プロジェクト概要

 

大海原を雄大に泳ぎ、時にはアクロバティックな動きを見せるザトウクジラ。

2015年11月に、羽田空港から飛行機で55分の”八丈島”で多数その姿が確認されるようになりました。

 

 

八丈町と東京海洋大学が共同で冬季に調査を行ったところ、2015年以降も毎年八丈島周辺にザトウクジラが来遊していることが明らかになっています。

 

海洋環境は常に変化しています。ザトウクジラが八丈島に現れた謎を解明することで、クジラを巡る環境の変化を予測し、海を利用するヒトとクジラの生活を守ることができます。

 

ヒトとクジラの共存を目指す東京海洋大学と八丈島の共同プロジェクト。ザトウクジラの生態の解明に迫ります。


▼八丈島で確認したザトウクジラの動画です。複数の個体が遊泳している様子をご覧いただけます。


 

生物の進化の不思議に魅せられた研究者:
クジラの祖先は陸上を歩行していた!?

 

私は、国立大学法人東京海洋大学の鯨類学研究室で助教をしています、中村玄(げん)と申します。


2005年(平成17年)に、旧東京水産大学*でクジラを対象にした卒業研究を行ってから早13年、鯨類の形態学(形の違い等を明らかにする学問)と生態学(分布や回遊を調べる学問)を中心に研究をしています。

*平成15年10月に、東京水産大学と東京商船大学が統合して、東京海洋大学となりました。

 

若くて元気な学生・大学院生らとともに、現在もクジラの調査研究を行っています

 

クジラの祖先は、今から約5,300万年前(恐竜が滅びてから1,200万年ほど経った頃)には陸上を歩行していました。その証拠に、クジラの体内には小さな足の痕跡(骨盤痕跡)があの大きな巨体に埋め込まれる形で残っています。おそらくですが、クジラの祖先は陸上では強い存在ではなかったのでしょう。海に生活の場を求め、劇的な進化を遂げたことで完全な水棲適応を果たしました。

 

哺乳類は現在4,300種ほどが知られていますが、完全に水棲適応を果たしたのは鯨類(クジラの仲間、約90種)のみです。流線型の体や尾びれの獲得など体の形を変え、広い海原を泳いでいます。さらには我々よりはるかに巨大な仲間が多く、史上最大の動物であるシロナガスクジラなどもいます。

 

私は、長い時間をかけて(とは言っても進化の歴史からすればほんのわずかな時間ですが)体の形をドラマチックに変えた鯨類に対して、生物の進化の不思議を感じています。

 

これまで、クジラを求めて、北は北極海、南は南極海のほか世界各地で調査を行ってきました。北極海では、ノルウェーの商業捕鯨船に乗船し、捕獲されたミンククジラの体色や骨格を調査しました。南極海では、日本政府が実施している鯨類捕獲調査の調査員として、鯨類の調査をしました。

 

ノルウェー領スピッツベルゲン沖を遊泳するナガスクジラ。噴気の高さは13mに達する

 


常に変化する海洋環境: 
ザトウクジラ個体数の劇的復活

 

私が鯨類の研究を志してから、まだわずか十数年ではありますが、この間にも海洋の生態系が大きく変化していることを感じます。

 

その中で、特に目立つのが本研究プロジェクトの主役である、ザトウクジラの個体数の増加です。

 

北極海と南極海、正反対に位置する海域ですが、この現象は共通しています。また、この個体数の増加に伴って、生態系の変化が報告されています。

 

▼ザトウクジラとは

ザトウクジラは、ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ科に属する体長14m程度の大型の鯨類で、太平洋、大西洋、インド洋といった世界の各海洋に広く分布しています。
 

北太平洋に生息しているザトウクジラは、夏になるとオホーツク海やベーリング海のような北の海域でオキアミやニシンなどの餌を食べ栄養を摂り、冬になるとハワイ、沖縄、小笠原、フィリピンといった南の海域で繁殖、子育てをおこないます。季節によって生活する場所を変えているのです。

 

ザトウクジラは沿岸近くに集まる上、ブリーチングと呼ばれるジャンプをはじめアクロバティックな動きをするため、ホエールウォッチングの主要な対象種とされています。


ザトウクジラは、商業捕鯨により個体数が激減したことを受け、1960年代以降世界的に保護されてきました。そして1990年代後半以降になると、世界各地から個体数が急激に復活しているという報告が聞かれるようになりました。

 

人間の影響を受けて減少した生物が保護の結果、復活するのはとても素晴らしいことです。

 

しかし、すべていいことずくめというわけではありません。海洋生態系は多くの生物が複雑に関係しあっているため、特定の種類の個体数の増加もしくは減少は、必ず他の生物へ影響を与えます。

 

南極海や北太平洋の摂餌海域(餌を食べる海域)では、ザトウクジラの増加に伴って、同じ餌を食べている他の鯨類が追いやられているという報告もあります。また、人間との関係を考えると魚を巡って漁業との競合が起きたり、船舶との衝突事故などの頻度が上がる危険性もあります。

 

