太平洋食堂には、懸命という僧が登場します。モデルは大逆事件で無期懲役になり、獄中で縊死した高木顕明です。

 

彼は新宮出身ではなく、名古屋から市内の浄泉寺に住職としてやって来ました。

元々、お菓子やさんが実家だった彼は住職になれず、その地位にあこがれを持っていたようです。住職にさえなれば!という間違った幻影を持って新宮に来たともいえます。

 

ところが、彼が来た当時の寺は、見る影もなく酷い有様だったそうです。明治維新前までは、新宮城主の水野家の菩提寺同等をして扱われ、庇護されていたのが、維新で

凋落。門徒も減り、貧しい地域の人が大多数となりました。

 

こんなはずじゃあなかった!夢の住職生活がぶちこわれた顕明は、貧困と差別にあえぐ周囲に次第に目を向け始めます。けれども、非常に大きな葛藤があったと、友人である沖野岩三郎の小説「彼の僧」では描かれています。

 

弔問にいった門徒の家の貧しさ、不潔さに震える我が身、南無阿弥陀仏を唱えながら、そういうものに不快さを示す自分、そういう内なる不平等を見つめながら、彼は新宮で変わりました。社会の不平等や、戦争への疑問がわいたのです。

 

 

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