送するから見て」

 やがてノートパソコンに一枚の写真が送られてきた。それは犯人の顔写真だった。

 普通ならそれで、犯人の顔は分かるはずだった。だが・・

 そこに居合わせた人間は暫く口も開かなかった。

 銀色のマスク、それをふちどる金色の髪、白いシルクハット、白いタキシードに白いマント、そして胸に白い薔薇。

「こいつは『お祭り騒ぎをしたい馬鹿』だな、竹中」

 ようやく斎藤が口を出した。

「ああ。今日の昼のワイドショーはこいつで決まりだ」

 竹中は皮肉を言いながらも鼓動が高鳴るのを感じていた。

 昨日の今日。この短時間でマスコミの話題をさらい、大胆不敵にも自分の姿まで晒している。確かに馬鹿げたことだが、その馬鹿げたことを最後までやってのけてしまうのではないか。そう思えるほど常軌を逸していたのだ。

 晶子の嫌な予感が的中してきたことを竹中は感じていた。

 夕方にはマスコミに押されるように警察側の緊急会見が臨まれ、特別体制がしかれることを発表した。

 たった一日の間で、斎藤も竹中もぐったりしてしまった。

 二人は警官数名と共に、警備をしつつ宝石店に寝泊まりすることを余儀無くされた。

「この予告状、おまえはどう思う?」

 竹中は自分にされた質問をそっくり斎藤に返した。斎藤は夕食のサンドイッチを頬張りながら再度予告状に目を通した。

「最初なら笑い飛ばすところだ。『光みな漆黒の闇と化』せる筈がないだろう? きっと、ただ盗むだけじゃつまらないから、わざわざ苦心してこんな予告状を作ったんだろうよ。奴の目的は『人魚の涙』を盗むこと。それが分かれば問題はないだろう」

「停電も考えられる」

「電気室にも防犯カメラはつけた。予告通りなんて不可能だ」

 斎藤の言葉に竹中は大きくうなずいた。だが気持ちに何か引っ掛かっている。晶子の話では犯人はこの予告状を寸分も違わず盗み出すと言っていた。

 あそこまで簡単にマスコミを動かせる人間が、ただ格好いいからと言う理由で、意味のないセリフを予告したりするだろうか。

 あの予告状。あの言葉全体が一つの予告として意味を成しているのではないか。そんな気がしてならないが、肝心の解読がどう頭を捻ってもできないのだ。

 時間だけは確実に時を刻み、やがてオークションの日を迎えた。

 

 

                     ●

 

 

 やっぱり悪戯だったんだ。三日も経つ頃にはそんな考えが広がっていた。竹中も犯人を買い被っていたのではないかと危惧し始めた。

 ここで犯人に逃げられてしまってはつまらない。やっとこの事件が楽しくなってきたのに。

 竹中は気持ちの中でぶつぶつ呟いた。あの予告状はすでに頭の中に丸暗記されていた。だがどんなに熱心に読んでみても、解読の糸口は見つからないままでいた。

 もともとそんなものはないのかもしれない。そう思うと無性に腹がたった。

「竹中。なんだ、また予告状か。それよりもオークションの時の警備の固め方について相談したいんだ。今日は晶子も応援にきてくれるらしい。・・でも、正直言うと必要ないかもな。今日来なければこの体制も解かれるだろうし」

「恐らくはそうなるだろう。事件はこれだけじゃない。時間ばかりかけているわけにはいかないからな」

 オークション会場は普段宝石を展示している店の一角だった。

「ダイヤを運ぶ時間が短いほうがいいということでここになったんだそうだ。オーナーも痩せる思いだろうな」

 斉藤は同情して呟いた。

「なにが痩せる思いだ。大事なお得意様を危険に遭わせてまで、その宝石の宣伝を目論んでいるに違いないだろう。・・まったく、日を改めればいいんだ。いちいち作戦を変更するのは面倒臭い」

 斎藤は苦笑すると不機嫌な竹中を会場に案内した。

 そこは宝石ケース一つなく、壁づたいにカーテンが吊されている以外はがらんとしていた。これからテーブルやイスなどを持ち込み、ステージやマイクのセットなどをするのだと言う。