このように海洋生態系は常に変化をしています。今、どのようなことが起きているのか、そして今後どのように変化していくのかを予測し、適切な対策をとるための情報を提供していくことが求められています。

 

浮上したザトウクジラ

 

八丈島に突如現れるようになったザトウクジラ

 

シロナガスクジラやザトウクジラなどをはじめとするヒゲクジラ亜目に属する鯨類の多くは、毎年、夏と冬に赤道付近から極域までの大規模な移動(回遊)をおこなっています。

 

夏、極域の氷が溶けるとともに植物プランクトンが大発生し、それに伴い餌となる動物プランクトンや魚類が一気に増殖します。それらを求め、クジラは温かい海から回遊してくるのです。多くの餌を食べて十分な栄養を蓄えたクジラは、極域が氷に閉ざされる前に、温暖な海域まで回遊して子供を産み育てます。

 

夏場(4月-11月):餌が豊富な「カムチャツカ半島」で暮らす 
冬場(12月-3月):繁殖海域である「沖縄」や「小笠原諸島」に来遊し出産、子育てをする

 

これまでザトウクジラの主要な繁殖海域とされていたのは、沖縄・奄美と小笠原諸島の周辺です。毎年冬になると多くのザトウクジラが繁殖や子育てのために現れています。

 

ところが2015年の冬、沖縄や小笠原よりはるかに北に位置する伊豆諸島の「八丈島」に突如ザトウクジラの群れが確認されました。


2017年末からの約4か月半の間にも、我々調査チームは151頭のザトウクジラを確認しました。ここで出産や子育てをしていることが分かれば、八丈島は世界最北の繁殖地として認められます。

 

<”新天地”で繁殖!?ザトウクジラ NHK NEWS WEB 2018.3.16に公開されました>

 

これまで八丈島ではザトウクジラが確認されておらず、当初は一過性の出現だと考えられていましたが、2016年度(2016年11月~2017年4月)と2017年度に八丈町と東京海洋大学が共同で調査を行ったところ、毎年冬になると八丈島周辺に来遊していることが明らかになりました。

 

この要因は何か、なぜ回遊するのかについては、十分に解明されていません。季節ごとに6,000km以上を移動する理由は何か、明らかにしたいと思っています。

 

2017年度の調査風景(八丈町・東京海洋大学撮影)

 

残された疑問:
なぜ八丈島に、ザトウクジラが来るようになった?

 

2016年度以降、2年連続で冬季にザトウクジラが来遊し、その個体数も増えている可能性が示されました。これにより八丈島周辺海域へのザトウクジラの来遊は偶然ではなく、何らかの理由があることがわかりました。

 

しかし、その理由について、繁殖域の拡大、水温や海流等の海洋環境の変化、ザトウクジラの回遊ルートの変化などの複数の仮説を立てて検証を試みていますが、現時点ではデータが十分でないため証明には至っていません。

 

これらを解明し、今後どうなっていくのかについて明らかにするためには、更なる調査が求められています。

 

 

八丈島にザトウクジラが来るようになった理由を解き明かす

 

ザトウクジラの調査

 

ザトウクジラが来遊する12月から3月にかけて、月2回を目途に船舶による目視調査を実施します。また、4月以降も調査が続くため、八丈町からのサポートと合わせてさらなる調査の充実のために、プロジェクトを立ち上げました。本研究プロジェクトが成立すれば、① 調査回数の増加、② 調査員の増員、③ ドローンを用いた群組成の確認、体長推定や行動観察が可能となります。これにより八丈島周辺海域に来遊するザトウクジラをより詳細かつ正確に把握することができるようになります。

 

地元の漁船をチャーターし、約3名の調査員とともに調査を行います。個体数密度を正確に把握するため、事前に定めたコースで島を一周し、ザトウクジラを探します。主に以下の項目について調査を実施します。

 

1.個体識別調査

ザトウクジラの尾びれ腹面の形状、模様は個体により異なっているため、人間の指紋のように個体を識別する手掛かりとなります。そのため尾びれの写真を撮影することで、いつ、どこに、どの個体が現れたのかを明らかにすることができるのです。

 

2.鳴音調査

ザトウクジラの雄は、繁殖期になるとソングという鳴き声を発することが知られています。そのため本調査では水中マイクによって海中音を聞き、八丈島が繁殖海域となっているのかどうかを分析します。

 

3.遺伝学的調査

遺伝子情報は、個体の由来を知る手掛かりになります。私たちはザトウクジラから表皮組織を数ミリ程度採集し、DNAを解析することで、その個体の性別だけでなく、どの海域の個体群と親戚関係にあるのかを明らかにします。

 

4.海洋環境調査

同じ時間同じ場所に、いつもクジラがいるわけではありません。そこでクジラがいるとき、いないとき、それぞれの時刻や天気、海の状態を記録し、どのような条件でクジラが出現するのかを調べます。

 

▼2018年12月20日に八丈町と東京海洋大学が録音したザトウクジラの鳴き声(ソング)。この鳴き声の主は、この写真の個体でした。

 

 

ザトウクジラの来遊の将来予測

 

