東日本大震災12年、被災者100人で創るミュージカルを石巻圏で！

ミュージカルの出演者で、石巻日日新聞にミュージカルのこと等をコラムとして掲載してくださっている「小野　眞理」さんの記事をご紹介いたします。

※石巻日日新聞社さんには、掲載の許可を得ております。

石巻日日新聞「潮音」潮音④君がため・・・

　小倉百人一首に「君がため春の野に出でて若葉積摘む我が衣手に雪は降りつつ」という歌があります。まだ親王であった光考天皇が大切な人の長寿を願って春の野草を摘み、贈る際に添えた歌だそうです。

　”あなた”のために摘んだという動作が澄んだ柔らかな語気で詠まれており、その表現の美しさに心を惹かれました。きっと作者はとても優しい心をお持ちの方に違いないとお慕いし、この歌を大好きになりました。高校時代在籍しているかるた班（競技かるた）では、「この札は絶対に渡さない！」が私のポリシーでした。

　震災発生からこれまで、様々な支援や応援をいただくたびに感謝しながら、ふと「人の優しさはどこからくるのか」とおもんばかる時があります。もしかしたら「君がため（誰かのため）を思っての行動は、ひいては自分の活動になり「今を生きる心の支えになっている」のではないかと。私自身に心当たりがあります。家族のため、子供のためと思う力が湧いてくるし、誰かの役にたつと思うと無理をしても頑張れます。

　今度のミュージカルで、「山と川と田んぼと海と生きてゆくのさ、俺たち私たち」と歌い出し、「おまえがいて、俺がいて、遠くのまちに友達がいる」と盛り上がる曲があります。参加しているお父さんは本当に山に向かって歌の練習をしているのだとか。彼いわく「んだって、誰もいねがらっしゃ」って。私も畑仕事の時、大声で歌っております。一応、辺りをキョロキョロ見渡すんですよ、でも、ついついノッちゃって・・・。

　”おまえ”がいて、遠くのまちには作物を届けたい”あいつ”がいる。だから切ない気持ちを抱えつつもここで暮らし、生きている。「君がため」のように”誰か”の存在は、”俺”を動かし、生きる力になっていると思うのです。人は無意識のうちに”誰か”の存在を望んでいると感じます。

　おっと、年末の稽古中に質問が出ました。「監督、台本はまだですか？」今さらですが、ここで声を大にして申し上げたい！じつは寺本監督、何を隠そう台本を書く脚本家です。そして、楽曲の作詞作曲演奏を全て担うミュージシャンです。また、大道具、小道具、舞台美術を一手にこなす裏方の親分です。さらに、ポスター・チラシのイラスト制昨、衣装も考えるデザイナーです。そのうえ、素人をミュージカル俳優に仕立てる演技と歌の先生なのです。

　つまり、一般に監督が行うとされる職務範囲を遥かに超えて、ミュージカル全体の仕事をマルチにこなす総監督なのです！おわかり頂けましたでしょうか。その超多忙な総監督の答えはこうでした。「台本は出来て、ただいま印刷しています。素人の皆さんは稽古途中で台本の変更や修正が利きません。完璧な台本をこしらえねばならず時間がかかりました。次回渡します。そしてオーディションという名の適正検査をを致します」

　なんです？オーディションという名の適性検査？不気味ではありますが、今は台本を読める喜びのほうが勝ります。本番の日が近づいてきたのだと実感が湧いてきます。

　観劇にいらした際は、ぜひ感覚器を全開にして席におかけください。舞台と客席が一体となりホール全体で感情のやり取りをいっぱいしましょう。公演まであと５０日！頑張るぞぉ！

小野　眞理（おの　まり）

１９５７年（昭和３２）年生まれ、石巻市出身、宮城学院女子大学卒業。

歌をうたうのと野山の散策が好きな主婦で、石巻市の環境保全リーダーとしても活動している。同市鋳銭場に夫と２人暮らし。

「心の復興１３回忌ミュージカル１００通りのありがとう」実行委員幹事として、来年３月４日の公演（東松島市コミュニティセンター）に向け練習中。