ツェルニー門下ドールに師事したパブストによるショパンのノクターン第17番Opus 62/2(1895年・Julius Block Cylinder C121)は高音へ優美に消え入るピアニッシモが美しいです。イグムノフはベートーヴェンのソナタ第7番Opus 10/1やチャイコフスキーの四季Opus 37b(1947年・Мелодия С10-05519-26)で透徹した音に強弱変化で表情を与え、流水のよう爽やかです。ゴリデンヴェイゼルはグリーグの抒情小品集(1952-54年・Д-03286-87/294~97/308-09/580-81)を透徹した音に速度変化で表情を与え、詩情を湛えます。ベートーヴェンのソナタ第27番Opus 90(1952年・М10-37527-34)では速度が揺らぎ情趣を醸します。ショパンの前奏曲Opus 28/20(1952年・映像)では端正な姿勢で座り、音量を変え情感を与えます。スクリャービンの前奏曲Opus 15・前奏曲Opus 16(1947/57年・Р10-01071-74)ではしなやかで色彩豊かです。

 

フェインベルクはバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻 BWV846-869(1958年・Д-05106-11)・第2巻BWV 870-893(1961年・Д-05268-73)でしなやかに風情を語り、パルティータ第1番BWV 825(1947年・Д-03781-82)では豊かなリズムを聴かせ、トッカータBWV 912(1947年・Д-08543-44)では清廉な音色で陰影を描き、半音階的幻想曲とフーガBWV 903(1962年・Д-11379-80)で速度と強弱の変化が結合して多彩な表情をなしました。ベートーヴェンのソナタ第4番Opus 4/7(1961年・Д-06321-22)は風が吹き抜けるよう爽やかです。第30番Opus 109(1953年・Д-02810-11)で優雅な情趣が心奥に滲みます。スクリャービンのソナタ第2番Opus 19(1947年・СМ-03037-38)やマズルカOpus 25(1952年・Д-08873-74)も色彩ゆたかです。タマルキーナはシューマンの幻想小曲集Opus 111(1947年・Д-02733-34)でゴリデンヴェイゼルとイグムノフ譲りの澄んだ音色と瑞々しいリズムを聴かせ、タネーエフのピアノ五重奏曲Opus 30(1946年・СМ-03475-76)では彫の深い打鍵で光と影を描き沈省します。いぶし銀のような味わいが息づき、品格を感じさせるしなやかで懐が深いです。

 

パブスト門下メトネルはOpus 39/3(1947年・HMV DB-9191~97)を流麗で優美に弾き、ベートーヴェンのソナタ第23番「熱情」Opus 57(1946年・HMV C3551~53)を美しい音色でしなやかに弾きました。同門ベクマン=シチェルビナはショパンの変奏曲Opus 2(1950年・Мелодия Д-19-20)で心が洗われる透明な音色、スクリャービンのワルツOpus 38(1950年・М10-43533-36)で柔軟な強弱や速度の変化で情感を醸しました。スカルラッティのソナタK. 446, 11, 477, 519(1950年・Д-04576-77)やチャイコフスキーのスケルツォOpus 19/2(1950年・Д-28617-18)でも高貴な透き通る音が冴えわたります。

 

 

Alexander Goldenweiser & Samuil Feinberg

 

ヒラーに薫陶を受けたヴィークはシューマンや愛娘クララを育てました。ブラームスはハンガリア舞曲第1番WoO. 1/1(1889年)を録音して演奏が復元されます。バウマイヤーは練習曲集 Opus 56/4(1910年頃・Union A 3010)で弾力あるリズムを聴かせ、デイヴィスはピアノ協奏曲Opus 54(1928年・Columbia 9616~19)や子供の情景Opus 12(1929年・L-2321~22)で速度や強弱をの変化をしなやかに歌い、デ・ララの演奏(1951年・AdLP-10)は大胆で華やかです。シューマン夫人について証言(1954年・BBC)をして繊細なペダリングや指使いを説明、音質・リズムとフレージング・誠実な解釈・緩急と強弱を本質としました。アラベスクOpus 18(1951年・AdLP-8)・ロマンツェOpus 28(1952年・AdLP-6)・幻想小曲集Opus 111(1951年・AdLP-1)で大胆さと繊細さを兼ねます。フリードベルクも子供の情景Opus 12(1953年・Zodiac LPZ-1001)で和声の変化を味わい、交響的練習曲Opus 13(1953年・IPAM 1102)で深い打鍵で内面を掘り下げ、ベートーヴェンのソナタ第2番Opus 14/2は瑞々しく、ブラームスの間奏曲Opus 117/1(1953年・Zodiac LPZ-1001)は温雅です。アイベンシュッツはロマンツェOps 28/2(1950年頃・Pearl GEMM-292)を渋い音で緊張と弛緩を生み自然な感情を表し、ブラームスについて証言(1952年・BBC)をしました。

