東京バレエ団|コロナ禍を生き延び、ピンチをチャンスに変えるために

東京バレエ団|コロナ禍を生き延び、ピンチをチャンスに変えるために

寄付総額

19,501,000

目標金額 10,000,000円

寄付者
661人
募集終了日
2021年3月31日

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2021年03月22日 19:00

ダンサーより 3)政本絵美|さらなる飛躍に向けて

 

ダンサーの声、第3回にして最終回は東京バレエ団ソリストの政本絵美が登場!

昨年は「ねむれる森の美女」リラの精から「ドン・キホーテ」メルセデス・ドリアードの女王・ジプシーの娘、「M」ローズ役、そして先月は「ジゼル」バチルド姫・ミルタの初役を果たす等、幅広い役柄をこなしますます魅力が深まる政本。

舞台に向き合う姿勢や普段の取り組みについて話を聞きました。

 

photo : JPD

 

――まずはクラウドファンディングについて、どう感じましたか?

正直なところ、始まるまではこのような大きな金額が集まるのか不安でしたが、ジゼルが終わった後の1週間の勢いがすごくて、驚きました。「ジゼル」公演をご覧になって少しでも支援したいと思ってくださったとしたら良かったなと思いますし、お一人お一人の気持ちが本当にありがたいです。いただいている応援メッセージも読ませていただいています。

 

――「ジゼル」公演についてのコメントも多くありました。今回ミルタ役(とバチルド姫)に初挑戦でしたが、リハーサルでは芸術監督(斎藤友佳理)からいろいろと教わったそうですね。

踊り方よりもミルタという人となりをたくさん教えてもらいました。この役の中身を知っているのと知らないのとでは踊るうえでの厚みが違うんだよ、とリハーサル中もお話を聞く時間がかなり多かったです。とても興味深くて楽しい時間でしたが、一方で踊りも練習しないと…と思いながら聞いていました(笑)

友佳理さんだけでなくニコライ・フョードロフさん(ボリショイ・バレエ元プリンシパル)からも教わることができて、貴重な機会だったと思います。

 

ミルタは2幕、突如出てきて一人で踊りだしますよね。

本番はほどよい緊張感で舞台に出たんですが、パンシェ(注:片脚を上げ、上体を脚を上げた方向の反対側に傾ける動き)をする瞬間に手が震えたことを覚えています。

「ジゼル」は明かりが暗めで客席もあまり見えなかったので、まるで文化会館の舞台空間に一人でいるような、いつもと違う不思議な時間でした。

それから、ミルタはずっと飛んでいて体力が必要な役なので、しんどくなってからそこからもう一声、動けるかどうか。本番ではそこまで頑張れたかなと思います。

 

「ジゼル」より向かって右手がミルタ役の政本
photo:Kiyonori Hasegawa​​​​​

 

踊り以外でも小物(小道具)にも気を遣うのが少し大変です。実はミルタの持っているローズマリーは2パターンあって、折れる仕掛けがついているものがあるんです。仕掛けを使っていないかのように折らないといけないですし、とくに「ジゼル」は静かで、私一人しかいない、失敗ができないという緊張感がありました。

 

――生の舞台ならでは、ですね。

百合の花を投げる練習もたくさんしました。案外、利き手のほうがうまくいかなかったりするんです。劇場入りして実際に舞台に立ってからでないとわからないこともたくさんあります。

 

もう一つ演じたバチルド姫だとネックレスが最重要アイテムなので、一番に首にかけてスタンバイしていました。「ねむれる森の美女」リラの精もそうですし、なんだか小物を持つ役が多いですね、使った後きちんと戻しているか舞台の前に確認したりと、踊りと同じくらい気を遣っています。

 

――話は変わって、2020年の自粛期間はどのように過ごされていたのでしょうか。

正直、最初はどうすればいいかわからない状態でした。

まだ感染症の情報が錯綜している時期で、どこでどのように感染するかもわからない。できるだけ外出しないように、買い物もすぐすませて……という感じでした。

最初はランニングもやっていたのですが、当時は運動中はマスクを外してもいいという話も出ていてどうすればいいかわからなかったのと、そもそもあまり性に合わなくて、続きませんでした(笑)

 

はじめはいろんな人がやっているオンラインレッスンを好きな時間に受けていたのですが、山本康介さん(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)が毎日11時からレッスンをしてくださっていたので、それを受けていました。

バレエ団にいると決まったスケジュールがあってある程度そこで律することができますが、一人だと生活リズムを決める必要があると感じて。康介さんのレッスンのおかげで、早めにそのリズムができたのはよかったと思います。

 

そんな感じでほぼ家の中で過ごしていましたが、5月の最終週からバレエ団のスタジオが開放されて、毎日通いました。月曜日はスタジオで踊れることがまずうれしくて。でもジャンプはやめておいて、翌日のレッスンに軽く入れたんです。そうしたら水曜日はふくらはぎがものすごく痛くなって、歩くのがやっとくらい。ふくらはぎって第二の心臓といわれているくらい大切な部位ですよね。木曜日はスタジオに来ただけでえらいよねと他の団員とお互い褒め合うくらいのレベルで…

家でもやっていたつもりだったのに、これほどに落ちるものなのか、とショックでした。

 

