つなっぐ理事 　児童精神科医　新井先生からのメッセージ

　私たちのクリニックには、ハチというリタイアした介助犬がいます。毎日、看護師とともに出勤し、一緒に家に帰ります。ハチはペットではなく、仕事をしに来ているんです。それはどんな仕事でしょう？

　怖い体験をした子どもは、病院に来たくありません。自分のことも話したくありません。なので、大切な治療が受けられなくなってしまいます。でも、ハチがいると知った子どもは、がんばって病院に来てくれます。そして、ハチを抱きしめ、笑顔になります。ハチは夢の中にも出て来て、悪い奴らから守ってくれることもあるんです。大人だって、つらい気持ちを抱えながらがんばっているひとはいっぱいいます。診察の後、「ちょっとだけいいですか？」と、ハチを抱きしめ涙を流して、帰っていきます。

 

　私はこれまで多くの虐待や、性犯罪の被害を受けた子どもたちを診て来ました。いつも困ったのは、人から暴力を受けた子どもたちが人を信じられなくなっていることでした。子ども達がそんな気持ちになるのは当然ですよね。でも、被害によっては誰もが信用できないばかりか、いつまた被害を受けないか常に怯えるようになってしまいます。学校に行けなくなったり、好きだったことが楽しめなくなったり、友達とも会いたくなくなってしまいます。そんな時にたまたま病棟で始めたアニマルセラピーの様子を見て驚きました。子どもたちが犬と遊ぶ中で、笑顔で大人に甘えられるようになったんです。このことをヒントに考えたのが付添犬の始まりです。

 

　裁判所や警察署、児童相談所で働く大人たちは、子どもたちのつらい気持ちを聞いて助けたいとがんばっています。でも、話しに行く勇気がでなくて諦めてしまう子どもはとても多いです。周りの大人も子どものつらい様子を見て、「無理をしなくていいよ。」と止めたくなってしまいます。でも、そこに犬がいると、緊張していた子どもに勇気を与え、子ども達が堂々と本当の自分の気持ちを話せるようになった姿を何人も見て来ました。これは人には出来ない犬の持つ特殊な力です。

　介助犬や盲導犬、警察犬など、人を超えた能力で働く犬の仲間に付添犬はなると思います。付添犬が、ひとりでも多くの子ども達を救えるよう、育成へのご支援をよろしくお願いします。

 

NPO法人神奈川子ども支援センターつなっぐ理事

楓の丘こどもと女性のクリニック

院長　新井 康祥　（児童精神科医）