「もういちど、会いたい…」北朝鮮政府を訴える史上初の裁判へご支援を

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2021年11月01日 16:21

【裁判の報告2】「時の壁」超える「不法行為の一体性」とは!?

こんにちは、北朝鮮帰国事業裁判原告団です。

 

ここまで55名の方々よりご支援いただき、目標の35%を達成しました。

引き続き北朝鮮帰国事業裁判を遂行するための本クラウドファンディングを頑張って参りますので、応援お願いします。

 

さて、2021年10月14日(木)10:00~16:30 東京地方裁判所103号法廷で、第1回口頭弁論期日が行われました。この内容についての連載、第二回目です!第一回目報告をご覧になっていない方はこちらをご覧ください。

 

今回は、前回の福田弁護士の意見陳述に続いて行われた林純子弁護士の意見陳述「不法行為の一体性」の概要です。

 

実はこの裁判、北朝鮮政府が原告らに対して不法行為を行ったということを立証する必要があるだけではなく、かなり昔のことについて、海外の政府を訴えていることなどからたくさんの論点について主張立証しなくてはなりません。(詳しくはこちらにまとめています)

 

そしてそのなかでも、日本での司法救済を求める帰国事業の被害者に立ちはだかってきたのが、「時間の壁」。そしてそれを乗り越えるために、弁護団は「不法行為の一体性」について詳しく法廷で述べました。

 

不法行為の一体性とは

 

本件では北朝鮮政府の不法行為責任を追及していますが、不法行為は、行為から20年が経過すると、その法的責任を問うことができなくなってしまいます。原告らが北朝鮮に帰国したのは、最も帰国時期が遅い石川さんの場合でも1972年ですので、帰国時の虚偽宣伝行為のみを不法行為と捉えた場合、本件を提訴した2018年には既に20年以上経過していることになります。

 

しかし、本件では、帰国時の虚偽宣伝行為のみを不法行為とみるべきではありません。「虚偽宣伝を行って北朝鮮の状況を誤信させた上で帰国させ、帰国後は北朝鮮国内において移動の自由等を否定し、北朝鮮からの出国も許さず、同国内に留め置く」という形で、虚偽宣伝から出国妨害にいたる「国家誘拐行為」という不法行為が継続的・一体的に行われ、損害も継続的に発生した場合にあたると評価すべきです。

 

本訴訟では、この「継続的不法行為の一体性」を認めるかどうかが主要な争点の1つになっています。

 

林弁護士はこの点について、「なぜ一体と評価すべきであるのか」を詳細に説明しました。

 

継続的不法行為の一体性についての考え方

 

これは弁護団が説明の際に裁判官に示した図です。

 

この図にあるとおり、不法行為の一体性が認められるためには、「行為」及び「損害」の一体性がから判断され認められることが必要となります。そして、「行為」に一体性があるというためには、主観的一体性と客観的一体性から判断され、「社会通念上一連一体の継続的な不法行為の実態」がある場合に認められます。

 

主観的一体性の有無を判断するための考慮要素メルクマールとなるのが「目的」や「計画」であり、客観的一体性の有無を判断するための考慮要素メルクマールとなるのが「行為主体」「時間的隔たり」「行為態様」です。

 

弁護団は、行為の一体性についとして、本件行為は「社会通念上一連一体の継続的な不法行為の実態体」があること」を説明しました。また、損害の一体性として、本件損害は「各時点ごとに切り離して評価することが困難で、一個の損害にあたるものと評価すべき場合」、特に「不法行為終了時において人生損害を全体として一体的に評価しなければ損害額の適正な算定ができない」場合にあたることを説明しました。これらが満たされる結果、国家誘拐行為は継続的不法行為として一体のものであると評価すべきことになります。

 

行為の一体性①:主観的一体性(目的)の検討

 

まず、弁護団は「主観的一体性」の考慮要素である「目的」に着目し、目的から考えると、北朝鮮政府は帰国者を北朝鮮国外に再度出国させないことを当初から前提としていたことを説明しました。

国家誘拐行為には大きく分けて、「政治的目的」と「経済的目的」があり、そのいずれの側面から見ても、当初から出国妨害行為は予定されていたと言えます。

 

