プロジェクト概要

 

 はじめまして、相馬一平と申します。これまで、息を吹き込むだけで動作する、音響技術を用いた喀痰誘発のための医療機器、「ラングフルート」の発明者のSanford Hawkins氏とともに、12年ほど、ラングフルートの日本国内での市場開拓、製造販売を手掛けてきました。

 

 現在、日本国内では、結核の診断精度向上のためのラングフルートを用いた排痰誘発法の効果が認められ、保険適用も始まりました。また、国内の結核診療の指針である「結核診療ガイド」への掲載もされています。

 

 全世界では、結核のために年間160万人もの人が亡くなっています。(WHO調べ、結核ファクトシート2018より)この技術をあらゆる国での結核診断に用いることができれば、世界での活動性結核発見率を高め、感染によって亡くなっていく命を守ることができると考え、紙製ラングフルートの開発を進め、臨床研究を計画しました。

 

世界で年間160万人の人が亡くなっている結核。空気感染する伝染病で、死亡率も高く、発見が遅れるほど、本人も周囲も危険が大きくなります。「一刻でも早く発見し、一人でも多くの命を守りたい!」

 

 「世界で亡くなっている人のために、自分にできることがあると分かってから、このラングフルートの発明のためにすべてを投入しました」とはラングフルートの発明者、Sanford Hawkins氏の言葉です。Hawkins氏は、それまで勤めていた音響エンジニアとしての仕事を投げうって、ラングフルートの開発に15年を費やしました。


 Hawkins氏の天才的なひらめきから生まれたラングフルートは、息を吹き込むだけで動作する、非常にシンプルでありながら効果の高い、音響エネルギーを用いた排痰誘発器具です。

 

「たん」は結核の診断には欠かせない。

 

 

 患者さんが感染性がある活動性結核にかかっているかどうかは、「たん」の中に結核菌が含まれるかどうかを調べることで診断されます。

 

 しかしながら、今まで、結核の診断のため、検査用の「たん」を取ることは、医療現場において、実は難しいことの一つとされてきました。良質な「たん」を取ることは、ほとんどが患者さん個人の努力によるものであるため、普段から常時「たん」が出ない人、「たん」を吐き出すことの少ない人からは採取しにくいケースが多々あり、その場で採取できないことはもちろん、つばのような検査に適さない検体になってしまう、といったことが課題でした。これが医療現場では診断の遅れにつながったり、別の浸襲を伴う検査方法を用いる必要性が生じて、患者さんへの負担となっていました。

 特に結核のような感染性の強い病気の疑いがある場合、診断の遅れは、感染拡大の恐れが伴います。

 

 これまではネブライザーによって高濃度の食塩水を霧状にして吸入する喀痰誘発法が用いられてきましたが、患者さんへの負担、不快感も大きく、副作用を伴ったり、機器の消毒、管理などの課題がありました。また、細かく採痰指導を行うことも選択肢の一つですが、忙しい医療現場において、検査技師や看護師がそのためだけには時間を割くことが難しいというのが現状です。

 

 ラングフルートは電源が必要なく、持ち運びが容易で、患者さんが通常より強めに呼気を吹き込むだけで動作します。患者さんへの負担が少なく、副作用もごくわずかであることが確認されています。

 画期的な「排痰誘発法」として、日本国内では、多施設による臨床研究によって安全性と効果が確認され、現在では保険適用となり、医療現場でも徐々に採用が進んでいます。

 

ラングフルート使用例 息を吹き込んで動作します。

 

「ラングフルート」を世界の人々のために

 

 遺伝子検査などによる結核の迅速診断キットの進歩は、この数十年、目を見張るものがあり、今では、数時間もかからず、高感度で結核菌の有無を診断することができるようになりました。

 ところが、こうした検査の検体として用いられる「たん」の採取は、発展途上国では、日本などの先進国以上に難しさが伴います。

 電源などのリソースが限られている途上国では、今までこの「検体の精度管理」という課題に対してこれといった解決策がなく、「たん」が採取できなかったり、検体の質が低かったりすることで、多くの活動性結核が見過ごされ、結果として感染のコントロールがうまくいかないという状況がありました。診断技術の進歩だけでは、解決できない問題があるのです。

 

 もしラングフルート法のような簡易な方法で、検体である「たん」の質の向上が果たせれば、集団検診などにおける活動性結核の発見率が向上し、早期発見による感染の拡大抑制が期待でき、ひいては、罹患率、結核死亡率の減少が実現できる可能性があると考えられます。

 

 しかし、途上国ではリソースが限られています。現在用いられているようなプラスティック製のラングフルートでは、コストの面からも、衛生面からも(使いまわしによる感染拡大の恐れなど)こうした国での使用に耐えるとは言えませんでした。

 

 WHO(世界保健機構)も、2012年、「低リソース環境のための革新的な医療機器およびeヘルスソリューションズの綱要」にラングフルートを掲載し、より低コストで途上国でも製造できるようなものへの改良に期待感を示しています。

 

 そこで、ラングフルートの持つ可能性に早くから着目し、研究を進めてきた医療関係者の団体である喀痰誘発研究会(会長:藤田 明 東京都保健医療公社 多摩南部地域病院副院長)などの協力もあり、先般、発明者Hawkins氏とともに、ラングフルートの素材を紙として使い捨てできるように改良、開発することができました。