「そんなに警備の守りを変えることもないだろう。客がこの会場に入るのを見計らって同じ様に張ればいい」

「だけど前の部屋には赤外線レーザーがあったがここにはそんなものないぞ」

「いや、あるさ」

 竹中のその言葉に斎藤は不思議そうな顔をした。

「ここには客が何十人と入るんだろう? そんな中へうっかり入ろうものなら火傷するだろうよ」

「・・なるほどな。招待客はよく調べた上で中に入れればそう問題もないだろう。コサージュか何かで目印もつけさせるか」

「ああ。招待客以外はその時間にはこの店には入らないがな。それに万が一犯人が武器を持っていたら厄介だ。客の所持品検査も慎重にしたほうがいい」

 ぶっきらぼうに言うと竹中はふらふらと会場内を歩き回った。斎藤も後に続いた。

 カーテンの後ろは壁だから侵入不可能。ステージの後ろは三方壁だからこれも不可能。天窓なし。ドアさえ閉めれば密室になる。

「これなら大丈夫だな」

 斎藤が口を切ると、竹中も同意した。そのとき背後で女の声がした。振り返ると晶子がオーナーに挨拶をしていた。

 晶子に歩み寄ろうとした時、斎藤の携帯電話が高い音で鳴り出した。

「Xが今日ですか。分かりました。何ですって? Xの特番で実況生中継?」

 困惑して斎藤は髪をかきあげた。マスコミにうろうろされたら仕事がしにくくなる。

 警備中にマスコミが入ることが許されない代わりに、廊下のあちこちには小型のカメラがセットされた。竹中の予想通り、オーナーはこの状況を逆手にとって、『人魚の涙』の宣伝が大々的にできると内心ほくそ笑んだ。

「Xの人気がこれほどまでとは思わなかったわ。これ以上騒ぎにならないうちにかならず捕まえなきゃならないわね」

 晶子は半袖のブラウスの上にカーディガンをはおり、腕組みをした。

「人気だけの騒ぎじゃないんだ。X自らテレビ局に犯行声明を送り、盛大にショーをやるから見逃すなと触れ回ったらしい。どうやら『お祭り騒ぎをしたい馬鹿』はXだけじゃないらしい」

 斎藤は煙草をふかしながら顔を曇らせた。

 そんな中で竹中は意気揚々と警備を動かしていた。犯人が敵前逃亡をしなかったばかりか、またもや馬鹿をやろうとしている。この警備の目を光らせた場所へわざわざ盗みにくるばかりか、自らまたマスコミを動かしてのこのこ現れる。

 今までそんな強盗犯はいなかった。もしかしたら楽しめるかもしれない。そう思うと胸が騒ぐのだ。

「いやにはりきっているな、竹中」

「何言ってんだ。俺はいつも仕事熱心だろう」

「ああ。珍しい事件や楽しそうな事件のときのみな」

 斎藤は皮肉を言ってみせた。

 竹中と斎藤は同期でもう五年以上も一緒に組んでいる。

 竹中は拳銃を持った銀行強盗を捕まえるような危険を伴う、普通の人なら嫌がるような仕事をするのが好きだった。要するに刺激的なことが好きなのだ。

 その相棒も当然その危険な仕事に命を懸けなければならないこともあった。だが、竹中と組むことは嫌いではい。どんな難しい事件にも果敢に挑む彼を密かに尊敬すらしていた。

 やがて夕方になり、オークションが始まった。客が全員入場するのを見計らって速やかに計画通りに警備がついた。Xの事は分かっているはずなのに、招待客は一人も欠席をしなかった。

 竹中はオーナーのとなりについた。万が一犯人がここに辿り着いてもいいように、ステージの後ろのカーテンにも何人かの警官が配置されていた。

 オークションが始まる前に晶子が急ぎ足で会場に入ってきた。

「ごめん、竹中。このカーディガン、そのカーテンの後ろに置いといて貰える? 外に出たら暑いでしょう。今日なんて四十度近いのよ。信じられない。でも車まで入れに行くのも面倒だし」

「だったら着てくるなよ」

「だって、建物の中って寒いんだもん。竹中は背広だから気付かないのよ」

 その言葉にふっと竹中は眉間に皺を寄せた。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。早く戻れ」

 その言葉に彼女は少し心配そうな顔をして警備に戻っていった。

 竹中はなぜか落ち着かない気持ちで自問自答を始めた。

 何だろう。何かが引っ掛かる。最初にXがマスコミを引っ掻き回したあの日から。それがまた今、強く感じる。

 そもそもなぜあんなにマスコミに触れ回っているんだろう。金だって掛かるに違いない。それでダイヤを盗めなければわりに合わないだろう。

 Xには自分が盗み出せるという自信がある筈だ。そうでなければここまで堂々と宣言できる筈がない。

 嫌な予感がする。こんなに確固たる警備をしいているのに、Xの上で踊らされている予感が。

 ステージの中央にブルーダイヤモンド『人魚の涙』が置かれた。名前のように雫のような形をしており、カットも人魚の鱗を思わせるようだ。眩い光がライトに反射して、客たちのどよめきを誘った。

