【2011年春】

この時の私たちが、早急に取り組まねばならなかったこと。それは次の2点です。

 

1.コラーニ教授から現状のデザインで承認を得ること
2.扇子の試作品が長期間の使用に耐えうるものか確認すること

 

私は、ひと夏を想定した2カ月の間、試作品を使ってみて問題がなければ、イタリアにいるコラーニ教授に送付して最終的な確認をお願いするつもりでいました。

しかし、問題はわずか1週間で発覚しました。

 

美しい曲線を描きながらキュッとすぼまるはずの親骨の先端が、扇いだりたたんだりしている内にだらしなく開いてきたのです。宮脇賣扇庵小川様によると扇子を使っていれば多少は先が開いてくることもあるとのことでしたが、それでもこの短い期間にこんな状態になることに、私は大きなショックを覚えました。私たちが作った親骨のどこかに問題があることは、明白でした。

 

 

以前、「開発秘話5.理想的な扇子の曲線」で、和紙を使った伝統的な京扇子の基本構造について、大切な内容をお伝えしました。

 

1.親骨の膨らみ「矯(た)め」は、扇子の締まり具合を左右する大切な要素である

2.竹素材の親骨と「矯(た)め」によって、反発する和紙の力を押さえ込んでいる

 

今回、形状確認と使用評価をメインとした試作品の親骨は「ABS樹脂」からできていました。当然、繊維が縦に走る竹の物性とは大きく異なります。私たちは予め親骨に「矯(た)め」をデザインしたものの、竹とは異なる合成樹脂の親骨では、何重にも折りたたまれた和紙の強い反発力を、完全に抑え込むことはできなかったのです。

 

宮脇賣扇庵様にしても、デザイン会社様にしても、もちろん私にしても「今回の扇子」を作るのは初めての経験です。モノづくりは、多くの場合試行錯誤の連続ですが、時間と手間をかけたとしてもよいものができるとは限らないもの。自分はそんなシビアな世界に無謀にも飛び込んでしまっているということを、まざまざと思い知らされました。

 

私は、大阪のメーカーにお勤めのプロダクトデザイナー柚木勇一さんや、SNSで知り合った方々から合成樹脂に関する様々な情報を提供いただきながら、合成樹脂のメーカーや加工業者に問い合わせ、竹の物性に近い素材探しに奔走することになりました。

 

そして、素材探しをしているあいだの時間がもったいないと感じた私は、ゴムで縛って輸送途中に開かないようした試作品をコラーニ教授に送り、立体化したデザインについて確認していただいて承認を得ようと思い立ちます。

 

…それは、イタリアに向けて、発送の準備をしていた矢先のことです。

「311」が訪れました。

 

(つづく)

 

 

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