支援総額
目標金額 610,000円
- 支援者
- 61人
- 募集終了日
- 2015年11月27日
「おいらの船は300トン」竹中はじめ
宮古市の仮設団地には、南隣にある山田町から移り住んだ人も多くいました。市内の小さな公園に建設された仮設団地で、我々は山田町で捕鯨船に乗っていたという漁師親子と一度だけお話をしたことがあります。山田町の北浜という地区には、日東捕鯨という会社があり、マッコウクジラなどを年間300頭も捕獲していました。
「まだレーダーとかが無い時代は、見張り台に立って交替で鯨を見つけていたもんだった」
お父さんがそう教えてくれました。
「捕鯨会社を54歳で定年になってからは、息子が代わりに船に乗るはずだったんだが‥捕鯨が世界で禁止されたから会社は無くなってしまったんだよ」
山田町で捕鯨の会社があったことは知りませんでしたが、そういえばクジラの博物館が津波前にあったなあ‥とぼんやり思い出していました。
「そういえば、山田町のスーパーマーケットでイルカの切り身が売られているの、見たことあります」
私がそう言うと、部屋の片隅にいた支援員の男性が大笑いしました。とても背の高い、六十代前後のぶっきらぼうな人でしたが、いったん話し始めると飲み屋さんにいるような感じで話がとまらなくなる、何だか面白い人でした。
「音楽の先生、宮古市に来てどれくらいだ?」
面白い人だな、と思いつつ‥実は毎回、話すたびにちょっと酒臭いなと思わないこともありませんでした。他の仮設団地に住む人をご自身の運転する車両で連れて来てくれるので有り難い反面、酒臭いのは少々問題ありなのではないかしら?と心配していたのですが。
「私は震災後、毎週末通ってそろそろ一年近くになりますね。でもその前も、月に一度は仕事で訪れていたんですよ」
「じゃあ、そろそろ宮古の言葉も憶えて来たんじゃない?」
「ぼちぼち、ですかね。ありがとうございます、というのを宮古市の人は“おおきに”って言うんですよね。そこだけ関西っぽくて印象に残っています」
酒臭い彼は、壁にべったりと背中をつけながら、片手でタバコの箱をくるくると回して私に半開きの眼差しをじっと向けていました。
「それは鍬ヶ崎という、宮古市で一番栄えた漁師町の言葉だな。全国と交易をしていたから、よその言葉も混じっているんだよ。じゃあ、もっと港町らしい言葉も教えてやらないとな」
「なんですか?」
「船乗りが使う言葉を教えてやると、前進!が“ゴーへー”、後進が“ゴスタン”、全速前進は“ホースビ”っていうんだ。憶えておくと良い」
仮設巡回の活動を続けている間、ずっと宮古市や他の地域の方言の聞き取りをしていた私は、彼のサービス精神溢れるトークに興奮して、夢中でメモを取っていました。その土地の言葉は生きた歴史の具現であり、貴重な文化の表出です。沿岸の町を回って、高齢の皆さんと活動を共にする我々にとっては、交流を円滑にするための大事なとっかかりとなると、私は確信していました。
「ありがとうございます!とても勉強になります」
私が深々とおじぎをすると、支援員の彼はとても満足そうな表情でした。彼は活動後、酒臭いままの状態で、再び住民の皆さんを車にのせて、仮設まで送っていきました。
この支援員さんは他にも数か所、担当していましたが、お会いするたび朗らかに我々の活動に参加して、率先して雰囲気を良くする発言や振る舞いをしてくれて、本当に助かりました。反面、やはり毎回酒臭いのが気になりました。
実は仮設の支援員は、契約が年度単位だと後で聞いたのですが、この頃は単年で契約打ち切りというのが当たり前でした。というのも、支援員の制度は自身も被災者である彼らを雇用する救済策の一環だったので、より多くの雇用を実現するためには契約を更新しない方針を自治体が打ち出していたのです。正直、この方針は我々を含めて、多くの人が首をかしげました。と言うのも、翌年の支援員には応募が殆どいなかったからです。それなのに、前年の支援員は再雇用しない、と自治体が明言したのです。
新たな年度に入り、我々が巡回する仮設の担当支援員の多くは、新しい方になりましたが、人数が少なかったので受け持ちの場所が前年の倍になっていました。負担は大きく、いったい誰のための措置なのかと、ますます分からなくなりました。
あの、酒臭い支援員は再雇用されず、現場で顔を見ることは一切無くなりました。その後どうしているか、時折思い出しては心配になったものです。彼との再会の日は、突然やってきました。
ある冬の日、午前中の仮設での活動を終えて、我々は休憩をとるために食堂のある埠頭に車を止めて、昼食をとった後に犬の散歩をかねて海岸を歩いていました。そこは目出し帽を被った大勢の釣り人が列をなし、バケツを傍らに置いて一心不乱に糸を水面に垂らしている場所でした。気づくと、その中に酒臭い支援員の姿がありました。私は一瞬躊躇しましたが、声をかけてみました。
「こんにちは、ご無沙汰してます。おぼえてますか?仮設で以前‥」
「ああ、音楽の先生か。こんちわ」
彼は幾分、面倒くさそうにタバコを加えながら挨拶をしました。足元には捨てられたヒトデが干からびて放置されていました。
「どうしたい、こんなところで?犬、飼いはじめたの?」
「はい、お元気そうですね」
「元気に見えるのか?ははは」
彼は乾いた声で笑いましたが、顔は全く笑っていませんでした。私が聞いたところでは、支援員をやめてからは全く就職先は見つからず、ずっと生活保護で暮らしているとのことでした。昼間は全くやることが無いので、埠頭で釣りをする毎日だと言っていました。
「犬、可愛いな。大事にしてやれよ」
そう言って彼はバケツを抱えて、そそくさと車に戻り、どこかへ行ってしまいました。
リターン
3,000円

①お礼状(ポストカード)
- 申込数
- 34
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
10,000円

①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
- 申込数
- 20
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
3,000円

①お礼状(ポストカード)
- 申込数
- 34
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
10,000円

①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
- 申込数
- 20
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月

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