土と水を保全する農業や漁業応援プロジェクト

土と水を保全する農業や漁業応援プロジェクト

支援総額

500,000

目標金額 470,000円

支援者
35人
募集終了日
2020年8月5日

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2020年07月24日 17:14

農業と水産業の折り合いをどのように考える? その2

 ちょっと硬い文章が続きます。農業と水産業との折り合いのためには、地域での合意形成が必要です。それをどのように考えるかについて書かれています。

 ご参考になりましたら幸いです。

 元のアドレスは、

https://ynu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&pn=1&count=20&order=16&lang=japanese&creator=%E4%BD%90%E3%80%85%E6%9C%A8+%E7%AB%A0%E6%99%B4&page_id=59&block_id=74

 になります。

 

5.4.考察
5.4.1.管理目標値の設定
 第2章では,根釧地方の自然環境が酪農開発によってどのように影響を受けているかについて実態を述べてきた。具体的には,土地利用の変化とそれに伴う水生生物,流域草地土壌,河川水質の実態を把握した。
 土地利用の変化に伴って現在進行している課題としては,地域内の森林面積の減少とそれに伴う河川水質の変化がまずあげられる。また,草地酪農開発の進行により,河川流域の草地が拡大したことおよび,乳生産量を拡大させるため化学肥料と購入飼料の使用量の拡大によって流域草地土壌への物質投入量が増大した。このことも,河川水質を変化させる大きな要因となっている。
 このように,酪農開発による土地利用の変化と人為的物質投入量の発生が,根釧地方の自然環境に影響を与えている要因であると考えられる。これらのことにより,根釧地方の自然環境に何が発生したのかについて以下に述べる。
 根釧地方において酪農開発が進行するに従い,森林面積が減少し草地面積が拡大した。このことは河川流域森林面積を減少させ,河川水中溶存酸素の減少と河川水中硝酸態窒素の増加を招いた。しかしながら,河川水中溶存酸素は水産3 種基準である6mg/l を下回ることはなかったことから,流域森林率の低下による溶存酸素濃度の低下が水生生物,水産生物にただちに決定的な影響を与えているとは言い難かった(日本水産資源保護協会2006)。
 一方河川水中の硝酸態窒素は,流域森林率と流域の人為的窒素投入量によってその濃度が変化する可能性が示唆された(佐々木2009,佐々木2016)。硝酸態窒素は,土壌中の陽イオンの挙動を左右する陰イオンとされており(岡島1989),河川水中の全窒素濃度と陽イオンであるアルカリ金属,アルカリ土類金属濃度との間に正の相関関係が見られた報告(佐々木2016)もあることから,河川水中の硝酸態窒素濃度と陽イオンになると考えられる河川水中のNa,K,Ca,Mg,酸可溶Fe,酸可溶Al,アルミノン反応性Al との関係を次に検討した。

