『畏怖の心』

　弓削島のある芸予諸島の中心に位置する大三島（愛媛県）には、伊予一宮、日本総鎮守の大山祇神社がある。
　全国の三島神社、大山祇神社の総本社であり、古くより山の神、海の神、戦の神として、朝廷や貴族、武士から崇め奉られてきた。
　歴代の武家の首領が武運を祈り武具・甲冑を奉納し、国宝・重要文化財の甲冑の4割がこの神社にあるという。
　伊予水軍の源流たる豪族・河野氏の収めた武具などもあり、名だたる海賊の棟梁たちがこの社に参拝してきたことを思うと興奮して身震いする。

　一方、弓削島においても古い神社がいくつかあって、それぞれに特有の静寂と厳粛に充ちた空間を形づくっている。

　そしてその多くが、社を海に向けて構えている。
　いにしえより船乗りや漁師たちが、舟を浜につけて鳥居をくぐり本殿を拝んだ様子が思い浮かぶ。

　僕は、社から振り返って、今くぐった鳥居を通してみる海の景色が好きである。
　鳥居が切り取った海が、まるで一幅の絵のようだ。

　海の男たちは、海にいだかれて大自然の豊かさを享受しつつも同時にその脅威を知る。
　豊かさと脅威を骨の髄から知る彼らだからこそ、自然に対する感謝と畏怖の念を誰よりも持ち、人知を超越した力として崇め奉る。

　崇め奉られる神様の方はといえば、今日も鳥居の額ぶちでかたどられた瀬戸の海を眺めながら、人々が会いに来るのをのんびりと待っている。
　・・・のかも、しれない。

　兼頭一司