今回は、林園長先生 × 藤本前園長先生 × 卒園生 × 卒園保護者の方の座談会の様子をお届けします。

 

70年間で卒園生は2500人。その中のお一人、増田穂(みのり)さんが本職のインタビューをしてくださり、この座談会が実現しました。懐かしい話あり、保育の話あり、「いなりもりあるある」あり。脱線して2時間にも及ぶ座談会を、ご自身のブログにまとめてくださいましたので、ご本人の許可を得て、こちらでもご紹介いたします。

それでは、ご覧ください。

 

 

 

「つながり」が育てる保育園――「いなりもり」という場に育まれて/NPO法人いなりもり保育園座談会

 

みなさんは、子どもを保育園に預ける時、何を基準に選んでいますか?東京八王子に、子どもたちの「自らやる力」を育てる小さな保育施設があります。子どもの「やってみたい」気持ちを尊重し、自主性を育む保育。園児・保護者・保育士が「つながり」の中で育ちあう保育の在り方について、園長、前園長、卒園児保護者が語りました。

(聞き手・構成/増田穂=いなりもり保育園卒園児)

 

◇クラスの名前を自分たちで決める◇

 

増田  今日はいろいろといなりもりのお話を伺えるとのことで楽しみにしています!

 

前園長  みのりちゃんといえば、流しそうめんの時の「おつゆがイマイチね!」が忘れられないわ(笑)。

 

増田  先生の出汁からお手製のおつゆを自信満々にダメ出ししたというあれですね……。

 

前園長  ちっちっちっち、って指付きだったのよ。あの時の顔まで覚えてる(笑)。

 

増田  本当に偉そうに失礼いたしました……。

 

前園長  笑っちゃう。懐かしいわ。

 

増田  流しそうめん毎年やるんですよね。私も覚えていますが、とっても楽しかったです。

 

前園長  流しそうめんはみんな喜びますよね。

 

園長  そうですね。毎年専用の雨どいを使っていて。いつか本物の竹をつかってやらせてあげたいと思っていたんですけど、昨年卒園児のご家族が竹を提供してくださって、実現したんですよ。 増田  いなりもりの思い出で私の印象に残っているのはお隣のクラス(年中・年長の縦割りクラス)の名前が「りすのぽんた」組だったことです。思い返すたびに「たぬきじゃないんだ!」って笑ってしまいます。

 

園長  最近はそこまで長いクラス名にしていないんですけど、当時はそうやって「動物+名前」がクラス名だったんですよね。いなりもりのクラス名は子供たちがみんなで考えるんです。だからたぶん、候補の時点でりすのなんとかと、たぬきのぽんた、とかが出ていたんでしょうね。それでそこを合体させようか、みたいなことになったんだと思います。

 

ほとんどの場合多数決で決めるのですが、時々そうやって間を取るようなことをするんですよ。たまに多数決で決まっても、言い張る子とかがいますよね。その中で子供たちにどうするか問いかけると、「じゃあ名前だけはこっちにしようか」とか、妥協案が出てくるんです。

 

前園長  いなりもりの子供たちがすごいのは、そうやって相手の意見を取り入れながら進めていくことですね。 増田  クラスの名前にしても、運動会の種目にしても、本当にいなりもりは、子供たちがいろいろなことを決めますよね。

 

卒園児保護者(以下保護者)  あまりにそれが自然だったから、うちの子は小学校に入って先生が決めたことをやる生活になって「お母さんすごいよ、小学校は全部先生が決めるんだよ」と自慢げに言っていました。それが大人になるということだと勘違いしていたんでしょうね。

 

一同 (笑)。

 

増田  それぐらい、自分たちで決めさせてもらっていたんですよね。そうやって自主性が育まれていったのだな、と今改めて思います。

 

園長  いなりもり保育園の園舎は昭和28年に建てられ、教室の仕切りがありません。だから、創立当初から保育は教室が開放的で見通せるオープンスペースで行っています。ちゅうりっぷ(年少)だけお昼寝もあるので、別の部屋が用意されていますが、遊ぶときは全学年一緒、たんぽぽ(年中)とすみれ(年長)はクラスも同じです。この環境の中で、子供たち同士が自然につながっていって、自主性が育まれているんです。

 