 河川水中NO3-N と河川水中K との間にはR=+0.75(P<0.05)の相関関係が見られた(Table2-9,Fig.2-5)。また,河川水中NO3-N と河川水中酸可溶AL との間にはR=+0.67(P<0.05)の相関関係が見られた(Table 2-9,Fig.2-6)。このように河川水中K と酸可溶Al に関しては,硝酸態窒素濃度が増加すると,河川水中の濃度も増加する傾向があった。
 これらのことから河川水中の硝酸態窒素濃度の上昇は,河川水中K 濃度および酸可溶Al濃度を上昇させることが示唆された(越川2004,佐々木2016)。原子吸光光度法による河川水中酸可溶Al は,河川水中に存在する全Al 濃度に近いとされている(越川ら2004)。一方, 河川水中硝酸態窒素濃度とイオン態Al とされているアルミノン反応性Al(前川ら1966)とは明確な関係が見られなかった。しかしながら,河川水中酸可溶Al とアルミノン反応性Alとの間には正の相関関係が見られ(R=+0.69(P<0.05))(Fig2-7),河川水中の硝酸態窒素濃
度の上昇が河川水中酸可溶Al 濃度を上昇させ,河川水中酸可溶Al 濃度の上昇がアルミノン反応性Al,つまりイオン態Al 濃度を上昇させる可能性が示唆された。
 河川水中のイオン態Al 濃度の上昇は,サケマスをはじめとして水生生物に大きな影響を与えることが指摘されている(橋本1989,和田ら2002,越川ら2004)。サケマス稚魚はイオン態Al 濃度が0.13mg/l を超えると半数致死量になることが実験的に確認されている(橋本1989)。今回の調査地点では,流域がほぼ森林地帯である西別川本流上流a のアルミノン反応性Al(イオン態Al)濃度は0.13mg/l,西別川本流中流b で0.18mg/l,西別川本流下流cで0.14mg/l となった(Table 2-8)。上流からの元々のイオン態Al 濃度が低くないことと,
草地酪農地帯である西別川本流中流b および西別川本流下流c,西別川支流源流部d,e,f,g,h,i の河川水中硝酸態窒素濃度が高いことが(Table 2-8),イオン態Al 濃度を高くしている(Fig.2-6,Fig2-7)可能性が考えられた。これらのことから,河川水中イオン態Al濃度を上昇させる要因である河川水中硝酸態窒素濃度を左右する要因について,検討する必要があると考えられた。
 実際に今回の調査でも河川水中アルミノン反応性Al(イオン態Al)が0.13mg/l を超える調査地点が複数確認されており(Table 2-8),河川水中イオン態Al 濃度の動向がもっとも注視すべき水質項目だと考えられる。
 そこで,水産業および自然環境への負の影響を最低限許容できる第一段階の管理目標値を設定するにあたり,イオン態Al 濃度を取り上げ,その許容限度濃度を0.13mg/l とすることとして,特に河川水中硝酸態窒素濃度との関連と土地利用,物質投入との関連を検討した。
 第一段階の管理目標値を左右する土地利用および草地管理の要因として,流域の人為的窒素投入量,流域森林率,草地土壌塩基飽和度および草地土壌交換性CaO の存在が考えられた。そこで,これらが第一段階の管理目標値にどの程度影響しているかを,重回帰分析で標準偏回帰係数を求めることによって検討した(Table 5-1,Table 5-2,Table 5-3)。その結果,第一段階の管理目標値を実現するために重要性が高い土地利用および草地管理の要因として,まず流域の草地土壌塩基飽和度および草地土壌交換性CaO がまず考えられた。その次
に河川水中硝酸態窒素濃度に大きく影響する流域森林率が考えられ,またその次に流域人為的窒素投入量が考えられた。つまり河川水中Al を減少させるために効果的な順は,草地土壌への炭酸カルシウムの散布,流域森林の回復,流域窒素投入量の抑制である。

 これらの中で,JA の草地植生改善事業による助成も存在する炭酸カルシウムの散布が,安価容易に導入でき,かつ効果も高い。流域森林の回復は,効果は高いものの森林の増加は草地の減少を意味することから土地の確保が難しい。窒素投入量の削減は,合意形成が難しく,かつ最も効果が低い。
 これらのことを考えると,現実的な優先順位としても草地土壌への炭酸カルシウムの散布,流域森林の回復,流域窒素投入量の抑制と考えられた。

 

 5.4.2.管理目標値と土地利用
 河川水中アルミノン反応性Al(イオン態Al)が0.13mg/l 以下となる河川水中酸可溶Al濃度は100mg/L 程度である(Fig.5-1)。この時の河川水中硝酸態窒素濃度は1.3mg/l であり(Fig.5-2),この時の流域森林面積は40%程度と考えられた(Fig.5-5)。しかしながら,現状の根釧地方の森林率は34-41%である(Table 2-6)。
 これらのことから,現状よりも森林面積を回復させることは,河川水中アルミノン反応性Al(イオン態Al)を0.13mg/l 以下とすることに効果があると考えられる。

 

 5.4.3.管理目標値と流域への物質投入
 同じく河川水中硝酸態窒素濃度は1.3mg/l 以下とする流域窒素投入量は,80kg/ha が限度と考えられた(Fig.5-3)。この状態の生産乳量は6311kg/ha と考えられる。

 現状では草地への窒素投入量は113kg/ha,生産乳量は7732kg/ha であることから(Fig.5-4),窒素投入量は3 割減,乳生産量は2 割減となる。このことによる地域経済への影響については次に述べる。


