福岡朝鮮初級学校の子ども達にお芝居を届けたい

今回お話を聞きに伺ったのは、福岡市南区。福岡市議会議員の成瀬穫美(なるせえみ)さんの事務所です。

成瀬さんは、教育機関での勤務や、大学の就職・進路支援センター、福岡市男女共同参画推進センター・アミカス勤務などを経て議員になられており、現在、フリースクールや不登校などの子どもたちの教育に関わることや、マイノリティーの人権問題に関することなどを中心に、多方面でご活躍されています。

 

成瀬穫美（なるせえみ）さんのHPより

 

在日コリアンの存在が身近だった子ども時代

 

成瀬さんは、福岡県の直方市がご出身。地域柄、在日コリアンの人たちの存在は、物心のついた頃から身近にあったそうです。友達に通称があったり、親たちの話を聞きかじることがあったり。それでも当時は在日の方達に対する差別的な話を聞かされることもなく、その存在に対して「なんとも思わなかった」と成瀬さんは言います。

しかし高校生になった成瀬さんは、通学のために北九州の折尾駅を利用するようになり、在日コリアンの存在を強烈に意識させられるようになります。1980年代の折尾駅は、チョゴリを着た女学生がいて、たびたび高校生同士でケンカが起こり、差別的な落書きや言葉がそこかしこに溢れており、でもそれが"日常"だったのだそうです。

 

市政報告会でジェンダー問題を考えてもらっている様子

 

「何もできなかった」高校時代

 

通っていた高校からは「相手にするな」という言い方をされる。そこに根深い差別問題が横たわっているのは分かっている。でも当時はそこに入っていく勇気も機会もなく、「何もできなかったよね…」と成瀬さんは振り返ります。

「今思えば、折尾駅で目にする現実に対して、教育とか啓発とか何もなかったですし、腫れ物に触るな的な雰囲気の中で差別を止めることもできず、自分はずっと傍観者だったという悔しい思いがあります。」と続ける成瀬さんは、「じゃあ今どうするか、と自分に問うたところで、大人になった私が折尾駅であの光景を見たら・・・やっぱり一人では何もできないと思います。」と正直に打ち明けてくださいました。そして、そう思うに至る理由を聞かせてくださいました。

 

当時の自分には差別を制する勇気も言葉も術もなかったと振り返ります

 

恐怖を感じたヘイトスピーチ

 

福岡市議会議員に立候補し、駅で手振りをしていたときに、こんな経験（成瀬護美さんのFB投稿）をしたそうです。

 

“「こら～！」と背後から大声が聞こえました。

通行の妨げになってしまったのではないかとよけた瞬間、

「こりゃ！こりゃ！」とあおり立てるような声。

身の危険を感じました。

3度目。

「コリア！」とはっきり聞き取れました。

在日外国人を差別するヘイトスピーチだと気づきました。

悲しくなりました。 ” ＜引用＞

 

女性の新人に対する蔑視。もしくは出馬政党＝在日集団 という偏見。

成瀬さんは、初めて自身に向けられた「ヘイト」を経験し、ヘイトされる側の立場や気持ちが分かったと言います。悲しいし、怖いし、腹も立つ。でも「なんで？」という気持ちが強かったそうです。

 

 

外見だけでは判断できぬことも、例えばチョゴリというわかりやすい目印があれば差別をする。でも、民族衣装は誇りを持って身に着けるもの。故郷と離れているからこその民族衣装であるはず・・・

そしてこれは、成瀬というご自身の名前の問題にも繋がると考えます。『成瀬姓』は自分の生まれながらの名前であり、この名前を奪われることは文化やアイデンティティーを奪われることに等しい、と。そうやって、ご自身の問題として、在日コリアンに対するヘイトの問題を捉えます。

成瀬さんは改めて、差別的な扱いや排他的な扱いをされる立場と自分とを重ね、朝鮮学校や在日コリアンの問題を意識してくださいました。

 

共生戦略担当と して、多様性を尊重する社会づくりについて提案する成瀬さん

 

まずは知ること

 

福岡市議会議員の議員有志として朝鮮学校を支援している成瀬さんは、市議になった2019年の夏の納涼祭で、初めて福岡朝鮮初級学校を訪れたそうです。祭りの規模や打ち上げ花火を目の当たりにして、「ここでしっかりとした社会（コミュニティ）を作ってきたんだな」「支援する人をこれだけ集めてきたというのはすごい」と、そのときの感動を話してくださいました。

現在、福岡市に対してフリースクールの認可を懸命に働きかけている成瀬さんは、朝鮮学校と出会い、コミュニティを巻き込んで周りへの理解を深めていく朝鮮学校の先生方の熱意と努力を、敬意を込めて「すごい」と言います。そして「まずは知ること。知らなきゃいけない。」と、力を込めて話されました。

 

『キャラメル』公演も、在日コリアンの歴史を"知る"機会

 

成瀬さんは、「あの頃何もできなかった罪悪感がある」と、高校時代の苦い経験から朝鮮学校の支援に関わるようになったと言います。そんな成瀬さんが、これから朝鮮学校との関係を議員としての活動に生かし、福岡市内のどんな学校の子どもたちも平等に扱われるようになるとすれば、福岡市民としてこんなにうれしいことはないと思いました。

 

深水登志子が書きました

 

＊ 成瀬護美さんからの応援メッセージ ＊

 

ここ数年の教育行政をめぐり、多様な学びが注目される一方で、独自の文化や特色を持つ一部の学びの場が様々な支援から排除されるという皮肉な現象が起きています。朝鮮学校もその中の一つです。

この国で暮らす全ての子どもたちの学びを保障するために、議論を諦めてはならないと思っています。

朝鮮学校から私たちは歴史や文化、人権、コミュニティの作り方などたくさんの気づきをいただきました。それを知った者として、世代を超えて引き継がねばならないと思っています。まずは身近なところから！今、子どもと一緒に隣の国の文化に楽しく親しませていただいています。今年の納涼祭も楽しみです！

 

福岡市議会議員　成瀬えみ