さらにもう一つショックだったことがあって、6月の頭にかかりつけの治療院に2か月ぶりに行ったんです。その時は特に何も言われなかったのですが、6月後半くらいに再度行ったら「筋肉が戻ってきたね、よかったね」といわれて……そんなに落ちてたんだ、とそこでもまたショックを受けました。

 

――身体はすぐ変化してしまうんですね……そんな状態から、バレエ団の公演まで身体を戻しました。

(バレエ団が再開して最初の公演となるはずだった)『子どものためのバレエ ねむれる森の美女』が延期になった時は一番落ち込みましたね。

再開時の、筋肉が落ちていた状態から約2か月積み重ねて、やっと動けるようになったのに、ここからまた戻ってしまうのか、その先も予定は組まれているけれど、本当に公演ができるのか……という不安がバレエ団員の中でもあったと思います。

初めてPCR検査を受けた時も、結果が出る日は何も手につかないくらい不安でした。精神的にはその時期が一番つらかったですね。

 

でもそこからは予定通り公演ができて、本当に良かったと思っています。

 

 

「ドン・キホーテ」よりメルセデス役
photo : Kiyonori Hasegawa

 

――普段から行っているトレーニングを伺いたいのですが、よくピラティスをされているそうですね。

数年やっているのですが、とても自分に合っていると思います。

人によってはレッスンだけで身体を使いきれる人もいると思いますが、私はそうではなくて。レッスン中に先生にいただいたアドバイスを完全に理解しきれていなかったと思います。レッスンだとやはり流れがあって、コーディネーション(手と足の動きや身体の向きの組み合わせ)があるので、一つのことに集中することはできないんです。

それに対してピラティスは一つの部位に特化してトレーニングができる。寝転がって動かしたりもするんです。そうすると、この部位はこういうアプローチをすると動く、この部位とこの部位はつながっているんだというのがわかるようになりました。

でもこの数年やってきて、結果につながってきたと感じるのは去年になってからかもしれないですね。頭で理解しても、実際に動かせるようになるのはまた別の段階です。時間がかかるなと思います。

 

それから自粛期間中に偶然、知り合いに誘われてオンラインでジャイロトニックのトレーニングを受けて、そこでパンシェの練習をしたんです。

私はあまり身体が柔らかいタイプではないので、脚がものすごく上がるわけではないのですが、そこで教わった脚の上げ方が、ジゼルのミルタで活きました。

その時はそう思っていなくても、いつか役立つことがあるのだと思いました。

 

――そういう風にしてバレエを踊るうえで役立つことがあるのですね。トレーニング以外にも普段気を付けていることはあるんでしょうか?

もちろんプロテインやアミノ酸などサプリメントを取ることはやってますが、実は数年前まではぎっくり腰やぎっくり首をよくやっていたんです。

一度、本番の数週間前に少し遠くの洗濯物を取ろうとした瞬間にぎっくり腰になって、それからは本番前には洗濯物を取り込まないようにしています(笑)

日常生活での怪我で舞台に立てなくなることほどもったいないことはないので、気を付けています。自転車の出会い頭だとか、階段は人通りが多いと待ってから降りたりとか。

ぎっくり腰やぎっくり首はピラティスを始めてからはならなくなったので、ピラティスのおかげかなと思います。

 

「ドン・キホーテ」ジプシーの娘役
photo:Kiyonori Hasegawa

 

――日常生活から気を付けている、緊張感の持ち方がすごいです。今は金森さんのリハ―サルの最中ですね。

金森さんの振り付けは数学的だと思います。最初に説明を聞いたときは完全には理解できなくてあとから調べることも。金森さんの発想や思考回路に驚くことが多いです。

私はカウントに従って動いているだけなんですが、その様子を撮影した動画を見せてもらうと、とても美しい光景が広がっている。それがすごいなと思います。

振付家の方によっては感覚的で、音楽の流れにのってこんな感じで、という抽象的な指示を出される方もいます。それと比べると金森さんの振付はとてもクリアです。

ただ、バレエはカウントで動いてはいけない、音楽にのらないといけないという教えが強いので、なんだか決まりを破っているような気持ちになりながら、今は慣れるまでは一生懸命カウントを数えています(笑)

まだ私たちも完成形がわからないので、とても楽しみです。金森さんの頭の中では3幕まで出来上がっているそうで、早く見たいですね。

 

――最後に今後の抱負をお願いします。

コロナ禍もありながら、様々な役に挑戦させていただけていることに本当に感謝しています。バレエ団に入団して何年も経ちますが、こうして良い役をいただけるようになって、ダンサー冥利につきます。これからも現状に満足することなく、高みを目指して頑張りたいです。

踊りはもちろん、身体のことや(先ほどの話に出た)日常生活にも気を付けることは、プロとして当たり前だと思ってやっています。

お客様はお金を払って観に来てくださる。それに値するだけのものをしっかりとお見せできるように、これから先も頑張りたいです。

 

政本絵美(東京バレエ団ソリスト)

香川県高松市出身。4歳よりバレエを始める。2009年、東京バレエ団入団。

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次回出演予定の「カルメン」/「スプリング・アンド・フォール」公演ページはこちら

※出演者は2月19日時点での予定です。変更になる場合がありますのであらかじめご了承ください。

 

★あわせてチェック

ダンサーの声(1)金子仁美

ダンサーの声(2)井福俊太郎

 

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