
支援総額
目標金額 1,200,000円
- 支援者
- 59人
- 募集終了日
- 2021年4月19日
【プチ講座】ヒアリングとディスクール(後篇)
前回述べたような、ライフヒストリー的なヒアリングは、もちろん同時録画している場合はインタビューとして使える。と同時に、具体的な映像場面(イストワール)のアイデアのもととも言える。ただし、社会調査法と異なって、それを大量に行うことは予算的にも期間的にも難しい。
さらに、個別の当事者の体験はあくまで個人的なものであり、帰納法的に問題の構造を類推できるだけである、というのもまた事実だ。
上図は「ドキュメンタリー」と呼称される分野の手法をさらに細分化した図である。左から、単に時系列に記録したもの、ある程度構成されるが、人物を軸としたヒューマン型…と並べてあるが、簡単に言えば左はリアルっぽく、右に行くほど理屈っぽい印象の作り方ということになる。
言い換えれば、左は帰納法的であり、右は演繹法的である。劇場公開用映画としては左が好まれ、報道用としては右方向が多用される。左はわかりにくく、右はわかりやすい、ともいえる。
これらの手法の違いはどれが正しいとかいうことではなくて、社会的な位置づけによって選択されている。報道はわかりやすくなければならないし、社会に発信する責任という点では、演繹的にも論調(ディスクール)が証明されなければならない。
で、前述のとおり、映像製作者はそこにはあまり強くない。なので、新聞記事、雑誌記事、学術論文、統計、書籍などを読み漁って、帰納法的な事実認識と、演繹法的な事実認識の擦りあわせを行う。これが、いわゆる「裏を取る」という作業だ。
例えば、結果的に私が現場取材を多く担当することになった2008年のNEWS ZERO「医療を、救う」というシリーズ企画の大元は、前年に発行された「東洋経済の特集記事」等が主たるベースになっていた。
麻酔科医の件は、同じ時期に「過労自死」と「過労死」の2件の新聞ベタ記事がきっかけで、「なぜ麻酔科医が?」というところから始まった。
ご遺族や弁護士さん、他の麻酔科医へのヒアリングの結果としてわかったのは「麻酔科医が外科を始めすべての診療科目において不可欠な存在であり、すべての手術に立ち会うからシフトがもっともハードである」という、あまり一般的には知られていない事実だった。
その点は、言葉で説明するのが難しいため、ZEROのスタッフと念入りな相談を重ねつつ、CGアニメとして可視化し、オンエアに漕ぎ着けた。「過労死」についてはその後大阪地裁で労災認定が認められたため、シリーズとは別にご遺族を取材し、地裁記者クラブの読テレスタッフを通じて、ニュースにした。
ともあれ、こうした帰納法と演繹法、ミクロとマクロ、実感と実証、といったものがバランスよく手に入らなければ、イストワール(場面)はともかく。責任あるディスクール(論調)が紡げないのである。
ところが、時にヒアリングによる帰納的な解釈がどんどん進み、仮説が明確になっているのに、演繹的に確信が得られないという事例もある。
同じシリーズの中で唯一私個人が提案した「救急崩壊・三部作」のときだ。当初、「救急」という切り口はシリーズに含まれていなかったのだが、前年末に「救急車のたらい回し」がメディアを賑わせたため、急遽調べることになった。
「遠藤さん、医療側の責任というのにも触れないわけにはいかないよ。ちょっと調べてきてくれない?」とプロデューサーに言われた。私は「それもそうだなあ」と思いつつ、「もしかして何か構造的な問題が?」とも思った。
結論から言うと、後者が正しかった。
ヒアリングと密着取材によって消防(救急隊員)も、医師たちも、最善の努力をしていると実感できた。だが、「なぜ患者の受け入れができなくなるのか」という、システム全体の問題について語れる方はいなかった。
さまざまな証言をパッチワークしていくうちに、一次救急が機能せず、二次救急での救急車利用が多く、重症患者を扱う三次救急を圧迫している、という仮説が成り立った。が、そのときまでに私が目を通した資料で、そのようなマクロな指摘はなかったので、「これで押せるのか?」と困り果ててしまった。
そこで、はたと思い出したのが「困ったら、聞いてみるといいよ」と先輩に教えられていた、あるお医者さんのことだ。会ったこともない、でも確かめたい。
恥も外聞もなく突然お電話し、私の「救急ドミノ仮説」をお話した。ご多忙中でありながらも、1~2時間程度だっただろうか。先生は丁寧に私の話を聞いて下さって、最後に「まさに遠藤さんがおっしゃるとおりです」とお墨付きを下さった。
実は、今回のクラウドファンディングにもすでにご支援下さっている、「闘う勤務医」さんが、まさにその人である。
覚悟は決まった。取材先の大阪から、すぐに東京に電話し「これは複雑な事態です、もしかすると二夜連続とかになるかもしれません」と報告。局からすぐに返事が来て「三夜連続」にしてくれるという。
救急センターと相談して、スケジュールを決め、カメラを抱いて仮眠すること12時間。ついにそのときが来た。ベッドは3床、決して広くはない初療室に、3台の救急車が立て続けに来て、あっという間に満床。医師が新規の患者受け入れを電話で断る瞬間も撮った。
その間わずか40分。私が編み出した連辞撮影法(編集しながら撮影する独自技法)は、言葉を切らずに次々とサイズを変える。素材のままで迫真の映像記録となった。これが局を動かし、3部作が実現した。

この放送には全国の医療従事者から絶賛の声が寄せられ、連休向けの総集編も作られた。そして、放送後、それまで医療機関を批判していたマスコミ各社が、一斉に「救急を救え」と論調を変えた。これに押されたのか、舛添厚労大臣はこの年、救急の医療点数を3%だったか上げた(よく覚えてない)。
こんなドラスティックな「神話の更新」は、私自身、後にも先にも経験がない。ともあれ、このとき私は自分のビデオジャーナリズムがついに完成した、と実感した。
というわけでー
だいぶ長くなってしまったが、私が主張する「市民の視線で世論を変えよう」という言葉は、単なる掛け声ではない。理想論でもないし、精神論でもない。体験によって実証した具体的な個人統合の方法論がすでにあり、理論にも裏づけされた現実的なものだ。大学でも授業をやっていたから、新人育成のカリキュラムもある。ちなみに、これをメーカー研修に流用して作られたのが、今私が使っているビデオカメラである。
だからこそ、私は自信を持って、皆さんに呼びかけているのである。
これにて、最後の【プチ講座】の筆を置く。
理屈っぽい話を読んで下さった皆様、ありがとうございました。この続きは、MSOで予定しているオンライン・ワークショップでどうぞ。私は、自分の知識と経験のすべてを社会に還元するつもりです。よろしくお願いします。
リターン
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