 

 

Adelina de Lara & Carl Friedberg

 

フランス・ピア二ズムはクラヴサン楽派を継承します。シャンボニエールの門人ダングルベールやルイ・クープランらは、ゴーティエらのリュート音楽、ギボンスらのイギリスのヴァージナル楽派、スウェーリンクらのネーデルラント鍵盤楽派と交流しました。機械化したリュートとしてクラヴサンが発展、非和声音(経過音や係留音など)で和声進行が連続して多彩な変化をなし流暢です。絃を弾くリュートは構造上、長く響かない制約を逆手に取り、断続様式style briséを発達させ、クラヴサンに継承されました。和音を砕きbriser分割して、前の音と後の音を重ねて隠れた声部を暗示します。フランス音楽の特徴は、出し手が完全に提供せず、受け手が想像し補完して、複雑な心理描写を限られた音楽書法で表現することです。

 

イネガル奏法notes inégalesで符点のリズムに於いて長い音を延ばし、短い音を切り詰め、音色に陰影を与えました。生きた音楽が書き取られた楽譜から機敏な心の揺らぎを読み取り、豊かな感性で弾きました。大クープランの『クラヴサン奏法』(1717年)に要点が記されます。少ない音で多くを語るには、絶妙な間合いによります。音楽は音の間―音程や和声の進行―に意が含まれます。また、装飾音agrémentを発達させ表現の根幹としました。フランス語では修飾語も文体を決定する要素です。ドイツ音楽は旋律を定義しますが、フランス音楽は音で描くようです。印象主義絵画にも特徴がよく表れ、フォーレやドビュッシーまで受け継がれます。

 

ウィーンでハイドンに師事して、エマヌエル・バッハ門下ドゥシークと『ピアノフォルテ奏法』(1797年)を共著したプレイエルがパリに移住、クラヴサン楽派のクープラン一族にも師事したボイエルデューに継承され、門人ジンメルマンは『実践ピアノ奏法』(1827年)を出版しました。門人マルモンテルに師事したプランテはメンデルスゾーンの無言歌集Opus 62-6(1928年・Columbia D-13058)やショパンの練習曲Opus 25/11(1928年・D-15089)を硬質の美音を豪傑に打ちこみました。練習曲Opus 10/7の映像も残しました。同門ディエメはショパンのノクターン第8番Opus 27/2とメンデルスゾーンの無言歌集Opus 67/4(1906年・G&T 35544/45)で指を折り曲げ高い音を転がして美しく弾きました。

 

 

Francis Planté & Louis Diémer

 

ラザール=レヴィはモーツァルトのソナタ第11番KV 331(1956年・Pathé DTX-196)を煌めく音色で活き活きとしたリズムと色彩豊かな転調で喜びに溢れ、ショパンのマズルカOpus 17/4(1951年・放送録音)では玉を転がすタッチで哀愁を醸しました。門人グッソーはリストのラ・カンパネラS. 141/3(1960年頃・Pleiade P-45130)で師譲りの美しい音色を聴かせ、ブンダヴォエは音楽史・和声学・室内楽・オルガン・声楽・合唱の素養により、バッハのトッカータBWV 914(1954年・Ducretet-Thomson 270-C-048)やブラームスのヘンデル変奏曲Opus 24(1957年・Decca FAT-173.732)で磨かれた音で寂寞を伴い、深い洞察を聴かせます。シューマンの間奏曲Opus 4(1957年・FAT-173.689)で感傷に流されず、詩情を醸しました。リストのスペイン狂詩曲S. 254(1955年・FAT-173.803)で円やかな音の粒を磨き、劇的な展開で表情を一変させ、聴き手を引き込みました。

 

ジルはマティアスにも師事しショパンの深奥を究め、ノクターン第2番Opus 9/2や幻想曲Opus 49(1950年代・Disques-Radium 228/29)で楽節ごとに音色を変化させました。パハマンと同じく跳躍の反復や強弱の変化で絶妙に間を取り旋律を歌い、情感を深めました。バラード全曲(1950年代・Acropole SDE-40.097)も録音しました。ロルタはワルツ全集(1931年・Columbia 68028~32-D)・前奏曲全集(1928年・67450~53-D)や練習曲全集(1931年・67965~67-D)を録音、ワルツ第6番「子犬」Opus 64/1でしなやかに移ろい趣を与え、第14番Opus 70-2など短調では味わいを引き出しました。シュミッツはドビュッシーの前奏曲集[亜麻色の髪の乙女](1943年・RCA CAL-179~80)で美しい音色を聴かせます。