 5.4.4.管理目標値と流域草地土壌
 第一段階の管理目標値と設定した河川水中アルミノン反応性Al(イオン態Al)が0.13mg/l以下となる河川水中酸可溶Al 濃度は100mg/L 程度では(Fig.5-1),流域草地土壌中の㏗ 4.0酢酸アンモニウム可溶Al は,200mg/100g 乾土と推定される(Fig.5-7)。この時の草地への窒素投入量は60kg/ha 程度と推定される(Fig.5-3)。また,この時の土壌塩基飽和度は70%程度と考えられ(Fig.5-7),この時の土壌交換性CaO は400mg/100g 乾土程度と考えられる
(Fig.5-8)。
 これらのことから,特に土壌塩基飽和度を高めるために,炭酸カルシウム等のカルシウム肥料を施用することが有効であると考えられた。しかし,土壌中CaO の増加によって土壌微生物の活性化し,土壌中の有機体窒素が急速に分解し硝酸態窒素が大量に生成され,硝酸態窒素が河川に流出する可能性も考えられることから,草地へのカルシウム肥料の施用と河川水中の硝酸態窒素濃度との関連を今後慎重に探究する必要がある(越川ら2004,天北農試1984,宝示戸ら1983)。

 

 5.4.5.管理目標値と根室経済の関連
 仮に,根釧地方全体の酪農が低投入化した場合,「農業部門から各産業への生産物の販路構成額」で各部門とも4 割減,「各産業部門から農業部門への原材料等の費用構成割合」で各部門とも6 割減になることから,関連産業に与える負の影響は大きいと考えられる(Table5-4,Table 5-5)。
 一方,根釧地方全体の酪農が中投入化した場合,「農業部門から各産業への生産物の販路構成額」で各部門とも2 割減,「各産業部門から農業部門への原材料等の費用構成割合」で各部門とも3 割減になることから,関連産業に与える負の影響は低投入化よりは小さいと考えられる(Table 5-4,Table 5-5)。
 特に負の影響を被るのは、輸入飼料穀物を扱う製造業,流通業,小売業であると考えられる(農文協1978,農文協1987,畠山2009,岩崎2006,岩崎2010)。また,乳生産量の減少により影響が大きいのは流通業と製造業であると考えられる(岩崎2006,岩崎2010)。

