鈴木竜(ダンサー・振付家)

 

突然ですが、皆さんに質問です。

 

 

あなたは、もしあなたの子供が「ダンサーになりたい」と言ったら、それを心から応援してあげられますか?

 

 

ダンサーに限らなくても構いません。例えば、東京という場所に夢を持ってやってくる若者たちに「あきらめなければ夢をつかめる」とあなたは言い切れますか? こういった質問に迷いなく「YES」と答えることができる人は、どのくらいいるでしょうか。僕自身、自分自身の経験、そしてダンサーを目指す若者たちの現実をこれでもかと言うほど見ているので、心の底から「YES」を言えるかというと、とても難しいです。

 

日本には、プロのダンサーとして生きていくためのはっきりとしたシステムが存在しません。それはバレエだろうがコンテンポラリーダンサーだろうがストリートだろうが、同じことです。もちろん実力が伴わない人は論外ですが、その実力を兼ね備えたダンサーたちの中でも運良く仕事が入ってくるグループに属することができた人たちのみが、どうにか食いつないでいけているので

 

なので、僕が教えに行っているバレエスタジオの先生たちのほとんどがダンサーを目指す才能ある生徒さんたちを海外のバレエ学校やダンスカンパニーへ送り出します。特にヨーロッパ・アメリカなどではバレエ団やダンスカンパニーが存在し、そこに所属するダンサーたちはしっかりとお給料をもらって生活しています。これはフリーランスでも同じで、例えば僕が6年近く住んでいたイギリスではダンサーや役者のための労働組合さえ存在します。

 

また、セカンドキャリアへの対応も進んでおり、ある程度のカンパニーに規定の年数以上所属するとセカンドキャリアのための大学へ通う費用が支払われるシステムがありました。ヨーロッパ各国でも、ダンサーのための年金システムや失業保険、家賃補助など他の仕事となんら遜色のない福利厚生を受けることができます。またヨーロッパだけでなく韓国や中国も近年では現代芸術やコンテンポラリーダンス・バレエなどに力を入れていて、そのレベルは目覚ましく上がっています。

 

ロンドンオリンピックの開会式に出演した際の写真。このメンバーの大半がフリーランスのダンサーとして生計を立てています。

 

日本には、純粋にダンスに関わる仕事だけで生計を立てられている人間はそう多くありません。また、僕を含めその数少ないラッキーな人間たちの中でも、自分の創作活動だけで食べている人というのはほぼ存在しません。

 

子供の頃は、世界にはそこら中にチャンスが転がっていて、自分はその全てを掴み取れると思っていました。そしてそのために自分の時間の全てを使っていました。一応「ダンサーになる」という自分の夢を叶え、海外でのダンサー生活のあと、日本に戻っての活動を始めて目の当たりにしたのは、ダンサーやアーティストたちの厳しい現実でした。僕は、日本に夢のある国であってほしいです。そして「おもしろいこと」をやっている人たちが消費されるだけでなく、それを仕事にして社会に貢献できる国であってほしいと願っています。

 

僕は今の自分の仕事に誇りを持っていますし、世界一幸せな仕事を生業としていると心から思っています。それでも、現時点ではダンサーを目指す子供達に日本で活動することを勧めることはできないです。なぜなら、海外に出てダンサーとして働く方がはるかに実現可能性が高く、よっぽど理に適っているからです。それでも、その夢を成し遂げられるのは、ほんの一握りです。

 

僕の周囲のケースで言えば、子供の頃に所属していたスタジオの生徒たち50人ほどの中からプロを目指した子たちが2〜3人、そんな人たちが各地から集まった東京のスタジオで出会った若手ダンサーたちや、イギリスのバレエ学校の同級生たちを合わせた数百人のうち、僕が知る限り今もダンサーや振付家として生計を立てているのは、僕を含め両手で十分足りるほどの数です。その中で日本人、しかも日本でそれなりの活動を展開している人間は、2人くらいでしょうか。あとはヨーロッパ始めとした世界各国の出身者たちで、ヨーロッパでカンパニーに所属していたりフリーランスで活躍しています。日本で学んでいた時代の同世代は、ほぼ全員プロとして生きることを諦めました。とてもいいダンサーだった子たちもたくさんいます・・・!

 

 

もう一度、冒頭の質問に戻ります。

 

 

あなたは、もしあなたの子供が「ダンサーになりたい」と言ったら、それを心から応援してあげられますか?

 

 

僕が変えたいのは、この質問への答えを考えているあなたや僕の中に生じるこの小さな「淀み」です。どれだけ綺麗事だと言われようが、青臭いと言われようが、自分の目標に向かって努力する奴らがちゃんと報われる国だと心の底から信じたいのです。「仕事=嫌なことをやること」ではなく、自分の仕事を愛せるところであってほしい。そして、ダンサーやアーティストという仕事が子供たちにとって「夢」ではなく実現可能な「目標」であると言えるようにしたいのです。

 

僕の企画するプロジェクトが、若者たちが目指すことができる場所の一つなったらいいなと思っています。そのために僕ができるのは、自分と自分を助けてくれる人たちと、プロフェッショナルな仕事と呼べる環境で作品を作ることです。「いつかあんな舞台で踊るんだ!」と子供たちや後輩たちが夢見るプロジェクト。そういうプロジェクトをもっともっと増やすことができれば、ダンサーを目指す子供たちにも心からのエールを送ることができるようになると思います。

 

今回の僕の公演は、皆さんにとってはたくさんある舞台公演のほんの一つで、何ら違いはないように見えるかもしれません。しかし、このクラウドファンディングを利用した作品制作が継続的に可能であるということを示すことは、東京のみならず日本の芸術全体にとって非常に大きな意味があるのです。この公演とCF活動の成功は東京の、そして日本の若手アーティストたちにとっての光になり得るのです。つまり、今これを読んでくださっている皆さんは次世代を担う人間たちにとっての光のです。

 

僕の目標は、子ども達に「君たちは何にでもなれるんだよ〜」と無責任な言葉をかけることではなく、その先にあるべきプロフェッショナルな環境や、若者たちが夢を叶えられる場所を作る、ということです。この大きな夢を現実にするには、皆さんの力が必要です。これまでに次世代のためにプロジェクトをご支援いただいてきた皆さんの想いを無駄にしないために、そしてダンサーを目指す子供たちに「応援してるよ、ここまでおいで!」と心から言える日をできるだけ早く迎えるために。どうぞご支援をよろしくお願いいたします。

 

 

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