「22」という数字の裏にあるもの#アドバイザリースタッフ嶋岡鋼

 

こんにちは、NPO法人あおぞらのアドバイザリースタッフであり、小児科・新生児科医をしています嶋岡 鋼です。

 

クラウドファディング終了まであと32日、現在までに450万円を超えるご寄付のお申し出をいただいています。本当にありがとうございます。

 

強い意志で必ずこのクラウドファンディングを成功させたいと思います。よろしくお願い致します。

 

長くなりますが、私の思いを書きました。
最後までお付き合いいただければ嬉しいです。

 

 

国際母子保健において新生児死亡率(Neonatal Mortality Rate:NMR)という とても重要な指標があります。出生1000に対しての生後28日以内の新生児死亡の数です。日本の新生児死亡率(2018年 厚生労働省)は「0.9」です。これは世界でもっとも低い新生児死亡率で、日本が世界でもっとも赤ちゃんにとって安全な国であることを示しています。

 

タンザニアはどうでしょうか。タンザニアの新生児死亡率(2016年 UNICEF)は「22」です。都市部と地方では1.8倍程度の格差があると言われていますので、地方ではもっと多いかもしれません。単純に計算しても、日本の20から30倍以上の赤ちゃんが亡くなっているということがわかります。

 

このタンザニアの新生児死亡率である「22」という数字をみると思い出すことがあります。


それは今から6年前の、とある出来事に遡ります。

 

 

2013年8月のことです。

 

アフリカから来日している医療従事者に新生児蘇生法を伝える機会をいただいて、私はとても張り切っていました。

 

発展途上国においては、新生児死亡の約25~30%は出生直後の新生児仮死、または分娩途中のトラブルが原因であると言われています。新生児仮死は出生後の赤ちゃんが呼吸できないことが原因で生じます。

 

しかし、比較的簡単な、呼吸を助ける技術を医療者が適切に使えば、その9割以上を救うことができます。その方法が新生児蘇生法です。自分が途上国の方々に新生児蘇生法を教えることで世界の新生児死亡を減らせるかもしれない。私はそんな期待に胸を膨ませていました。

 

ガーナ、ナイジェリア、シエラレオネ、ジンバブエ、ザンビア、アンゴラ、、、さまざまな国から研修員が集まる予定でしたので、それぞれの国の状況や背景、保健指標などをインターネットや書籍、文献で調べていました。

 

当時のアフリカ各国の新生児死亡率は30から50くらいだったと記憶しています。その統計を知った時には「随分、赤ちゃんが亡くなってるなあ」「新生児蘇生法知らないのかな」「日本みたいに一生懸命やらないのかな」「施設や道具がないから諦めてるのかな」と考えていました。

 

 

講習の日は良く晴れていて、とても暑かったことを覚えています。講習は、陽気で朗らかな研修員の皆さんのおかげで順調に進みました。私は「いいな、手応えあり!」と思っていました。

 

いよいよ最後のまとめの時間となり「最後になにか質問があれば」と私は言いました。

 

研修員の1人が私に質問をしました。

 

「蘇生に反応しない子がいたらどれくらい時間が経ったらやめていいの?」

 

こういうことを聞かれることに対して私は覚悟はしていましたが、やはり、いざ質問されると、とても緊張しました。

 

私は「いつ蘇生を止めるか」という問いに明確な答えはない、と、その当時は考えていたので、「そこには明らかな基準は無いよね、文化が決めるよね、でも日本では比較的長くやるよね、もしかして救えるかもしれない、というチャンスに賭けるよね、、、」と言葉を選びながら議論を切り上げようとしました。

 

その時です。

 

さっき質問をしたその研修員が激しく感情的に発言をし始めたのです。

 

小さい、新生児仮死の赤ちゃんが産まれたときに、どれくらいの蘇生をするの?
今、あなたから習ったような人工呼吸とか胸骨圧迫を本当にするの?

もし仮にその蘇生に成功したとしても、そのあと赤ちゃんを運ぶ方法はないし、

蘇生処置を見ていた親から「あんたが赤ちゃんにひどいことして殺した」と言われちゃうようなそんな理解の無い場所で私たちはどれくらいのことをするの?

むしろ何もせずに傷つけずに見送った方がいいのではないの?