 オークションが始まった。一気に億単位まで金額が上がると、安月給の竹中には耳が痛くなった。

 Xはなかなか現れない。客たちも始めはXを気にしていたようだが、オークションに熱中し始めた。時計は7時を回った。

 ふと竹中は寒さを感じた。確かに冷房がききすぎている。会場の熱気が負けているくらいだ。

 そう思った直後だった。辺りがふっと闇に包まれた。眩しいほどだったライトも今ではどこにあるのか分からない。

 客たちが騒ぎ出した。

「まさか。電気室も見張っているはずなのに」

 うわずった声をもらすと、オーナーは急いで電気室に人を向かわせた。

 だが、それが無駄足だということを、竹中は感づいていた。

 胸が高鳴ってやまない。鼓動がうるさいほど耳に届く。落ち着かなければ・・そう思えば思うほど、高揚してきた。

 その緊張感に竹中は快感を覚えていた。Xをこの手で捕まえたときの興奮を味わいたい。

 肝心のダイヤを竹中は探した。あれさえ手中にあればXに手出しなどできない。

 刹那、女が悲鳴をあげた。それに乗じて他の客たちも浮き足立った。悲鳴が悲鳴を呼び、パニック状態になった。

「落ち着いて・・」

 竹中はそこまで言ったとき白い煙のようなものが下から上がっているのを見た。今まで騒いでいた客が急におとなしくなって倒れ出した。

 いけない。催眠ガスだ。

 だいぶ目は慣れていたが人の区別まではつかない。立ち尽くす竹中の前にぽうと白い影が走ってきた。

 最初は幽霊の類いでも出たのかと思った。

 だが風に翻るマントの音、倒れた人を器用に飛び越える足音。そして何よりも真っ直ぐにステージのダイヤに向かって走ってくる。

  ・・・Xが現れた。

 竹中は夢中になってその影に飛び付こうとした。だがXはそれを交わすと難無くダイヤを手にいれ走り去った。

 カーテンの後ろにいた警官は暗闇に足を取られて出遅れて、影すら見送れなかった。

 竹中は暗闇をものともせずに、多少ガスを吸い込みながらも懸命にXの後を追っていた。

 なかなか追いつけずに何度も見失いそうになりながら、店内を走り回った。夢中になって階段を駆け上るとふっとXの影が消えた。

 非常出口だ。ドアを開く。

 月の光がやけに明るく感じた。満月だ。白い照明の中、銀色の仮面が不気味にこちらをうかがっている。風で金色の髪が靡いた。

 竹中は動けなかった。今まで出会った強盗犯とはまったく違う相手がそこにいる。それが彼を萎縮させていた。

「貴方だけですか。ここまで来られたのは」

 仮面で籠った声が空気を伝わって耳に届いた。男の声だ。声色を変えているかもしれないが、変声器は使われてないようだ。

「おまえ一人くらい、俺で十分だ」

 竹中は竦んでいた足を踏み出した。それを見計らってXは彼の足元に発砲した。

「残念ですね。もっと盛り上げるつもりでいたのに簡単に盗めてしまった。これもまた、一興ですがね」

 その言葉に竹中は奥歯を噛みしめるより他はなかった。拳銃を持っていては迂闊に飛び込めない。

「刑事。貴方の名前を伺っておきましょう」

「竹中だ。竹中晃」

 Xはふふっと不敵に笑うと胸に差してあった白薔薇を手にした。

「親愛なる竹中刑事に、敬意を込めて」

 淡々と言うとその薔薇を竹中に向かって放ち、踵を返して走り去った。

 幾分涼しくなった夜風に泳ぐように乗って、それは竹中の足元に届いた。

 彼は白薔薇を拾うとXの消えたほうへ何気なく歩んだ。

  刹那、竹中は言葉を漏らして息を呑んだ。

 そのとき竹中は信じられない光景を見たのだった。

 ・・一つもネオンの点っていない、新宿の街を。

 

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