 

ナットはベートーヴェンのソナタ第26番「別れ」Opus 81a(1954年・Les Discophiles-François DF-125)や第32番Opus 111(1954年・DF-109)を円やかな音色と強い打鍵でピアノを交響楽のよう荘厳に響かせ、内面の深さや懐の広さを究め、変奏曲WoO. 80(1955年・DF-144)で各々の変奏で表情を変えました。ブラームスのヘンデル変奏曲Opus 24(1955年・DF-177)で左手の落ち着いた和音と右手の旋律が一体となり趣きを深めます。門人デカーヴはモーツァルトの変奏曲KV 354(1956年・Pathé DTX-197)で深みと温かみある音色で多彩な表情を引き出し、プティはショパンのバラード第1番Opus 23や練習曲Opus 10/3(1950年代・Trianon A-17004)を芳醇な響きと感傷に流されない知性を感じさせます。フォールはラヴェルのクープランの墓(1960年・Pathé DTX-292)で円やかな音と類い稀なリズム感を聴かせます。フルノーはショパンのバルカロールOpus 60や新練習曲B. 130(1950年代・Orphée 50003)をたおやかに弾き、フォーレのバルカロール第3番Opus 42(1957年・Pacific LDP-F-168)で甘美に漂います。マルモンテル門下フィッソーに師事したパンテは伝モーツァルトの田園変奏曲KV Anh. C 26.01(1934年・Columbia DFX-169)で粒揃いのタッチにより多彩な表情を描き、ショパンのノクターン第15番Opus 55/1やベルスーズOpus 57(1949年・Radio-Genéve LD-03)で分厚い和音に絡む独特な旋律を聴かせます。

 

アントナン・マルモンテル門下ロンはフォーレのバラードOpus 19(1952年・Columbia FCX-169)やノクターン第4番Opus 36(1937年・LFX-567)で優美でほのかな情感と昂揚を描き、ドビュッシーの版画「雨の庭」L. 100/3(1929年・LFX-24)でやわらかに弾きました。モーツァルトの協奏曲第23番KV 488(1939年・LX-527~29)で作品に内在する輝きを聴かせました。門人ルールもシューマンのクライスレリアーナOpus 16(1953年・Supraphon LPM-322)をやわらかに奏でました。サマロフはバッハの小フーガBWV 578(1930年・Victor 7348-A)やリストのラ・カンパネラS. 141/3(1922年・Victor 74794)で美しい粒で描き、門人トゥレックはバッハのイタリア協奏曲BWV 971(1951年・Allegro AL-117)で師譲りのタッチで優美に描きます。ダンディは旅の画集「ヴェール湖」Opus 33/4(1923年・HMV P-472)で粒そろいのタッチを聴かせ、門人アルベニスは即興(1903年・IPA 109)で湧き上がる情念を音で表す豊かな構成力を示しました。同門セルヴァはバッハのパルティータ第1番BWV 825(1928年・Columbia D-15234~35)やフランクの前奏曲、コラールとフーガM. 21(1928年・LFX-168~70)で高雅さ繊細さ彫の深さを感じさせます。ドビュッシーは版画「グラナダの夕べ」L 100/2やレントより遅くL 121(1913年・Welte 2735/36)でこんこんと湧き出る情感の泉をレガートで聴かせます。

 

 

Lazare-Lévy & Claude Debussy

 

KFアーカイブを今後ともよろしくお願い申し上げます。

長文にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。

 

平成28年4月24日

特定非営利活動法人 KFアーカイブ会長 中西 泰裕

 

近代ピアニストの系譜―ロシア・フランスのピアニズム

 

Johann Sebastian Bach [1685-1750] ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

