福岡朝鮮初級学校の子ども達にお芝居を届けたい

インタビュー企画の最後はやはり、劇団石(トル)です。「キャラメル」福岡公演に懸ける思いや自分たちの芸術について、余すことなく語ってもらいました。

 

コロナ禍の中で

 

1人芝居「キャラメル」の日本と韓国での巡回公演が軌道に乗り始めた頃にコロナ禍になってしまい、2020年1月の沖縄公演を最後に公演活動が止まっていました。次の福岡公演は約2年ぶりの公演となりますね。この間、公演活動が延期、中止と続いて停滞している事はもちろん残念な事ですが、一方で私にとっては「じっと考える」貴重な時間にもなりました。

実はこの作品は公演ごとに小さなトラブルが続いていて、事が起こる度に「これはハルモニからのなんらかのサインやわ」「抗ったらあかんわ、流れに従お」「ピンチはチャンス」とスタッフも私も機転と笑いと相手への配慮をフル活用して何とかかんとか乗り越えてきて、コロナは「何が来ても、ゴリ押ししたらあかん。頭柔らかく、発想の転換を」と自ずと思うようになった矢先の事でした。

そしてこの「ハルモニたちのサイン」や「しなやかな表現」「生きるための芸術」について「私のできる事としたい事」を振り返る時間ができました。うまく言葉で表現できないけど、それは誰にでもある平凡な気づきでもあったし、今後私の作品を深める貯金箱みたいなものですけど。

経験上、作品を寝かせるとその作品が生きていたら必ず発酵するということがあります。寝かせていた「キャラメル」の台本を開けるとすでに懐かしいいろんな事を思い出しました。

福岡の皆さんにこの2年を経た「キャラメル」がどんな風に発酵しているか、私の表現がどんな風に変わっていないか、立ち会っていただけると思うとありがたいです。

 

ハルモニたちを、芝居の力で

 

そして「キャラメル」は、私が子どもの頃住んでいた下町にいたであろう人を生き還らせようとしました。慰安婦被害ハルモニの話ではあると同時に、教育なんぞ受けることもできなかった、人間の最低限の営みを辛うじて過ごした人たちの話です。

時代にむちゃくちゃにされてしまった柔らかい命の尊厳を取り返すために、現代の私が心を尽くして舞台を準備し、ハルモニたちの魂が自分で帰りたいところに帰っていき、お客さんの愛がそれを見届け寄り添ってくれることで、痛かった魂が時代を経て少しは癒されるという儀式に近い作品です。

 

故郷に帰してあげたかった

 

確かに「そこに生きていた」ことをハルモニたちは語れなかった。そのハルモニたちの気持ちを思う存分代弁してあげたい。それがこの作品の作家としての私の一番の仕事だと思っています。

そして、本当は帰りたかった故郷に帰してあげること。実際、帰りたい気持ちを押し込めたまま亡くなっていくハルモニたちはたくさんいます。私のハルモニも両方そうでした。教育も何もないとこで、日本の暮らしに馴染もうと必死で生きてきた挙句、故郷を徐々に諦めるしかなかった。だけど舞台では本当の気持ちを蘇らせてあげられるんじゃないかと。

そしてそれは、私たちが忘れてきた何か大切な事を思い出させて次の生き方のヒントや糧にもなるんじゃないかと思うんです。

 

人間力

 

やっぱり人は人とちゃんと会って、話して、心通わせる生き物。今はそのためにじっと考える時間なのかもしれません。

私たちは何でもありすぎる分、何かが欠けた時の恐怖感が大きい。だけれども、そこをグッと踏みとどまって、この寂しさの深さを体に入れてまた人に会えば、一人一人を丁寧に思うことができるんじゃないでしょうか。

私たちの芸術は人間が本来の力を取り戻すための娯楽でありたいなと思うし、自分たちの心を合わせて“人間力”を豊かにできるような時間を一緒に過ごしたいなと思います。

 

心を込めて

 

クラウドファンディング、すごいですね。たくさんの方が想いを寄せて下さった！私もしっかりポジションを守ります。ホームランやハットトリックはできませんが、きっと温かい気持ちになっていただけると思います。

たくさんの人が朝鮮学校を支え、劇団石(トル)の芝居に期待してくださって、そこに寄り添わせてもらえる幸せを感じます。あぁ、人と一緒に生きてるなぁと。

そして公演のためには、たくさんの方が時間や労力を使って苦労して下さり、お客さんや子どもたちはその時を楽しみに待っていてくださる。その有り難さをしっかりと噛み締めています。

こんなにも大変な状況の中で、力を合わせてくださったお一人お一人の想いを決して無駄にしないように、泣いて笑って明日元気になれるお芝居を心から準備したいと思います。

 

観に来てくださる人へ

 

こんな時だからこそ、出会って心を通わせる生のお芝居を見ていただきたいです。世の中に一石投じるその石が、その岩が、たくさんの出会いや川の流れによって、最後は平和の粒になることを願います。

お互いに違う私たちがお互いの生き方を認め合って共に生きていく。そのためのお芝居を目指しています。心にトントンとノックして、大丈夫？ご飯食べた？と思い合える社会を信じています。

人が好きです。ここに生きているから一緒に笑いたいです。それぞれに違う私たちが一つの社会に生きて一緒に学び遊ぶことの豊かさと尊さを、私たちは最初から知っている。そのことを体力が続く限り舞台で表現していこうと思います。

きむきがん

 

100％のきむきがん

 

私の役目は100％のきむきがんを舞台にあげること。裏方として、実行委員会の人たちと共に役者に最適な舞台を準備することが使命です。

福岡の皆さんがこれまでの延期にも関わらずすごい持久力で準備して下さって、ウリハッキョも私たちも、日本の人たちがこんなにも想ってくださることへの感謝があり、お互いに立場を超えて自分たちのこととして取り組めることが有り難いです。

この感謝の気持ちは舞台でしか返せない。観てもらって、次につながってくれることが、我々の使命。つまるところ、100%のきむきがんを舞台にあげるということが私の使命です。

こんきじゃ

 

劇団石(トル)「キャラメル」福岡公演

 

劇団石(トル)・きむきがんが2年ぶりに福岡で演じる渾身の作品です。

ぜひこの機会をお見逃しのないようにお願いします。

 

【福岡朝鮮初級学校創立60周年記念支援事業】

2021年 10月16日（土） 13:00開演（12:00開場）

会場：コミセンわじろ 

　　　福岡市東区和白丘１丁目22-27

　　（JR鹿児島本線福工大前駅5階）

問い合わせ：劇団石(トル)福岡公演実行委員会

　E-mail narayun.okinawa@gmail.com

　電話 080-8121-6355（留守電対応）

入場料：全席自由 ※小学生以下入場不可

　□前売：2500円

　□当日：3000円

　□障がい者・その介助者：1500円

　（車椅子の方は事前に御連絡下さい）

　□中・高・大学生：1500円
※ 前売り券の予約は以下のサイトから↓

心を合わせて“人間力”を豊かにできるような時間を一緒に過ごしましょう。

たくさんの方々のご来場を、心よりお待ちしています。

 

深水登志子が書きました