もちろん、課題は年齢別に、生活は異年齢でという方針のもと先生が指導をすることもあります。でも、いなりもりではほとんどの場面で、年長を中心に、上の学年の子が下の学年の子の面倒を見ます。年少の時はお兄ちゃんお姉ちゃんにやってもらう側ですが、そうしてやってもらっている中で、年少は漠然と大きくなったら、自分がやってあげる側になることを感じ取っていく。

 

特に年中と年長は生活が一緒なので、年長の行事やクラスの名前決めの会議を目の当たりにしています。だから、教えなくても年長になったときは、次に何が起こるのか、何をするのか、見通しを持って生活できるようになるんです。だから、子どもたちがつないでいる。それがいなりもりの自慢です。

 

増田  確かに、憧れがありました。「来年すみれさんになったら私も会議するんだ!」みたいな。

 

園長  そう。子たちは年長に対する憧れが強いんです。いなりもりでは、それが保育に反映されています。年中と年長が一緒にやることも、なかなか年中は年長がやる通りにはできません。でも、その場を共有することで確実に学び取っています。そして、次の年にその学びが生きていくんです。

 

◇憧れて、まねて、成長する◇

 

前園長  小さい子はまねをするでしょう。保育園に入るとすぐに乱暴なことばを覚える、ってあれもそう。見たりきいたりしたことをまねするんです。本能みたいなものですよ。いなりもりは教室が学年ごとに分かれていないから、そうやって一緒に生活してまねをしている間に育つんです。オープンスペース教育は20年前くらいから小学校でも導入されていますが、いなりもりではもうずっとこれでやってきたんですよ。

 

ちゅうりっぷさんも毎日部屋から出るときにすみれさんとたんぽぽさんを見ています。自然に覚えるんですよね。子どもはお母さんの言葉をすぐまねしますが、それと同じでちゃんと大きい子のまねをするんです。そうやって覚えていくから、先生の指導がなくてもいつの間にか行動するようになるんですよ。

 

いなりもりでは、行事の時は園児が役割分担をして積極的に参加します。子どもたちは喜んで活動しているうちにどんどん自分から行動するようになります。子どもたちは大人が思っている以上にいろんなことができるんですよ。

 

園長 それがいなりもりの自然な生活として、子どもたちが捉えているんですよね。とても高度なことをしていると思います。 いなりもりでは保護者の方たちもいろいろと行事に参加してくれます。そこで保護者同士がつながっていくんです。入ってきたばかりの保護者の方は年長の保護者はすごいわね、っていうんだけれども、自分たちも年長になれば、入ってきた保護者にすごいと思われているんですよ。親もつないでいってるんです。 例えば園の行事の劇遊びでは、子どもたちや先生の劇の他に、保護者も劇をします。当日参加でもできる役が用意されていて、誰でも参加できるようになっている。世話役の親御さんも、積極的にちゅうりっぷさんのお母さんに声をかけてくださったりします。そうやって、保護者も必ず新しい方を巻き込んで、いなりもりの文化を次につないでいこうとしていくれているんです。

 

◇親同士もつなぎあう◇

 

保護者  いなりもりの保護者って、気さくな人が多いんですね。行事に限らず助け合う文化がありますが、「何かあったら助けるから何でも言ってね」って言われたりする。それで聞いてみたりするんですけど、できない時ははっきりできないって言われるんです。その代わり、「これならできるけど、どう?」と代替案を出してくれたりします。結局その方が頼みやすいんですよ。だからこそ、よそよそしくなく付き合えるのだと思います。

 

前園長  保護者が交代で園児の昼食を用意するお母さん給食やお父さん給食がありますが、中にはやりたくてもできない親御さんがいたりします。赤ちゃんがいたりすると家をあけられなかったりしますから。あるお母さんが「参加できなくて申し訳ない」と言ったことがありました。それは「申し訳ない」のではなく「ありがとう」だと伝えたことがあります。「できるときがきたらやるね」と言えばいいのよ、と。できなければやらなくていいし、親も自然体でいいんですよ。 保護者  お母さん給食に参加したいのだけれど、下の子が小さくて出られないというお母さんがいると、他のお母さんが下の子を預かったりしていました。本当にできることをできる人ができるだけ、で助け合っていましたよ。

 

増田  親も自然体で付き合えるからこそしっかりとしたつながりができるのですね。

 

前園長  そのつながりがいなりもりの財産です。いまのNPO法人いなりもり保育園とOBいなほ会ができたのも、人のつながりがあったからです。いなりもりは事務員がいなかったので、園長の私が園長としての業務のほかに事務や経理も行っていました。仕事も多いし、園舎も古い、経済状態も厳しく、若い先生にバトンタッチするには大変すぎると、一時閉園も考えました。

