プロジェクトの実施終了報告にあたって
ご支援を頂きました皆様へ
この度はクラウドファンディング”突如、八丈島に現れたザトウクジラ。変化する生態系の謎に迫る!”にご支援を下さりまして誠にありがとうございました!
当初、成立できるかドキドキ、ハラハラ致しましたが、皆さまの温かいご支援、ご声援とともに無事プロジェクトを成立させることができました。ここで一度プロジェクトの実施終了報告をさせて頂きます。この報告はあくまで運営会社Readyforが定めた期限内での終了報告、いわば中締めのようなものですが、研究プロジェクトは現在進行形で続いております。本報告では2018年11月から2019年4月に実施された八丈島におけるザトウクジラ調査結果の概要及び、皆様からご支援いただいた寄附金の使途をご報告させていただきます。
【調査結果概要】
2018年11月15日から2019年4月26日の間に累計36日出港しました。東京海洋大学鯨類学研究室の学生、院生を中心にした3~4名の調査員が調査船に乗り込み、八丈島を一周するようなコースで目視調査を行いました。
洋上での調査風景です。右側にある霧のようなものが、ザトウクジラの噴気で、この個体の個体識別用写真を撮ろうと調査員がカメラを構えています。
総探索努力量は125.4時間・1656.5kmでした。予め設定された航路を航行し、島の周囲のどの辺で発見が多いのかを調べたり、個体数推定をおこなったりすることを目的とした定線探索方式と、個体識別用の尾鰭腹面の写真や遺伝学的研究のための生体標本の採集を目的に、個体数の多い海域で調査をおこなう重点海域探索方式の二通りの調査をおこないました。暫定値ではありますが、合計すると271群417頭の発見がありました。
八丈島の周囲では岸のすぐ近くまで発見があり、また特に島の南側で発見が多いことがわかりました。ザトウクジラは、浅い海域を好むことが知られており、八丈島でも水深100m以浅の比較的浅い海域に発見が集中していることがうかがえます。
調査で得られた個体の写真を用いたマッチング(個体照合)をおこなったところ、今シーズンは暫定160個体分の個体識別写真が得られました。シーズン内に複数確認された個体もおり、多い個体では4回確認されました。今後、これまでの調査で識別された209個体分の写真と照合を行い、シーズン間での重複を見つける作業をおこなう予定です。
【皆様からの寄附金の使途および今後の利用予定】
皆様からいただいた支援金の使途に関してご報告させていただきます。プロジェクト成立後、大学に入金されてから、今期の調査終了まで2ヶ月足らずと短期間であったことから、今期の支出は調査員旅費、調査資材送料ならびに皆さまへのリターンが主となりました。来年度以降の調査において、本プロジェクトの命題でありました“調査の拡充”を目的とした、新たな調査技術の導入のため皆さまから頂きました資金を活用した調査の実施を目指しております。現在の構想を以下に記します。
これまで、群れ構成(個体数、雌雄、体長など)の正確な把握や、ザトウクジラたちが何をしているのか、行動を把握することが調査において課題となっていました。ドローンを用い、上空から鮮明な画像、動画データを取得することは、群れ組成の把握や行動をより詳細に記録、確認することにつながります。しかし、操縦技術の習得や運航にあたって様々な規則を遵守しなければなりません。昨年度は、操縦者を育成するための講習に参加し、操縦技術や法律についての勉強にとりくみました。来年度はここで得た技術と知識を用い、ドローンを飛行させるための各申請を行い、調査への本格的な導入を目指します。
また、ザトウクジラを含むヒゲクジラの雌雄判定は簡単ではありません。ソングと呼ばれる鳴音を出すのは雄、子供を伴っている個体であれば雌というような判断はできるのですが、そのような条件が揃うのは極めて稀です。見た目で雌雄判定をおこなうには、生殖孔と肛門の位置関係を観察する必要があります。しかし、腹面が海面上に見えることは滅多になく、船上から雌雄判定をすることは容易ではありません。そこで、水中へ投入し、周囲360度を撮影できるカメラ(Shenzhen Arashi Vision社製の360°カメラ)の導入を試みました。残念ながら今期調査では雌雄判定ができるほど近くを遊泳するクジラを撮影するには至りませんでしたが、今後もチャンスを狙ってゆきたいと思います。
今回の調査中に発見された仔クジラ
さらに、学内の水中ロボット工学が専門の先生とも共同でROV(遠隔操作型水中カメラ)の開発をおこなっています。現状では1ノット(時速1.85 km)程度しか出ませんが、将来的にクジラを追尾できるくらいの速力を持つROVができれば彼らが何をやっているのかをより明らかにできると思います。
上記のように今後、皆さまから頂きました資金をもとに、新たな視点を盛り込み、またそれらを扱う調査員の数を増やして調査を行うことで、これまで明らかにされていなかった八丈島周辺海域のザトウクジラの生態が明らかになってゆくと思います。
【リターンの発送状況・成果報告会について】
調査の最新情報は1月から3月にかけて、各調査回ごとに概要をメールにてお送りさせて頂きました。また、皆さんからのご支援でおこなった写真付きの調査レポート、壁紙、フォトブック(PDF)は5月29日にメールでお送りさせて頂きました。隊員証、冊子のフォトブックは5月末に郵送させて頂きましたが、無事皆さまのお手元に届きましたでしょうか。
また、成果報告会を8月3日(土)に開催させていただくことに致しました。下記の情報と参加登録用のURLを6月6日にメールにてご案内させて頂いております。ご参加頂ける方はお送りしましたメールのURLから登録をお願い致します。
場所:〒108-0075 東京都港区港南4-5-7 東京海洋大学 白鷹館1階大講義室
時間:バックヤドツアー 13:00-14:00
報告会 14:30-16:00
※ 調査概要のレポートやリターンが適切に届いていない場合は、大変申し訳ありませんが、下記メールにご連絡ください。一部、こちらの不手際でご連絡が遅れており、そちらは現在対処させていただいております。ご対応が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
なお、添付やURLが文中に含まれておりましたため、迷惑メールフォルダに振り分けられてしまっているケースもあるようです。ご迷惑をおかけ致しますが、ご確認のほどどうぞ宜しくお願い申し上げます。
連絡先:legenddiverteamzatoo@gmail.com
【最後に】
皆様からご支援いただいた結果、八丈島でのザトウクジラ調査は新しい領域へ挑戦することができることとなりました。自然相手の調査は一筋縄ではいかないことも多くありますが、たくさんの方に支えていただいていることを胸に、より一層ザトウクジラたちの謎の解明に尽力していきたいと思います。この活動を通して、研究資金の獲得だけでなく、多くの方々に八丈島、ザトウクジラとその研究へ興味を持っていただけるきっかけとなったことを大変嬉しく思います。改めまして皆様のご支援、ご声援に重ね重ね御礼申し上げます。今後も人間とクジラの共存を目指し精進して参りますので、末永く鼓舞いただけますと幸いです。
(鯨類学研究室 一同)