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「ボクの映画音楽を作ってくれる人を探す」
これが今回の旅の二つ目の目的である。


五年前、「彼」の演奏を聴きに行ったことがある。オーケストラをバックに堂々とした面持ちで、バイオリンを片手にステージの上に立っていた。まだ10代だった彼の演奏・風格は、どこか暴力的な魅力があったように思う。ボクは音楽に関して殆ど門外漢だけどそんな気がした。並外れた力強さの影に、微かな繊細さが香り立っていて、そのカオス感がボクは好きだった。


ボクが映画の話を持ちかけ、彼が会ってくれるということで、ウィーンに行くこととなった。


出会いとは不思議なものである。
実は彼とは同郷で同級生。しかし入学する前から、彼はもう既に超がつく有名人として噂立っていた。彼は程なくしてウィーンに行き、ボクも転校した。在学中、ボクらは殆ど口を聞いていない。
彼は今では世界を股にかけて活躍する演奏家で、その多忙なスケジュールを縫ってボクに会ってくれたのだ。


ぎこちなく挨拶を済まして、ボクは映画制作の話を始める。緊張でろれつがうまく回らない。
彼は長い指を綺麗に組んで、ボクの話にじっと耳を傾けている。暴力性とは無縁であろう、その指からは鈍い輝きが放たれていて、ボクの意識はついつい道を逸らされる。


重々しい沈黙の後、一言目に彼は「やりましょう」と言ってくれた。「本当のリアルって作品を通してしか表現できないと思うんだよね。その物語、面白そうじゃないか。できる限りのことはするよ」と。

びっくりしすぎて、逆に聞いてしまった。
「え? どのタイミングでそう思った?」
大したギャラを払えないことも、もちろん伝えている。

「僕を必要としている人がいて、わざわざここまで来てくれたわけで、それを断る理由はどこにもない。だから最初から受けるつもりだった」と。

少し頭がクラクラした。現実を受け止めるのにしばらく時間がかかった……。


その後、ボクらはゆっくりお酒を飲みながら、何となく世間話をした。というか、しょうもない中学生みたいな話した。

そして、少し老けたなと互いに言い合った。

別れ際にボクらは握手を交わした。

ボクの手は(アルバイトの)仕事柄マメだらけで、彼の手は仕事柄ツルッとしている。
ミスマッチな握手はいい予兆を感じさせた。



まだ交渉成立というわけでは無いし、彼曰く「2年先までスケジュールがぎっしり埋まってる」らしいので、白紙に戻る可能性は十分ある。それでも期待したいなあと素直に思った。

もし実現したらどんなセッションになるだろうか。全く想像がつかない。
怖いけれど、プレッシャーでもう既に胃が痛いけれど、とてもワクワクする。

明日はポーランド経由で帰国。
あれだけ不安だった、旅も終盤になるとやっぱり寂しい……。

でも音楽を含め、向き合うべき課題はまだまだたくさんある。
映画完成までもう一息、頑張らないと。

また更新します。

角田龍一