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jean1949paul

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2021年04月30日 08:00

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その45。「白雪姫」

 大演奏会が終わった。

    これがバスク人。秘められていた念が爆発。奏者も合唱隊も踊り手も汗だく。お父さんが「明日からの祭りのよい練習になった」。集まった人達は近隣の顔なじみに留まらず、コンクールに出場するハビエル村のチームのメンバーだった。アジェールとレイレは水を飲み交わし談笑している。レイレの白い肌

が朱に染まり、初々しくも、鬢のほつれを直す仕草に艶があった。   

    お爺さんがバスク語でゆっくり呟いた。

「バスク人の音楽も踊りも長いあいだ変わっていない。フランコの時代には楽器を鳴らすことも踊ることもできなかった。それでもバスク人は忘れなかった。言葉と同じさ」

「お腹が空いたでしょう」

    お婆さんがわたしを庭に連れ出した。

    わたしはもろ手を挙げた歓迎を受けている。 

    全員でバーベキューの準備。弟が薪に火を入れていた。妹はお母さんの手伝い。二〇余人ものお腹を満たすとなれば食材の数も量も沢山。それらがドッサリと丸太を組んだテーブルに並ぶ。コンロも細長く大きい。お父さんもお手伝い。お爺さんがシードル樽の栓を抜いた。乾杯の準備が整った。子供たちも細長いグラスを手にしている。後はお父さんの発声を待つだけ。

「アジェールと遠い日本からの客人、のぞみの為に集まってくれてありがとう。今日は客人にバスクの歌と踊りを披露できた。明日からは祭り。これから存分に楽しもう」

 大演奏会の後は大宴会。

    バスクの抜ける空の青が気持ち良い。収穫祭は日本でも晴れがましい。こんな良き日に招かれたわたしは果報者。『食はバスクにあり』とはまさしく。山の麓ならでは料理が並んでいる。お母さんとお婆さんが昨日から準備していたに違いない。                 

    紫玉葱のスライスをベースにした、ほうれん草とトマト、それと黄色のパプリカのサラダには羊のヨーグルトがドレッシング。玉葱とほうれん草には塩で下味がつけられていた。ヨーグルトは酸味が強い。それがこのサラダには絶妙。羊乳のチーズを水で溶かして大豆を煮込み、唐辛子で味付けした真赤なスープ。クレソンが色どりに添えられている。気後れして手を出せないでいると、お婆さんが「辛くないから」と勧めてくれた。おそるおそるスプーンでひと口。柔らかい辛さの中に旨味が広がった。この味も初めて。美味しい。

 嬉しそうなお婆さん。

「このスープは宝物。私のお婆さんから授かった」

 とうもろこしを粉にして焼き上げたクレープに似ているタロと黒サクランボのジャム。これらがアジェール家の用意。これで半分。それぞれが持ち寄った料理が大皿に載せられていた。キッシュ。チストラ。マルタミコなどなど。全部手製。何処かの店で調達したものなどひとつもない。当たり前か。他にも二色の葡萄と赤く熟した林檎が山盛り籠に…。主役はお爺さんのバスク豚。肉の塊りに岩塩と胡椒を摺り込んで、鉄の串に差し、ジュウジュワと豪快に焼く。

 お父さんに勧められ、下ろした青林檎をまぶして食べた。肉の味とマキの香りが深い。バスク豚を堪能。そしてシードルを一気に飲み干した。林檎の酸味に溶け込んだ、透明感のある甘みが発泡してくる。それも上品に。シードルはわたしが唯一美味しく飲めるお酒。

            

「のぞみはアジェールがお医者さんになって『国境なき医師団』に加わるのに賛成…」

 お母さんが神妙にスペイン語で尋ねてきた。

 どうやら彼女は困っている。分かる。

「わたしは賛成でも反対でもありません。彼の志が決めた進路ですので反対できません。応援するしかありません。でも寂しい」

「私と同じね。アジェールは子供の頃から意志が強く努力家だった。それは今も変わらない。だから心配なの…」    

 レイレが突然、そして強い口調でわたしに言い放った。

「私はアジェールの仕事を手伝うんだ」

 彼女は高等看護学校進学に向けて猛勉強中。

「私が看護師のインターナショナル・ライセンスを取ったら世界中の何処であってもアジェールと一緒に働ける」

 レイレは誇らしげだ。

「のぞみはアジェールのお嫁さんじゃないんだ。お嫁さんだと思ったからショックだった」

 妹がわたしに耳打ち。

「レイレは私と小さい頃からの仲良し。何時も二人で遊んでいた。アジェールは私たちに勉強を教えてくれたり一緒に遊んでくれた。レイレは七歳の時からアジェールのお嫁さんになるって…」

「貴女はわたしの強力なライバル。わたしも負けないよう頑張る。アジェールの邪魔しないようにね」

    レイレはプイとその場を離れた。                                          

 それを聞いていたお爺さんが「やれやれ」と言いつつ、ラム酒の瓶を片手にスペイン語でわたしに語り始めた。彼はバスク語しか話さない。お婆さんも。そうアジェールから聞いていた。両親はスペイン語も話す。その子供達にはフランス語が加わると。       

「ゲバラもラム酒を愛していた。ラム酒はワシの心にキックを入れてくれる。バスク人は日本人への感謝を忘れていないんだ。大昔に五十名ものバスク人船乗りが助けられた」

「一六〇九年のサン・フランシスコ号の難破ですね。スペインに来てから知りました」

「よく知っていたね。救助された後はエドで、バスク人もスペイン人も等しく丁重に扱われた。そしてイエヤスは新しく船を造ってくれた。その船で生き残った者達はスペインに生還。バスク人なら子供でも知っている。日本人は名誉を重んじる。我々と同じだ。農民の多くは文字を読み裸馬にも乗る。サムライは威張っているだけ。職人は気位が高い。バスク人は日本人が好きなんだ」   

 わたしと出逢って直ぐに打ち解けたアジェールの理由のひとつがこれなのかも知れない。                   

 

    レイレがわたしを家の中に手招きした。

 ついてゆくと彼女はピアノの前に座った。

「のぞみはピアノが上手。私はピアノも好きなんだ。『白雪姫』を唄うから聴いて」

 敵意が消えていた。

 レイレは両指で激しく鍵盤を叩いた。D♭からDmに。最後はEm7のダダーン。少し間をおいて唄い出した。           

 

 …Someday my prince will come

 Someday we'll meet again         

        …………………

 Someday when my dream come true…  

 

    憂いがあった。             

「のぞみと私の王子様はアジェールではないんだ。私には分る。悲しい」

 レイレの眸からひと筋の涙がこぼれた。

    わたしからも。 

(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その44。「Pasde Basque」(上)『ホタテと瓢箪』の抜粋。その46。「ピロタ」
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