 Gottfried August Homilius [1714-1785] ホミリウス

  Johann Adam Hiller [1728-1804] ヒラー

   Christian Gottlob Neefe [1748-1798] ネーフェ

    Ludwig van Beethoven [1770-1827] ベートーヴェン

     Carl Czerny [1791-1857] ツェルニー

      Anton Door [1833-1919] ドール

       Pavel Pabst [1854-1897] パブスト

        Konstantin Igumnov [1873-1948] イグムノフ

         Nikolai Orloff [1892-1964] オルロフ

         Yuri Bryushkov [1903-1971] ブリュシュコフ

         Lev Oborin [1907-1974] オボーリン

         Yakov Flier [1912-1977] フリーエル

         Isaac Mikhnovsky [1914-1978] ミフノフスキー

         Oleg Boshniakovich [1920-2006] ボシュニアコーヴィチ

         Maria Gambaryan [1925-] ガンバリアン

         Naum Shtarkman [1927-2006] シュタルクマン

        Aleksander Goldenweiser [1875-1961] ゴリデンヴェイゼル

         Samuil Feinberg [1890-1962] フェインベルク

          Victor Merzhanov [1919-2012] メルジャーノフ

         Grigory Ginzburg [1904-1961] ギンズブルク

          Gleb Axelrod [1923-2003] アクセルロート

         Rosa Tamarkina [1920-1950] タマルキーナ

         Tatiana Nikolayeva [1924-1999] ニコラエーワ

        Nikolai Medtner [1880-1951] メトネル

        Elena Bekman-Scherbina [1882-1951]ベクマン=シチェルビナ

   Friedrich Wieck [1785-1873] ヴィーク

    Robert Schumann [1810-1856] シューマン

     Carl Reinecke*

    Clara Schumann [1819-1896] クララ・シューマン

     Johannes Brahms [1833-1897] ブラームス

     Marie Baumayer [1851-1931] バウマイヤー

     Fanny Davies [1861-1934] ファニー・デイヴィス

     Ilona Eibenschütz [1872-1967] アイベンシュッツ

     Carl Friedberg [1872-1955] フリードベルク

     Adelina de Lara [1872-1961] デ・ララ

 

Joseph Haydn [1732-1809] ヨーゼフ・ハイドン

 Ignaz Pleyel [1757-1831] プレイエル

  François-Adrien Boieldieu [1775-1819] ボイエルデュー

   Pierre-Joseph-Guillaume Zimmermann [1785-1859] ジンメルマン

    Antoine-François Marmontel [1816-1898] マルモンテル

     Francis Planté [1839-1934] プランテ

     Louis Diémer [1843-1919] ディエメ

      Lazare Lévy [1882-1964] ラザール=レヴィ

       Lélia Gousseau [1909-1997] グッソー

       Monique Haas [1909-1987] アース

       Ginette Doyen [1921-2002] ドワイアン

       Agnelle Bundervoët [1922-2015] ブンダヴォエ

      Alfredo Casella [1883-1947] カゼッラ

       Vera Franceschi [1926-1966] フランチェスキ

      Victor Gille [1884-1964] ジル

      Robert Lortat [1885-1938] ロルタ

      Henri Etlin [1886-1951] エトラン

      Élie Robert Schmitz [1889-1949] シュミッツ

      Yves Nat [1890-1956] ナット

       Lucette Descaves [1906-1993] デカーヴ

       Marie-Madeleine Petit [1922-] プティ

      Marcel Ciampi [1891-1980] シャンピ

       Yvonne Loriod-Messiaen [1924-2010] ロリオ=メシアン

       Agnelle Bundervoët*

      Henri Gil-Marchex [1894-1970] ジル=マルシェ

      Joseph Benvenuti [1898-1967] ベンベヌーティ

      Robert Casadesus [1899-1972] カサドシュ

      Henriette Faure [1904-1985] フォール

       Marie-Thérèse Fourneau [1927-2000] フルノー

      Alfred Cortot*

      Édouard Risler*

     Henri Fissot [1843-1896] フィッソー

      Johanne Amalie Stockmarr [1869-1944] ストックマー

      Marie Panthès [1871-1955] パンテ

     Antonin Marmontel [1850-1907] アントナン・マルモンテル

      Victor Staub [1872-1953] シュタウブ

      Marguerite Long [1874-1966] ロン

       Germaine Leroux [1906-1986] ルール

       Samson François [1924-1970] フランソワ

      Olga Samaroff [1880-1948] サマロフ

       Rosalyn Tureck [1914-2003] トゥレック

       Leah Effenbach [1915-1978] エフェンバッハ

       William Kapell [1922-1953] カペル

     Vincent d'Indy [1851-1931] ダンディ

      Isaac Albéniz [1860-1909] アルベニス

       Enric Morera [1865-1942] モレーラ

        Manuel Infante [1883-1958] インファンテ

      Blanche Selva [1884-1942] セルヴァ

       Lucienne Delforge [1909-1987] デルフォルジュ

     Claude Debussy [1862-1918] ドビュッシー

      Maurice Dumesnil [1886-1974] デュメニル

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