本研究プロジェクトにより、ザトウクジラの来遊状況の調査を行うことができれば、これまでの共同調査の結果とあわせて2016年以降3年分のデータを収集することができます。

 

それらのデータをもとに来遊個体数の推移(増加しているのか、減少しているのか)や、八丈島周辺海域での高密度分布域を知ることができます。また、これまでの調査では新生児を伴った個体の発見など、繁殖海域であると断定できる情報は見つかっていませんが、今後調査を継続することにより、子連れ個体の発見やそれにつながるような繁殖行動の観察も可能になると考えます。

 

 

新たな観光産業としての可能性

 

ザトウクジラは、岸の近くに来る習性があることに加え、ジャンプをするなどアクティブな種類であるため、世界的にもホエールウォッチングの主要な対象種となっています。

 

ザトウクジラが八丈島周辺海域を新たな繁殖場とした場合、今後も安定した来遊が期待され、ホエールウォッチング産業にもつながります。八丈島は、首都圏からの交通の便が良く、船や飛行機で気軽に訪れることができますので、ホエールウォッチングは島の冬季観光業を支える可能性を持っています。このとき本研究プロジェクトで得られた情報が非常に役に立つでしょう。

 

2017年度の調査風景(八丈町・東京海洋大学撮影)

 

応援メッセージ

八丈町 町長:山下 奉也

 

「花と緑と温泉の島 八丈島」にザトウクジラがやってきた

 

東京から南へ287㎞、黒潮に浮かぶ「花と緑と温泉の島 八丈島」。羽田から全日空のジェット機で55分、ザトウクジラに会いたいと思ったらあっという間に八丈島です。

 

折しも三年前を境に冬場にザトウクジラが八丈島に多く来遊するようになりました。しかも岸からとても近いところで潮吹きやジャンプ、尾びれを海面にたたきつける行動など、躍動感あふれる生態を目の当たりにすることができるのです。

 

でもなぜ急に八丈島に?小笠原や沖縄への通り道である八丈島にどのような目的で来遊するのか?岸の近くでザトウクジラを見れるだけでもワクワクしますが、新しい生態を知りたいという探求心をとても動かすプロジェクトです。

 

八丈町は東京海洋大学大学院鯨類学研究室と共同でザトウクジラの基礎調査をしており、NHKも同行取材しているのでテレビ等でもご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。平成29年度の海上調査ではのべ400頭近い発見となりました。

 

このプロジェクトによってザトウクジラの新たな生態の発見につながることや気軽にザトウクジラのウォッチングをお楽しみいただくための貴重な情報源となることを願っています。


心躍るワクワク感をごいっしょに体感してみませんか。八丈島へおじゃりやれー(いらっしゃい)。

 

 

 

ヒトとザトウクジラが共存してゆくために

 

ザトウクジラのように巨大な生物を目の当たりにできるということは、とても貴重な体験であり、海の豊かさを感じることができます。しかし、船からクジラを観察する際には環境への配慮が必要です。

 

当然ですが、ザトウクジラは野生動物であり、また子育てや繁殖活動をしている個体にとって、ヒトの存在は大きなストレスの要因となります。また多くの船が狭い海域に集まると、船舶同士の衝突などのリスクも高まります。

 

沖縄や小笠原など、古くからホエールウォッチングが行われている海域では、それぞれが独自のルールを作り、それに則ったウォッチングがおこなわれています。

 

今後、八丈島でウォッチングが盛んに行われるようになるとすると、適切なルール作りが必要となります。その際には本研究プロジェクトで明らかにされた、ザトウクジラがいつ、どこで、どのようなことをしているのかという情報が極めて重要になると考えています。

 

ヒトとザトウクジラの共存のために、大海原に生きる巨大な海洋生物の生態を解き明かす旅へ一緒に出ませんか。

 

長い胸鰭で海面を叩く(ペックスラップ)ザトウクジラ

 

税制上のメリットについて

 

東京海洋大学へのご寄附につきましては、確定申告を行うことにより税制上の優遇措置が受けられます。

 

●個人のご寄附の場合

 

所得税

 

特定寄附金(所得税法第78条第2項第2号)として財務大臣から指定されています。寄附金が2,000円を超える場合、その超えた金額が当該年の所得から控除されます。ただし、寄附金の額が総所得金額等の40%を上回る場合は、40%が限度となります。

 

 

 

個人住民税

 

居住する都道府県・市区町村が、条例で本学を寄附金税額控除の対象として指定している場合、総所得金額等の30%を上限とする寄附金額について、翌年の個人住民税額から控除されます。

 

*都道府県が指定した寄附金 (寄附金額-2,000円)×4%に相当する額

*市区町村が指定した寄附金 (寄附金額-2,000円)×6%に相当する額
(都道府県と市区町村双方が指定した寄附金の場合は10%)

 

 

●法人のご寄附の場合

 

東京海洋大学基金への寄附金につきましては、法人税法上の全額損金算入を認められている 指定寄附金(法人税法第37条第3項第2号)として財務大臣から指定されております。 ご寄附をいただいた寄附金は法人の所得から控除され、税法上の優遇措置を受けることができます。

 

 

 


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