政治的目的

 

政治的目的とは、北朝鮮の社会主義体制の優越性を誇示することでしたす。

帰国事業が行われたのは東西冷戦の時期と重なっています。そして、日本の在日コリアンのほとんどは、朝鮮半島南部出身者、あるいはその子孫にあたります。南部出身者が故郷のある韓国ではなく、あえて体制の異なる北朝鮮へ渡る選択をしたということになれば、それは韓国をはじめとする西側陣営に対して、北朝鮮の社会主義体制の優越性を宣伝する効果を持つことになります。それは北朝鮮において大きな「政治的勝利」であると考えられていました。

とはいえ、実際には北朝鮮は人権抑圧国家で最低限の生活環境も整っていない場所であるため、それに気付いた帰国者の多くが再度北朝鮮からの出国を希望するであろうことは予想に難くなかったはずです。 

 

しかし、いったん帰国した人々が次々に出国して行くようなことになれば、北朝鮮の社会主義体制の優越性を宣伝するどころか、全くの逆効果となります。したがって、政治的目的の見地からは、被告が、当初から帰国者を北朝鮮国内に留め置くことまでを想定していたことが明らかであると評価できます。

 

経済的目的

 

経済的目的とは、労働力の補充を意味します。

 

帰国事業の始まった1958年頃、北朝鮮では「第1次5か年計画」が推進されていましたが、労働者や技術者が不足していました。そこを、日本からの帰国者で穴埋めしようとしていたと考えられています。

ここでも、帰国者の多くが北朝鮮を離れることとなれば労働力の補充ができないことになるため、被告が帰国者を北朝鮮国内に留め置くことまでを当初から想定していたことは明らかです。

 

行為の一体性②:主観的一体性(計画)の検討

 

次に、弁護団は「主観的一体性」のもう1つ考慮要素である「計画」の側面に言及しました。帰国者を出国させないことが当初から計画されており、かつ、実際にも出国を許さない場合には、「継続的不法行為が不可分かつ連続して実施されることが当初より想定され、かつ、実際にそのように実施されたもの」であるとして主観的一体性が認められることになります。

 

帰国者を出国させないことが当初から計画されていたことを裏付ける事実として、被告の宣伝内容が、帰国すれば直ちに虚偽だと判明するようなものであったことが挙げられます。

 

北朝鮮政府は朝鮮総連を通じては、北朝鮮は「地上の楽園」であると宣伝していましたが、実際にはまったく異なるものでした。たとえば、北朝鮮では「自分が住みたいところに暮らし、技能に応じてしたい仕事ができる」、「住宅は、都市では高層文化アパート、農村では文化住宅」と宣伝されていました。しかし実際には、帰国者の居住地や職場の配置は、朝鮮労働党中央の方針に沿って決定されており、当初から帰国者の希望が通る仕組みではありませんでした。また、住宅は、古い瓦屋根に土壁の家や、今にも潰れそうなバラック建ての宿舎、他人の家の片隅の6畳間のみというような状態でした。アパートも、お手洗いの場所はあっても便器がなく、水道も通っていないようなものでした。また、食糧などの消費物資についても、十分にあると宣伝されていましたが、実際は、配給だけでは到底生活できないような水準でした。

 

このような、北朝鮮に実際に足を踏み入れればすぐに虚偽と判明する内容を宣伝していたということは、北朝鮮政府帰国者は最下層の成分(身分)とされ、職業選択の自由、移動の自由がなく、水も通らないアパートで最低限の食料すら配給されないような生活であり、これらは帰国直後に住居や職業を割り振られた時点で発覚するようなことです。さらに、原告らの陳述書や尋問で明らかになりますが、北朝鮮国民は極めて貧しく、帰国船が清津港に到着する前に出迎えの人々の姿を見ただけでも北朝鮮による宣伝が虚偽であると分かるような有り様でした。 

 

虚偽に気付いた帰国者がすぐに再度北朝鮮から出国することとなれば帰国事業を計画した意味がなくなります。また、帰国者が北朝鮮から出国し、日本に帰って北朝鮮の真実を広めれば、その後帰国する人はいなくなってしまいます。 

