心の痛みに寄り添いたい。傾聴の働き「善き隣人バンク」発足！

高齢者の施設での過ごし方は、それぞれが異なっています。ずっとTVを見ておられる方、気に入ったアクティビティをされる方、スタッフに誘導され、リハビリに励む方、さまざまです。スタッフとの断片的な会話はありますが、聴力が衰えることもあり、テーブルを囲んで会話に花が咲くようなことはあまりありません。

ある時、お訪ねした施設に、お一人の男性がテーブルの前にじっと座っておられました。ぼ～っとしておられる様子が気になり、挨拶をして、同じテーブルに座らせていただきました。しかし、会話が進みません。それでも笑顔で、ときどき声を掛け続けると、少しずつ応答がありました。そして、若い頃の趣味や思い出をお聞きしたところ、話が急展開してきました。

この男性は、若い頃から登山が好きで、多くの山を歩いてこられました。戦後まもなく、冬の六甲山に出かけ、大雪に見舞われ動けなくなり、ビバークしたそうです。大変不安な夜を過ごされ、翌朝目覚めて外に出てみると、遠くの方からお兄様が手を振りながら、「お～い！助けに来たぞ～」と叫びながら、こちらに向かってくる頼もしい姿が見えました。

雪を掻き分け、駆け付けるお兄様を見つけた瞬間が、この男性にとって生涯忘れられない嬉しい人生の一コマになったようです。

70年ほど前の出来事ですが、まるで、お兄様の姿を、今見つけたかのように、大きな声で嬉しそうに語る男性の様子は、先ほどまで、じっと黙して座っておられた姿からは想像できないほど、生き生きとしていました。一時のお交わりでしたが、あっという間に1時間ほどが過ぎていました。