 一方酪農経営自体は化学肥料と購入飼料という生産コストが減少することから,農業所得率の増加により実質所得の低下は小さいと考えられた(三友2000,吉野2008,佐々木2014,佐々木2017)。
 中投入化(人為的窒素投入量80kg/ha)で,第一段階の管理目標値以下を維持できることから,より現実的な対応として低投入化(人為的窒素投入量50kg/ha)よりも根釧地方地域全体の中投入化を検討してみる価値はあると考えられる。
 しかしながら上記の予想は,特に乳製品に関する国境障壁の存在と安価な輸入穀物の存在を前提にしている(岩崎2006,岩崎2010)。今後,EPA 交渉やFTA 交渉が進展すると,これらの前提が変化し,乳製品価格の下落と輸入穀物価格の上昇が発生する可能性もある(岩崎2006,岩崎2010,佐々木2014,佐々木2017)。このような状況下になった場合,穀物消費を抑制し生産コストを圧縮した酪農経営形態や,乳生産物の高付加価値化を実践する酪農経営
形態が求められていくと考えられる(吉野2008,佐々木2014,佐々木2017)
 以上の議論は,合意形成が最も難しいと考えられる窒素投入量の抑制を入口に,窒素投入量を抑制するかしないかによる各ケースの地域経済への影響についてまず論じた。しかし酪農関連産業自体の変化が可能であると仮定するならば別の考え方もありうると考えられる。
 例えば,製造業(乳製品製造業)が,チーズなどの高付加価値製品製造にシフトし,現在の買取乳価制度が飲用乳および加工乳の区別だけではなく(飲用乳の買取乳価は高く,加工乳の買取乳価は安い),チーズ用加工乳の制度を創設し高く買い取り付加価値を小売価格に転嫁するならば,地域全体の生産乳量が減少しても酪農業および製造業ともに経済的縮小は小さいと考えられる。
 その上で,①窒素投入量を抑制しない「乳生産維持型」,②窒素投入量をやや抑制する「バランス型」,③窒素投入量を大きく抑制する「高付加価値型」の3 つのケースを想定して,地域経済への影響および地域の持続的利用に向けてどのようなことが必要だと考えられるかについて以下に論じる。いずれのケースを採用するとしても,地域の経済的環境的持続性を維持することを前提として論じた。
 ①窒素投入量を抑制しない「乳生産維持型」の場合,窒素投入量は削減しない,また流域森林率も増加させないと仮定する。この場合,河川水中のイオン態Al 濃度を0.13mg/l 以下にするためには,流域草地土壌の塩基飽和度を約70%,つまり炭酸カルシウムを土壌交換性CaO を約400mg/100g 乾土以上にするまで施用する必要がある(Fig.5-6,Fig.5-8)。炭酸カルシウムを購入するというコストが生じるが,現在JA において草地植生改善運動の一環として炭酸カルシウム購入への助成を行っており,購入コストは大幅に低減できると考えら
れる。また,窒素投入量は削減しないため乳生産量は抑制されず,比較的早く河川水中Al濃度抑制の結果が見込めると考えられた。
 ②窒素投入量をやや抑制する「バランス型」の場合,窒素投入量の抑制,流域森林率の回復,草地への炭酸カルシウムの散布いずれも実施すると仮定する。また実施する流域は,流域ごとのまた草地ごとの酪農経営体ごとの実情に応じて採用できる手段を選択するものとする。この場合,窒素投入量の削減が行われるため生産乳量の抑制が発生する。しかし,③「高付加価値型」のような大きな窒素投入量の削減は,地域全体としては行われないため,生産乳量低下は小さいものと考えられ,地域経済への影響も小さいと考えられた。
 ③窒素投入量を大きく抑制する「高付加価値型」の場合,流域森林率を回復させず炭酸カルシウムの施用もほとんど行わないと仮定する。この場合,河川水中のイオン態Al 濃度を0.13mg/l 以下にするためには,流域窒素投入量を約80kg/ha まで削減する必要がある。さらにイオン態Al 濃度を低下させたい場合は流域窒素投入量をさらに削減する必要がある。
 この場合の地域経済への影響は大きいことはすでに述べた。しかし,前述したようにチーズなどの高付加価値製品製造にシフトし,チーズ用加工乳の制度を創設し高く買い取り付加価値を小売価格に転嫁するならば,地域全体の生産乳量が減少しても酪農業および製造業ともに経済的縮小は小さいと考えられた。
 また別の考えでは,①を第1 段階の取り組みとして,最終的には③のケースに移行する可能性もあり得ると考えられた。
 もう一つ考えるべきは地域の人口減少である。地域の人口減少によって酪農家1 戸当たりの飼養頭数は増加していくと考えられる。しかし、酪農家1 戸当たりの飼養頭数の拡大には限界があるため,地域内の乳牛飼養頭数は減少に転じる可能性もある。その場合窒素投入量が減少し,河川水中の硝酸態窒素,アルミニウムは減少し,水産業や水生生物への影響は小さくなる可能性が考えられた。
 このように,本研究によって地域の将来像の構築に向けて様々な選択肢が存在することが明らかになった。今後,どのような選択をしていくかについて地域住民間で意識を共有する場をいかにつくっていくかがこれからの課題である(守田1971,守山1988,村上1971,広松ら1991)。

 

 5.4.6.管理目標値と水産業との関連
 ③「高付加価値化」(人為的窒素投入量80kg/ha)は,第一段階の管理目標値である河川水中イオン態Al 濃度0.13mg/l 以下にすることを目標に設定している。しかしながらイオン態Al 濃度0.13mg/l は,サケマス稚魚の半数致死量であり(橋本1989),現状の実態ではこれ以上のイオン態Al 濃度が見られるため改善はされているものの,依然として水産業にとっては盤石な第一段階の管理目標値とは言い難い(Fig.5-1,Fig.5-2,Fig.5-3)。
 一方,低投入化すなわちマイペース酪農の地域への大幅な普及(人為的窒素投入量50kg/ha)は,河川水中イオン態Al 濃度は0.12mg/l と推定され,③「高付加価値化」よりも水産業にとってはリスクが小さくなる(Fig.5-1,Fig.5-2,Fig.5-3)。
 今回の試算では,水産業の回復による根釧地方経済への正の影響は試算されていない。河川水中イオン態Al 濃度の低下によって,水産業がどの程度回復し,どのような経済波及効果があるかについては,今後の課題である。

リターン

10,000


土と水を保全する研究成果2020

土と水を保全する研究成果2020

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支援者
34人
在庫数
50
発送完了予定月
2021年3月

10,000


ニシベツ伝記(小説)

ニシベツ伝記(小説)

今までの研究成果を小説化してみました。
架空の根釧原野に存在する、付属短期大学を持つニシベツ実業高校を舞台として、地域の課題を生徒たちが解決していく、と言ったストーリーです。

支援者
1人
在庫数
99
発送完了予定月
2020年10月

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