 

そのまっすぐな、そして悲痛な言葉を聞いて、
私は胸が苦しくて、しばらく言葉を発することが出来ませんでした。

 

 

恥ずかしながら、私はそのときになって初めて『新生児死亡率』というシンプルな冷徹に見える「数字」の裏に、たくさんの医療従事者が汗を流し、涙を流し、歯を食いしばり、過酷な現実と無力感に向き合っている事実があるのだ、ということに気づきました。

 

今日、この場に集まったアフリカからの皆さんは、目の前で消えそうな命を救えないかもしれない不安、赤ちゃんを蘇生できなかった罪悪感、ご家族の怒りへ向かう恐怖、頑張っても変わらない状況への諦め、そういうものと常に格闘しているのだということに。

 

なにもしないから、なにもできないから「新生児死亡率が高い」のではなく、その統計学数字の裏にはたくさんの、ほんとうにたくさんの現地の医療者の努力と辛い経験がある。新生児死亡率は全世界の医療者の不断の努力によって確実に改善の方向に向かっている、だけどまだ足りない。努力をしていないわけではない。まだ目標に届いていないだけなんだ、と思いました。

 

 

あの日の講習を受けた方々に私が伝えるメッセージはどうあるべきだったろうか、と今もずっと考え続けています。

 

明確な答えはいまだ見えないままですが、考え続ける中で、私がたどり着いた一つの答えは「あなたのその手の中にある可能性を伝える」ということでした。

 

それは「現地のスタッフに赤ちゃんを救うことのできる技術を伝え、それを通じて自分の中に存在する可能性に気づいてもらえるような講習をする。」ということです。

 

現地で戦い続けることになる医療スタッフへの祈りにも似た思いを講習に乗せること。最大限のリスペクトを示し、赤ちゃんの命、お母さんの命を救うことの尊さを伝えること。あなたたちの仕事は「未来に直結している」仕事なんだ、というポジティブなメッセージを伝えること。そのことが私に任されている仕事のような気がしました。

 

それ以来、赤ちゃんの命を救う技術を伝えることはもちろん、現地で苦しんでいる医療スタッフに対する「勇気づけ」「動機づけ」などの心理的な支援も私の仕事と考えるようになりました。

 

私が行う新生児蘇生法講習においては「赤ちゃんの命を救う手技を学んでもらう」という目的の他に「医療スタッフへの勇気づけをかならず行う」という大切なもう一つの目的が生まれたのです。

 

 

その後、私は講習を通して、さまざまな国の医療者に「あなたの手には可能性があるんだ」というメッセージを伝えてきました。ブータン、モンゴル、カンボジア、ラオス、韓国、、、もちろん、たくさんの日本の医療者とも出会い、私の思いを伝えてきました。

 

そしてついに私はアフリカの地を訪れ、新生児蘇生法講習を行うことになります。

 

あの日のことを思い出しながらタンザニアの新生児死亡率「22」をあらためて見つめ直しています。

 

タンザニアの新生児死亡率「22」の裏側にもきっと数え切れないほどの医療者の努力や涙や悲しみがあったに違いありません。この「22」の奥に見えるタンザニアで頑張る医療者ひとりひとりの思いを感じ取れる自分でいたいと思います。

 

 

私は、世界の赤ちゃんを共に救う仲間としての思いを伝えるためにタンザニアに行きたいと思っています。「世界の赤ちゃんを救う努力をしてくれてありがとう。」という感謝の思い。そして「あなたたちは未来を守る仕事をしているんだよ」という激励の思い。その2つをタンザニア、さらには世界中の仲間たちに伝えられたら、と思います。

 

タンザニアの赤ちゃんとお母さんの命を救うのは、現地で働く医療者です。


私は現地で献身的に働く医療者の流した悲しみの涙も止め、彼らの笑顔もつくりたいと思っています。

 

そしてご支援いただく皆さまにも私たちの活動を通して

「心からの感謝」と「あなたにもあの人の悲しみの涙はとめられる」という励ましのメッセージを伝えていきたい、と思っています。

 

長い文章を読んでいただき、本当にありがとうございます。

ぜひご支援のほどよろしくお願い致します。

 

 

 

 

 

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