 

増田  大変な業務ですもんね。

 

保護者  でも、いなりもりがなくなってしまうなんて悲しすぎる。そう思った保護者やOBたちが、運営部分は引き受けて、いなりもり保育園を継続しようとNPO法人化したのです。

 

園長  以来園長の業務は私が引き継ぎ、運営面は卒園生の保護者や地域の人々で構成された運営委員会が行っています。OBいなほ会は、人的・財政的な支援をしてくださっています。もう丸8年になります。

 

増田  今の状況は、いなりもりができた頃と状況が似ているのかな、と思いました。保護者の方や地域の方が保育の必要性を感じて、それぞれが積極的に協力して運営されている。

 

前園長  そうですね。いなりもりは戦後、子ども達を見てくれる人がいればもっと家事や農作業ができるのにね、ということで母親たちが地元の有志に声をかけて始まったんです。

 

◇古くても先進的な保育園◇

 

増田  親が積極的に関わったり、オープンスペースだったり、いなりもりの保育って先進的でしたよね。

 

前園長  それは専門家の先生もおっしゃっていました。

 

園長  いなりもりは「保育園」という名称ですが、あくまで「幼稚園類似施設」です。だから見学にいらした方には「簡単に言うと保育園と幼稚園が混じったような園なんです」とご説明していました。今は認定こども園ができましたけれど、幼保一元化という意味でもかなり先進的だったかもしれませんね。 増田  いなりもりは認可外の保育園ですが、認可を取らなかった理由はあるんですか?

 

園長  園児も少なくなり、先生の身分も安定させたいということで、申請に向かって動いてみたのですが、立地条件等が認可の規定に合わず、断念せざるを得ないということになりました。

 

増田  認可外ということになると運営も難しいところがあるのではありませんか?

 

園長  経済的には決してゆとりがあるとは言えませんね。保育料で全てを運営している状態なので。

 

保護者  そのあたりを少しでも力になれればと、いなほ会ではバザーをやったりベルマークを集めて資金の足しにしています。微々たるものですが……。

 

園長  認可外だからこそ、臨機応変にできることもあります。園が小さいので先生たちの意思決定も柔軟に対応できます。その日の予定になくても、天気がいいから散歩に連れていきたいな、と思ったら連れて行ったりすることもありました(笑)。

 

保護者  いなりもりは保護者が保育士だったり、教育関係者が多いんです。だから保護者同士の話の中で、他の保育園の話を聞いたりしましたが、なかなかいなりもりのようにはできない、と言っていました。

 

前園長  そうかもしれませんね。元保育士のお母様で、いなりもりは自分がやりたかったけれどできなかった保育をしている、と言ってくれた方もありました。いなりもりでの28年間、子ども達や先生方と一緒に作り上げた毎日の保育は、本当に楽しかったですよ。子どもはもちろんですが、先生も保護者も、やっぱり保育はみんなが楽しくないといけませんからね。

 

いなりもりでは基本的に見守りの保育なんです。もちろん危ないことをするときは止めたり、喧嘩で手が出そうになった時などは仲裁に入ります。でも、しばらくは見ている。自分たちで仲直りするかもしれませんから。そういう、見守る力がある先生たちが保育をしているんですよ。

 

園長  いなりもりは本当に小さな一教育施設ですが、人としての基本的なつながりがある場所だと思っています。

 

増田  やはり資金面が厳しいということで、今は築65年になる園舎改修の資金をクラウドファンディングで集めていますよね。成功して、いなりもりの保育が次の世代につながっていくといいと思います。

 

園長  そうですね。これまでも父母会のバザーや赤い羽根の助成金などで部分部分は修繕してきました。また、在園や卒園の保護者の方々にあちこち補修をしていただきながら、何とかやってきました。しかし、全体的に老朽化がすすみどうにもならなくなってきています。今回のプロジェクトをなんとか成功させて子どもたちにとっても過ごしやすい安心安全な園舎に改修できればと思っています。

 

増田  今日はお話ありがとうございました。大好きだった園の歴史が聞けて、とても楽しかったです。

 

園長  そう言ってもらえてうれしいです。また遊びに来てくださいね。 (左)林園長先生        (右)藤本前園長先生 (左)増田穂さん       (右)卒園保護者

 

 

 

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