 

紙製ラングフルート

 この超低コストで燃やすことができる紙製のラングフルートであれば、中低所得国での活動性結核発見のための検体の精度を向上させ、結核の早期発見、迅速な対応と治療が可能となります。感染の抑制が実現できれば、罹患率、死亡率を下げることができます。

(参考動画)

 

 

モンゴルでの臨床研究プロジェクト

 

モンゴル共和国NRTL メンバーと

 そうした中、今回、喀痰誘発研究会と共同で、モンゴルでの臨床研究プロジェクトを立案しました。

 

 モンゴルは結核の罹患率が人口十万人当たり、183(ちなみに日本は13.9、2016年ワールド・データ・アトラス調べ)とたいへん結核の蔓延に苦しんでいる国といっていいと思います。ここ数年で日本からの支援もあり、国内の感染制御のための環境が整ってきました。また、検査を行うラボがウランバートルにあるNRTL(National Reference TB Laboratory)一か所であることも、検査精度を確保することに有利に働くとの判断から、モンゴルでの臨床研究を計画しました。

 

 方法としては、まずWHOの基準に従い、結核疑い患者をモンゴル国内複数施設にて選択します。目標参加患者数は300名とします。すべての疑い患者でレントゲンを撮影し、喀痰採取を①自然痰排出(A群)150名、②ラングフルート法での排出(B群)150名とし、検体をNRTLに集めます。そののち、塗沫鏡検、培養、GeneXpertにて検査を実施する予定とし、グループ間で活動性結核の発見率を比較します。つまり、ラングフルートを用いることで、従来の方法より、感染性がある結核患者をより正確に診断し、発見することができるかを確認します。

 

モンゴル共和国NRTL ラボ

 一昨年、モンゴルに臨床研究準備の視察のため、訪問させていただきました。モンゴルの医学界の特徴としては、ほとんどの医師、検査技師が女性だということです。どのメンバーもとてもまじめで、真剣に結核の感染予防に取り組んでおり、十分に整備されたラボの検査環境と相まって、ここで臨床研究を行うことができれば、信頼できる客観的データを集めることが可能だと考えられます。

 今回の臨床研究プロジェクトによって、途上国での活動性結核発見における紙製ラングフルートの有用性を確認し、学術論文として発表して、今後、モンゴル共和国内、そして世界の結核の感染制御に貢献し、結核による死亡率を減らすことが目標です。

 

 紙製のラングフルートは低コストで製造でき、ある程度の設備があるところであればどこでも作ることができるので、今回のプロジェクトから直接当社に利益が生まれることはないと考えられます。早期発見による感染の拡大予防という目的が果たされるようであれば、途上国において大きな支援となるとみて、今後途上国へは製造方法の供与や、無償もしくは製造原価での紙製ラングフルート供給を考えています。

 

結核のような感染症は国際社会の平準化実現のための大きな障壁

 

 近年、蚊を媒体とする「デング熱」などの感染症がメディアを騒がせたり、「新型インフルエンザ」の感染が世界各地で起こったりと、感染症が広がるたび、人々の自由な往来が制約を受けるということを体験します。

 

 最近、アフリカ出身の友人が久しぶりに故郷のベナン共和国に帰ったのですが、一緒に帰った子供たちは、多くの予防接種を日本で完了しておかなければ、渡航することもできないという状況でした。特に黄熱病の生ワクチンは予約が必要で、ぎりぎり渡航に間に合ったような状況でした。

 ちなみに、ベナンでも、結核の予防は喫緊の課題で、関係機関の方も関心を持ってくださったようです。途上国では、結核による死は、今でも、死亡原因の上位を占めているのです。

 

ベナン共和国結核感染予防リーダーと
ベナン共和国結核感染予防リーダーと

 現在日本や欧米での結核の罹患率は微減といえる状況が続いていますが、それは、国内に移住してくる外国人の数が増えてくることに比例して、予防接種を受けていなかったり、感染している人々(未発病でも)が国外から流入してきていることにも影響しています。すなわち、国境を越えた人の往来が活発になってきた昨今では、周辺諸国、発展途上国での結核の感染制御が自国にとっても他人事でなくなっているとも言えるのです。

 

 国際社会の平準化、その先に見える共生共栄の世界への道は、結核のような感染症の撲滅や予防のため、感染制御への取り組みが大きな課題となるのかもしれません。

 

「一刻でも早く発見し、一人でも多くの命を守りたい!」

 

 今回のプロジェクトを通じて、みなさまと一緒に途上国の人々の命を結核から守り、WHOが目標とする2030年までの「結核の撲滅」をより早く実現する力となることができるならば、大変うれしく思います。

 

 ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 

株式会社アコースティックイノベーションズ 相馬 一平

 

<クラウドファンディングで集めた資金をもって実施する内容>
2019年12月1日から2019年5月31日まで、モンゴル共和国内での紙製ラングフルートの臨床研究のための調査活動(症例登録目標数300名)が完了し、データが収集できたことで、プロジェクト終了とする。

<補足事項>
共同実行団体 喀痰誘発研究会 

<本プロジェクト実施に向けて>
・喀痰誘発研究会で研究計画案(プロトコル)を承認済み。
・モンゴル共和国NRTLにおける倫理委員会の承認済み。