それにも関わらず、すぐに虚偽だと発覚するような内容の宣伝していたということは、北朝鮮は、虚偽が発覚しても構わないと思っていた―なぜなら、帰国者を再度北朝鮮から出国させるつもりはそもそもなかったからだ―ということに他なりません。 

 

そのほかにも、

  • 帰国者が錯誤に陥っていることを被告が認識していたこと
  • 帰国者の大半が非常に困窮したこと
  • 日本からの帰国者は下層成分とされたこと
  • 日本人妻の一時帰国も1997年まで許されなかったこと
  • 一般の在日コリアンの北朝鮮往来が可能になった後も、帰国者の往来は認められていないこと

からも、北朝鮮政府が、明らかに、当初より帰国者らを出国させないことを想定していたことがわかります。

 

そして、実際にも帰国者は出国が許されませんでした。

 

原告らのように命がけで脱北した者がいることが、北朝鮮から自由に出国できないことをまさに示しています。朝鮮総連の説明では、日本人妻は3年経てば帰国できると言われていたにもかかわらず、日本人妻の一時帰国は1997年まで許されず、さほど親しくもない日本の親族に送金を求めなければ生きていけないほど困窮していても出国が許されません でした。また、一般の在日コリアンの北朝鮮往来が可能になった後も、帰国者の往来は認められていません 。

 

このように、当初の計画及びその後の実施状況の両面から、国家誘拐行為は、「不可分かつ連続して実施されることが当初より想定されており、かつ、実際にそのように実施された」といえます。

 

行為の一体性③:客観的一体性の検討

 

客観的一体性については、行為主体、時期的隔たり、行為態様に着目して説明がなされました。

 

「行為主体」という点から見ると、北朝鮮政府は日本政府との間に国交がないため、自ら活動することはできませんでしたが、朝鮮総連を被告の手足として使って、虚偽宣伝を行いました。朝鮮総連が被告の手足であることは、朝鮮総連の性質と被告との関係から明らかです。

 

「時期的隔たり」については、虚偽宣伝を受けて北朝鮮へ渡航した帰国者たちについて、渡航直後から継続して出国を許さなかったものであり、時期的隔たりが生じたことは一度もありません。

 

「行為態様」という観点からは、虚偽宣伝と出国妨害とでは態様が異質にも思えますが、行為態様以外の点から客観的一体性は優に認められるため、この点は問題となりません。

 

損害の一体性の検討

 

ここまで見てきたとおり、主観的一体性及び客観的一体性が認められるため、行為の一体性は認められることとなります。

 

続いて、損害の一体性ですが、国家誘拐行為により侵害されたのは、原告らの「居住する国家・体制を選択し、これを実現する権利」です。この権利は、日本国憲法13条が保障する自己決定権、及び同22条が保障する居住移転の自由・海外渡航の自由に由来します。この権利が侵害された結果、原告らは、基本的人権の保障を受けることができる場所で生きることが不可能になりました。

 

この損害は、虚偽宣伝の時点から原告が脱北するまで数十年にわたって継続的・累積的に発生し、原告本人尋問で立証されるように、原告らの人生そのものを奪いました。この損害は、各時点ごとに切り離して評価しうる性質のものではなくありえず、不法行為終了時において、人生損害を全体として一体的に評価しなければ損害額の適正な算定は不可能です。したがって、「損害の一体性」が認められる場合であることは明らかです。

 

まとめ

 

以上より、冒頭で述べたとおり、行為の一体性(社会通念上一連一体の継続的な不法行為の実体があること)及び損害の一体性(各時点ごとに切り離して評価することが困難で、人生損害を全体として一体的に評価しなければ損害額の適正な算定ができないこと)が認められる結果、国家誘拐行為は継続的不法行為として一体のものであると評価すべきことになります。(国家誘拐行為の一体性についての詳細は、原告第5準備書面をご覧ください。) 

 

傍聴席からの感想

 

林弁護士の意見陳述、裁判官に資料を示しながら行われましたが、非常に明快でわかりやすく、北朝鮮による国家誘拐行為が一体性を有することが説得的に説明されていたと思います。

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