絵本『ニョタのふしぎな音楽』が生まれたわけ（杉山祐子）

それは、マジェレコ村で流行りはじめた野菜栽培の調査にでかけたときのことでした。

タビアさんの案内で向かったのは、低地に広がる新しい野菜畑です。日ざしが照りつけるなか、野菜畑の水やりを終えた村びとが井戸のそばにある大木の木かげに座っていました。近づいてみると、みんなもぐもぐと何かおいしそうに食べています。

　「木かげに座って、あなたがたもどうぞ」

　勧められたその食べ物はザンバラウの実でした。一粒一粒は小さいのですが、甘くておいしい〜！ 出された実を食べてしまうと、誰かが立ち上がって木の枝からまたその実をとってくれました。

　「この木はザンバラウの木なのね！」

　熟したザンバラウの実は、休憩しながら食べるのにちょうどいい。聞けば、ザンバラウの木はあちこちの水場に植えられたらしいのです。食べ終わったあとの種から芽生えた苗をほかの場所に植えて増やした人もいるといいます。

 

　「最初の苗はどうやって手に入れたの？｣　一緒にいた椿さんが聞きました。

　「なに言ってるの？　あれはあなたが持ってきた木じゃない！」

　「え、ええ〜っ？」

 

 

　マジェレコ村のあるドドマ州は、一年間に600ミリくらいしか雨が降らない乾燥した地域です。雨の降りかたも安定しないので作物がとれない年もあり、人びとは昔から食料不足に悩まされてきました。木を植えたら少しは暮らしが豊かになるんじゃないかしらと考えた椿さんは、お連れ合いのズルンゲさんと一緒にいろいろな種類の木の苗を用意して、村に来るたびみんなにあげたのだそうです。

　ところが、そのあと何度村に行っても、どこにも苗を植えたようすが見られません。せっかくあげたのに、誰も受け入れてくれなかったと内心がっかりしていたんですって。

　それがなんと！村びとはもらった苗が乾かないようにと、遠くの山かげや低地の水場に植えていたことがわかりました。だから椿さんたちの目に触れなかったのです。でも植えられた山かげや水場で苗は育ち、村びとに涼しい木陰やおいしい実、薬にもなる葉っぱを提供してくれるようになりました。

 

　「こんなこともあるんだね」

　村から帰って、椿さんを囲み、阪本さんや坂井さんと話しあううち、この話を絵本にしたらというアイデアが持ち上がりました。マジェレコ村の子どもたちにプレゼントしたい、自分たちの暮らす村をどんなふうに作っていったらいいか、絵本を囲んで一緒に話してみたい。そんな思いから生まれたのがこの絵本です。